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男子中学生の日常会話物語  作者: 天槻悠奈
緋咲奇譚編
30/50

第三十話 緋咲奇譚〜紅弁は朱く咲き誇る〜

 国内でもトップクラスのセレブと成績優秀者、芸能人が集う名門校翠ヶ崎(すいがさき)学園。

 小等部から大学までエスカレーターで行けるこの学園のグラウンドは運動部の数だけ存在し、敷地内には膨大な数の本がある図書塔、寮に病院、ちょっとした商店街、体育館というよりかはドームのような造りの建造物……などとても全部は挙げきれないような膨大な数の施設がある翠ヶ崎学園の総面積はとても莫大で、ゆうに東京都の三分の一分の面積を占めている。


 特に今期の生徒はレベルが高く、世界的に有名なグループの令嬢やら元華族の名門家の嫡男、超人的な記憶力を持つ天才少女などが在籍しており、苗字に色が入っているという共通点を持つ彼らは「彩色の世代」と呼ばれている。

 これはそんな「彩色の世代」の時代に学園に入学した、平凡で非凡な少年の日常である。








「心して聞け、皆の者! 今日我がクラスに転校生が来るらしいぞ!」



 中等部二年一組。クラスで一番騒がしい少女こと黄月瑠奈は教壇の上に立つと、ビシッと妙なポーズを決めながら高らかに宣言した。



「うおぉマジか!?」


「キタコレ! 流石ルナは翠ヶ崎学園の諜報員、情報が早いな!」


「男子かな? それとも女子かな?」


「なななーんとぉ! それが男子なんですよぉご主人っ!!」



 途端に沸いたクラスメイト達に気を良くしたルナは黄金のポニーテールを揺らし、某スーパープリティー電脳ガールを真似て早口に捲し立てる。ちなみにルナはボカロ厨で絶賛厨二病を拗らせている。


 ――こんな彼女が「彩色の世代」と呼ばれる生徒の一人だなんて俄かに信じ難いが、これは紛れもなく現実だ。



「ご主人誰だよ……朝っぱらからよくあんなに騒げるな……」



 そんな光景を窓際の一番の後ろの席から冷めた顔で傍観している少年はほぼ無意識にそう零した。

 このぼさぼさと寝癖がついたままの赤褐色の髪で顔を半分隠している少年は緋咲(ヒザキ)琴太郎(キンタロー)。容姿も成績もスポーツも至って平均的なTHE・凡人である。



「あら、あんたが根暗なだけじゃない」


 そんな琴太郎の呟きに返事をしたのは、隣の席の肩に着く長さのウェーブのかかったブロンド髪を編み込んでいる美少女だった。



「本当朝は低血圧よね〜。それにアンタそんなボッサ頭してるから皆に根暗と勘違いされて友達も碌にいないんだものね」


「うるせぇよ」


「痛っ」


 美少女は深緑色の瞳の中に琴太郎を映し、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 元々寝不足で苛ついていたのもあったが、その言動と態度に少し憤りを覚えた琴太郎は彼女の額を軽くデコピンする。



「ちよっとぉ! 女の子に暴力とかサイテー! お祖母様に言いつけてやるんだから!」


「アホか。こんな事で多忙な学園長に呼ぶんじゃねーよ!」



 目尻の吊り上がった翠眼で琴太郎を睨みつけるこの美少女、名は翠ヶ崎(すいがさき)奏流(かなる)という。

 ――苗字で気付かれた方もいらっしゃるだろうが、彼女はこの翠ヶ崎学園の学園長の孫である。



「何よぉ! あたしはアホじゃないわ、期末の成績上がったもの!」


「違うそういう意味じゃない! つかお前この前の期末234人中の200位だったろーが!」


「それでも前回より10位上がってますーぅ!」



 主張の内容が残念すぎるのはともかく、頬を膨らませて怒る美少女の姿は可愛らしい事この上なく、現にクラスメイトの男子も何名か頰を紅潮させて奏流に魅入っている。それと同時に彼女と対等に会話している琴太郎に嫉妬の視線が集まっている。

 だが幾ら彼女の外面が良くても、長年兄妹の如く共に過ごしてきて彼女の中身を知り尽くした琴太郎としては何も感じる事はなく、ただただ主張の内容に呆れ返って会話をする気力を根刮ぎ削がれるだけであった。


 だが我が校の男子は彼女の外面に騙されている者達ばかりのようで、男子生徒の間ではこの幼馴染は非常に人気が高い。そんな彼女と幼馴染な琴太郎はそんな男子生徒に勝手に嫉妬され、疎まれているせいで友達なんてものも碌にいない。

