第八話 薄い本と姉と
太陽はビル群に飲み込まれ、秋空にたなびく雲は茜色から群青色へと染まってしまっていた。
夕焼け小焼けが鳴り響きだした街、子供達は手を繋いで帰っていった公園で、金属が擦れ合う不協和音を鳴らしながら男子中学生が二人。錆びたブランコに乗りながら他愛もない会話に興じようとしていた。
「同人誌持ってきたお」
『おい。今は人がいないとはいえ公共の場で肌色過多な本を徐に掲げるな非常識人間』
「そこは男子中学生がBL漫画を持っているという由々しき事態について突っ込んで欲しかったっすね」
『煩い。それにしたってだな……この本、明らかに年齢指定物ではないか。お前まだ14歳の癖にどうやって手に入れてきたのだ?』
「姉ちゃんの部屋からパクってきた!」
『な……あの恐ろしいバイオレンスJKから物を盗むとは貴様勇者か……?』
「もしバレたら鉄の処女に入れられるわ」
『バイオレンスを通り越してマジキチだな』
「だからバレる前に姉ちゃんの脳内を晒して日頃の鬱憤を晴らそうと思います」
『しかし、年齢指定のほもぉなど公開できるのか? 本作品は一応全年齢対象なのだぞ?』
「実際に中身をお見せする訳じゃねーし問題ねーって。読者様には俺達の反応をご視聴頂こうぜ」
『それならセーフ、か……?』
「セーフだよ。マジキチショタコンBLラブ女子高生の恥ずかしい脳内……暴きたいだろう……?」
『う……ここまで煽られると気になってしまうではないか。早く見せろ愚図!』
「ほいさっとな」
『……ほう、主人公は黒髪イケメンだな。中身は可愛いようだが』
「ははっ。主人公が黒髪爽やか高身長好青年だけど純粋で可愛いとか、まんま姉ちゃんの好みのタイプ……っ!?」
『……ほう?』
「な、なな……! いきなり……!?」
『ふむ……』
「うわぁぁああ!? ぎゃあぁぁぁああっ!!?」
『貴様はホラー映画を見た若い女の子か。騒ぎすぎだろう』
「お前は黙ってろ! 寧ろ何でそんな平静を保っていられるんだよ!?」
『俺は基本無表情だが』
「よしこれもう読むの止めにしよう! 中学生が読んでいいレベルじゃない!」
『まだ俺が見ているだろうが……最後まで見せろ』
「何熟読しとるん!? お前は腐男子だったんか!?」
『俺は違うぞ。知り合いの小学生にとんでもない腐男子がいるが』
「ああ……七号機の11歳腐った少年か……」
『アレはありとあらゆる物語から放送禁止な同人誌を作り上げるからな……当サイト内だとNEVERシリーズとかが標的にされている』
「黒瀬かのん様、我らが腐男子ショタが勝手に榊楽コンビの腐漫画を描いてしまい誠に申し訳ありませんでした」
『む? 俺榊楽コンビとは言ってないぞ?』
「……さ、そろそろ夕飯作らなきゃだし帰ろ〜っと」
『帰しはせんぞ。さては貴様……あの腐男子から同人誌を受け取ったな?』
「ナンノコトデスカ」
『しらばっくれても無駄だ。貴様の先程の発言は自白みたいなものだぞ?』
「シラナイ、シラナイ、オレハナニモシラナイ」
『全て吐くまで今夜は帰さないぞ』
「…………逃げるが勝ちっ!」
『なっ、おい待て! 刺すぞ!』