第十七話 水濡れ注意
陽が半分その顔を沈めた、町の喧騒の中で一際目を引く華美な造りの高層マンション。その一室で二人の少年が集まろうとしていた。
「グレン風呂貸して」
『突然訪ねて来て第一声がそれか。全く、この寒い時期に水遊びでもしたのか? 全身びしょ濡れだが』
「――それは放課後の事だった」
『回想行くのか』
「俺が目的もなく商店街をブラブラと歩いていた所、路地裏から出てきた野良猫に唐突に追いかけられたんだ」
『何故に』
「食べ物も何も持っていないのに、何故か無我夢中に俺を追ってくる猫。俺は恐ろしくて夢中になって公園まで逃げた」
『それはそうなるな。意味も分からず追われたら誰だって恐怖だろう』
「そして逃げてる途中に足を滑らせ、バッシャーーン!」
『……』
「……不覚だった……なんと俺は噴水に落ちたのだ」
『貴様さては馬鹿だろ』
「しかも公園にいた子供達に揃って指をさされて笑われ、子供達のお母様方がそそくさと子供達を連れ俺の周囲からエスケープしていった。泣きたい」
『その光景を生で見れなかったのが物凄く悔しい』
「ドSか。ドSなのかお前。てかそろそろ風邪引きそうなんで風呂貸せや」
『何故我が家を選んだ。自分の家に行けばいいものを』
「こんなダサい話姉ちゃんにしたら一ヶ月はからかわれる」
――ピロリーン。
「……おい」
『濡れ鼠状態の霧島、撮影完了。早速この写真を学校の掲示板にお前の実名付きで投稿するか』
「うわぁぁあ姑息な真似はやめろ馬鹿ぁぁぁあっ!」
『寄るな携帯水濡れするだろうが』
「なんて日だよ今日は! 消せっ! 今すぐ消せぇええええっ!」