表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男子中学生の日常会話物語  作者: 天槻悠奈
regret katharsis編
47/50

第四十六話 人称

 洗い立ての太陽が人通りが疎らな街に注ぐ爽やかな早朝。光が遮られた薄暗い路地裏の他の誰も知らない秘密の近道を、親友二人は仲良く並んで歩いていた。



「改めて見ると一人称『俺』の奴多いよな」


『いち……にんしょう……?』


「え……ちょ、お前マジか? 一人称も知らんのか?」


『止めろ! ドン引いた目で俺を見るでない!』


「だってお前一人称も知らんて……そんなんでよく三人称視点の小説書けたよな」


『さ、三人称……? そうだ、こんな時はWikipedia先生に聞こう!』


「何でもかんでもネットに頼る駄目な現代っ子の典型例だな!」


『黙れぇえっ! ならば貴様が懇切丁寧に、且つ分かりやすく説明しろ!』


「人称というのは文法で、言語が話し手が聞き手か区別する為のもんだ」


『ふ、ふむ……?』


「一人称視点っていうのは……うん、見たほうが早いな」


 説教を遮る為ほぼ勢いで言ってしまっただけなのに、霧島が本当に説明し始めたので俺が狼狽していると、霧島は途中で説明を放棄した。

 見れば分かるとはどういう意味だろうか。霧島は何かを取り出すという様子でもなく、ただ無言で歩き続けているだけ。俺が先程の言葉の真意を図っていると、霧島はふと此方を振り向いて微笑んだ。



「つまりこういう事なんだな!」


『なっ何だ!? 今俺の心の声が漏れたぞ!? これは妖怪の仕業か!?』


「今のみたいに語り手が視点キャラ本人なのが一人称視点。語り手が視点主なんで、視点主の口調をそのまま地の文にすることができる。だから心情描写が細かくできて、読み手が感情移入し易いのが良い点なんだが、他キャラの心情描写がやり辛いのが難点だ」


『そんなもの途中で視点変えれば解決するだろうが』


「バーカ。読者が主人公に感情移入してっ時に急に別キャラに視点変わったら読者は確実に混乱すんだろ?」


『それは「我らノワール曲馬団〜おかしな少年少女達の日常」を指しているのか?』


「止めろ! 題名が長すぎて作者でさえよく題名を間違える小説をディスるのは止めろ! 異常人格者の超能力持ち少年少女の日常がテーマだったのに魔界編に片足突っ込んでる駄作をディスるのは止めろ!」


『俺より貴様がディスってるがな』


「黙らっしゃい! それに対して三人称視点は完全客観型とか幾つか種類があるんだが、大雑把に纏めればあくまでも登場人物ではない第三者が語り手となり、特定のキャラにスポットライトを当てるというもの。一人称視点では書けない周りの人物の心情描写も可能とする文法だ。ちなみにお前がやってるのは三人称一元視点。一人称をそのまま人物名に変えたような感じだな」


『俺は無意識に三人称視点を使っておったのか……む? 一人称、三人称と来たら二人称もあるのか?』


「あたぼうよ。二人称視点ってのは語り手が読み手に語りかける的なのだ。かなり特殊な形だからあまり小説には使われない」


『成る程……だが、三人称一元視点と一人称は大差ないな。これは別にどちらでも良いのではないか?』


「その辺は人によるな。だが作中で主人公以外に視点変更する場合がある時は三人称一元視点がお勧めだぞ」


『な、成る程……今回説明要素濃いな……』


「バーカ。この辺の知識は小説を書く上では当たり前だぞ。知らないお前が悪い」


『尤も過ぎて反論もままならぬ』



 軈て二人は路地裏から商店街へ抜け、朝日の眩しさに目を細めつつも並んで学校への一本道を歩いて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