 ……先程奏流が言った通り、琴太郎自身の容姿や態度にも問題はあるのだろうが彼の友達が少ない理由は八割方彼女のせいだ。




「おーっす、おはよう。お前ら席にっ……!?」



 そうこうしている内にチャイムは鳴ってしまったらしく、担任が教室にやってきて一番に教壇の上に鎮座するルナを目に入れた途端出席簿を床に落とした。

 教室内が先程とは別の意味で騒めきだすが、対するルナは担任が来たというのに慌てもせず気の抜けた声で「せんせーおはよっすー」などと宣う始末だ。



「おはよーじゃないだろっ! とっとと降りて席に着かんか! お前らも静かに!」


「ふぁーい」



 我に返った担任は教壇からルナを叩き出し、そのついでと言わんばかりにクラス中を見回して注意した。

 ルナを筆頭にクラスメイト達は渋々と言った様子でそれまでの一切の行動を中断し、席に着く。元から大人しく席に着いていた琴太郎とかなるんは姿勢を正し、教壇の前に立つ担任に視線を向けた。

 全ての生徒が席に着き、教室内が粗方静かになったのを確認してから口を開いた。



「えー、ホームルームの前に一つ、どうせ黄月が散々言いふらしただろうが今日は転校生が来ている」



 誰もが予想していたであろう言葉(少しルナへの嫌味を含んでいるが)に、少し張り詰めていた教室内の空気が期待を帯びたワクワクしたものに変わる。転校生が来る直前のクラスなんて、何処もこんなものだろう。

 琴太郎は分かりやすいクラスメイト達に内心溜息を吐き、何となしに頬杖を着いて窓の外を眺めだした。

 転校生が女なら琴太郎も多少は「美少女だったらどうしよう」とか思春期の男子らしく考えていただろうが男だし、興味はない。



 ――彼に友達が少ないのは単にかなるんの影響だけではなく、普段から周りに無関心な態度ばかり取っているせいですかしている嫌味な奴と捉えられてしまう事も一因である。別に琴太郎は狙ってクール気取った厨二病キャラを演じている訳でもないし、彼をよく知る人物がそんな風評を聞けば一笑に付すだろう。


 ……キンタローはただ面倒臭がりできまぐれなアホの子だ、という言葉付きで。




「白澤、入れ」


「はい」



 担任の言葉の後に聴こえた、凛とした少年の声に教室内の空気がまた緊張感を持ったものになる。



「イギリスから来ました、白澤エミリオーシュです。よろしくお願いします」


 担任に促されるまま教室に入ってきた少年。テンプレとも思える、何の面白味もない自己紹介だが声を聞いただけで琴太郎は分かった。


 ――これは相当な美少年だな、と。


 同時に少しだけ興味を持った琴太郎が顔は窓に向けたまま視線だけで転校生を捉えると、其処には予想通りの美男子が挙動不審気味に教室内を見回していた。


 滑らかな白皙の肌に、腰元まで伸ばされた太陽光に反射する銀と見紛える白髪は後ろで括られており、穏やかで優しげな顔のパーツにすらっとした身体つき……

 ――そして血のように真っ赤な瞳が琴太郎を捉え、一瞬驚きに見開かれた後確信と喜びに満ちた視線へ変わった。



「……見つけた」



 微かに呟かれた言葉は聞こえなかったが、口元の動きから察するにアルビノの彼はそう言った。



「えー、転校生の席は……っておい、ちょ、待てって!」



 転校生は担任の言葉も、教室内が再度騒めくのも無視してずかずかと此方へ歩み寄ってくる。その間も外されない視線に、流石の琴太郎も動揺せざるを得なかった。

 それでも俺が目を逸らさなかったのは、何となくこの視線を受け止めなければならない気がしたからだ。


 軈て転校生は俺の前に立ち、互いの視線がぶつかり合う。



「……何?」



 無愛想な態度で問うと、クラスメイトの誰かが「女神VS皇帝のガチンコ修羅場だ……」と呟いた。

 琴太郎本人は突然の事態に戸惑い、警戒しているせいで無愛想な態度になってしまっただけで他意はないのだが、彼はやはり誤解されやすい体質であり、本人もそれを自覚しているのでその発言が心に突き刺さる。


 ――女神って性別おかしい事になってるぞ……つか誰が皇帝だよ。あ、いや、やっぱ何となく察しはつくので聞かないでおこう。



「緋咲家嫡男……緋咲琴太郎」



 すっかりクラスメイトの発言に気を取られている中、教えた覚えのない名前を呼ばれて僅かに動揺するが、その前に放たれた単語の衝撃の方が強くて、琴太郎は長く伸びた前髪の隙間から覗く目つきを鋭くさせた。

 この無意識の目つきの悪さがクラスメイト達に「皇帝」と呼ばれ慄かせている所以とも知らずに。



「何者だよ、あんた」



 俺達のやりとりを不安そうに見てくるかなるんを横目に、なるべく感情を込めないように眈々と問う。

 訝しげな視線を送る俺に、転校生はふっと微笑んだ。女子が向けられれば高確率で蕩けてしまう甘い笑顔だが、俺は男なので絆されはしない。むしろこの笑顔で絆されたら俺の履歴に間違いなく何かが刻まれただろう。


 転校生は無言で睨みつける俺の手を取り、両手で包み込んだ。咄嗟に振り解こうとしたがびくともしない。



「やっと捕まえた。琴太郎君」

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