第三話 ハロウィン
太陽はビル群に飲み込まれ、秋空にたなびく雲は茜色から群青色へと染まってしまっていた。
夕焼け小焼けが鳴り響きだした街、子供達は手を繋いで帰っていった公園で、金属が擦れ合う不協和音を鳴らしながら男子中学生が二人。錆びたブランコに乗りながら他愛もない会話に興じようとしていた。
『トリックアート』
「……」
『トリックアート』
「…………黒いローブに身を包んだ頭でっかちのオレンジカボチャが俺の隣でブツブツ呟いているんですがこの状況は何なのでしょう。誰か説明してください」
『俺だ、俺俺』
「詐欺なら間に合ってます」
『……だから俺だ。トリックアート』
「絵も壺も宝石も買いません」
『っだから俺だと言っておろうがこの非モテ非リア充野郎めが……! 黒目引っぺがしてやろうか……!』
「謎のカボチャの化け物が何故か貶してくるんですが」
『これ被り物外さない限り無限ループしそうだな。よいこらどっこいせっと……改めて、俺だ』
「グレンだったのか」
『その通りだ』
「某魔法学園映画の制服みたいなの着てるから気づかなかった」
『完璧な仮装が仇になったか』
「仮装って事は……ハロウィンだよな? もしかしてトリックオアトリートって言いたかったのか?」
『そうとも言うのか』
「そうとしか言わない。つかハロウィンなら『我らノワール曲馬団〜おかしな少年少女達の日常〜』でも祝うのにここで祝う必要あるか?」
『ああ……そういえばお前の姉さん仮装してたがあれってそういう事なのだな』
「通販で買ったんだとさ。お前のそれは何なん?」
『倉庫を片付けてたら見つけた』
「パクってきたのかよ!?」
『トリックオアトリート』
「おい露骨に話を逸らそうとするな!」
『お菓子クレクレ』
「クレクレ厨か! お菓子とか持ってねえよ!」
『なん……だと!? 貴様ッ! ハロウィンくらいマカロンの一個や二個用意しろよ!』
「二日に一回は作ってやってるだろ!? もうお前のお陰でスイーツ作りが特技なんですけど!?」
『エロ本漁りじゃないのか』
「おいこらやめなさい! もうマカロン作んねーぞ!?」
『全て俺が悪かったですごめんなさい』
「こういう時だけ素直に謝られても何か虚しい」