第四十一話 フラグ
まさかのナレーション付き。
研究所の普通区域は皆、壁も天井も床も全てが純白で現実味のない空間だが此処は壁が漆黒で、天上や壁に引かれた青い閃光のラインのみが視界を照らしている。
『もしもし、僕だよ。……そ、腐男子。例の件についてだけど……だからごめんって、僕だってイヴくらいのんびりしたかったさ』
本部の中でもごく一部の者しか立ち入りを許されない中枢機関の廊下を、ルリトは携帯電話片手に乾いた靴音を鳴らしながら進んでいた。
頭に赤いサンタ帽を乗せていて、もう片方の腕にお菓子入りブーツを抱えている事からクリスマスパーティを抜け出してきたのか、それともパーティの帰りか。
『で、調査結果は? ……ふんふん、やっぱりか……って、えっ……!?』
報告に耳を傾けるルリトは何となく予想はついていたとでも言いたげに相槌を打っていたが、突如驚きに琥珀の双眸を見開いた。
『そ……それって、彼が動いてるって解釈で良いんだよね? ……そう。分かった、ありがとう。後折角のイヴ邪魔してごめん』
電話を切ったルリトはいつになく神妙な面持ちで、何か思い悩んでいる様子であった。
――あの電話はこの世界においてどのような意味を持つものだったのかは今はまだ彼しか知り得ない。
『……今度は一体何が目的なのやら……最終目的が分かってる分にはまだ魔界幹部の方がいいね。彼は快楽主義者だから読めないや。これは僕だけじゃなく博士や曲馬団にも頼らないと』
ぽつりと呟き、盛大に溜息を漏らした所で困り顔のルリトを嘲笑うかのようにブブッと携帯が振動した。電源を入れると、全く予期していない人物からのメールを受信したようだ。
『由梨愛姉……?』
――こんな時間に何の要件だろうか。確か今日彼女は曲馬団のアジトでクリスマスパーティをしている筈では……
声色に猜疑を滲ませつつ、ルリトはメールの受信フォルダを開いた。
『ファッ!? ぐ、グレン兄達!? え!? 何これヤバい何でこんなにくっついてるの!? とうとうイヴにやらかしたの!? ひあぁぁぁああああ!』
そして、メールに添付されていた写真を見て思わず大声で叫んでしまったのはご愛嬌である。