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男子中学生の日常会話物語  作者: 天槻悠奈
グレン宅編
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第二十話 十六話裏話

十話に一度やってくる、地の文ありの回。

 都会の独特なノイズが混じり合った不協和音の隨、道行く人々は誰も見向きもしない、ひっそりとした路地の隙間にすっぽりと埋まるように存在する古い洋館。

 青年は床が軋む音も気に留めないである人物を探し駆け回っていた。


 軈て青年は目当ての人物がリビングで携帯電話片手に寛いでいるのを見つけると、パアッとその表情を明るくさせた。



「あっいたいた! 団長さーん!」


「廊下を走るな、1.9m級巨人。お前この前も天井に頭ぶつけてただろうが」


 団員と呼ばれたのはなんと黒いフードを目深に被って顔を隠した小柄な少年であった。

 少年は青年の気配にいち早く気づいていたらしく、チワワがぶんぶんと尻尾を振って走ってくる幻影を纏わせながら進撃してくる青年をフードの奥に赤く光る鋭い眼光で見据え、感情を感じさせない冷たい声でぴしゃりと叱りつける。



「ご、ごめんなさい! つい……」



 その眼光に怯んだのか、それとも叱られたからか、青年はあからさまに挙動不審な態度になって頭を下げる。

 先程まであれ程激しく尻尾を振っていた幻影のチワワも心なしか耳を垂れている。



「全く……そんなに慌ててどうした、神山?」


 少年は青年の異様なビビり具合に何か言いたげだったが言葉を飲み込み、彼が廊下を盛大に軋ませて走ってきたその理由を先程より幾分か柔らかくなった声で問うた。



「えぁ、は、はい! あの、うちに居候してる子が貴方に渡したい物があるというのでここまで運んで来ました!」



 青年は少年が話し始めた瞬間ビクッと体を揺らしたが、小走りに少年の側へ向かうと脇に抱えていた段ボール箱を少年の前のテーブルに置いた。



「……グレンが?」



 差出人を知らされた時、少年が隠す事も忘れ怪訝に眉を寄せて低く呟けば青年は可哀想なくらいに身震いする。



「結構な大きさの箱だが、嫌がらせではないだろうな?」


「もう、グレン君はそんな陰湿な事しませんよ! 彼は嫌いな相手には正々堂々面罵して襲い掛かるタイプです!」



 感情の込められていない冷たい笑みを口元に湛え、冗談混じりに言ってやると青年は今までの態度はなんだったのか、頰を膨らませながらにフォローになっていないフォローをする。



「それもそれでどうかと思うが……まぁ開けてみるか」


「はい!」



 少年は今度は作り笑いではなく苦笑を浮かべ、ガムテープに手を掛けるとするするとガムテープを剥がし、段ボールを開けた。

 だが、その中身を見た途端に少年の動きが一時的に停止した。



「……おい、何だこの箱一杯に詰め込まれた常軌を逸した量のポッキー達は」


「わぁ、最近団員が集まる機会増えたので丁度良いですね!」



 よく今まで閉じていたな、と内心漏らす程ギチギチに詰め込まれたポッキーの箱を指差すと、青年は満面の笑みでまたも何処か論点のずれたフォローをする。

 彼の場合何かに気を使っているとかではなく、本音で直感的に思った事を素直に言っている。要するに天然なのだ。



「確かに最近は普段引きこもってる鬼灯や荒魔亜もアジトに頻繁に顔を出すようになったし、新団員も増えたせいで食費が間に合わなかったが、これだけあれば一ヶ月は間食代が浮くな」


「はい、良かったです! また団長さんがバイト増やす羽目にならなくて!」



 天然相手に言及しても疲れるだけだとよく知っている少年が適当に話を合わせると、青年は翳りのない笑顔でそう返す。


 だから問題はそこではないんだ、と叫びたくなる気持ちを全力で押さえ込んで、思考をずらす為適当に差出人の事を考えてみる。

 生意気で、掴み所がなくて、デリカシー皆無で、人間よりも人間らしい機械少年を。



「……ふん、あの馬鹿もたまには役に立つな」


「もう、素直にお礼言えば良いのに……」



 少年の顔には自然と笑みが浮かんでいた。今まで浮かべていたどの顔とも違う、柔らかな笑みに青年が苦笑混じりにそう言った。



 ――今度、彼奴にマカロンでも奢ってやろう。


 周りに死んだ瞳と称される程光の無い、ビー玉のような蒼空色の瞳を煌めかせて喜ぶであろう少年の顔を思い浮かべながら、少年はまた笑った。

はい、十六話最後の会話の意味はこういう事でした(笑)


団長シエルと「背の高い青年」の正体が分かった方、ようこそ黒死蝶ワールドへ……

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