第十五話 一方の霧之助は
清潔感溢れる純白の室内を色とりどりの花の飾られた窓辺の花瓶が彩っている。
質素な病室の一角、戸の僅かな隙間から白衣姿の人々が担架を運んで行くのがちらと見えた。
「霧之助」
常に命と向き合わなければならないこの場所は、どうも好きにはなれない。
「ねえ、霧之助ってば」
霧之助は扉から逃げるように寝返りを打ち、その光景から目を背けた。
「……何無視してんだ愚弟がぁっ!」
「ひでぶっ!? ちょ、入院中くらい殴んないでくれる!? 俺一応病人だかんな!?」
「明日退院するでしょうが! この私がずっと呼んでるのに無視するとは良い度胸ね!」
「何たる理不尽! 訴えてやる!」
「ところで何見てたの? 巨乳ナースさんでもいた?」
「違えし……別に何でもねー」
「うっわ、フツメンが何クールぶってんのキモッ……クールぶればモテるとか思ってんなら間違いだからね? それやってモテるのは美少年だけよ?」
「んなつもりじゃねーからな!? 人前で猫被ってる姉ちゃんと違って俺は素ですから!」
「あっちの性格の方が世渡りし易いの。私はこの世界を上手く生きていく為に最善の手段を選んでいるだけ」
「ほう、偽りのキチガイハイテンションスライディング土下座ナルシスト腐女子が世渡りし易いと」
「……もう一発殴られたいのかな?」
「冗談ですちゃんと貴女の事情は分かってますお姉様! ですからどうかその拳をお納めください!」
「ふん……つかあんた小学生の頃から可愛げなくて擦れまくってる餓鬼だったよね」
「んだよ突然。俺はただ、自分らしく生きるには綺麗事だけじゃ駄目って幼稚園時代に気づいただけだよ」
「そんな怜悧な幼稚園児嫌だ……」
「あ、それと育った環境も関係してるかもなー」
「霧島家に来る前?」
「ん。今となってはどうでもいいけど」
「……あんたって人前では存在自体がギャグな癖して、私の前ではとことん無気力で無頓着で無関心で無感情だよね」
「存在自体がギャグって何なん。つか俺が多重人格みたいな言い方止めろ」
「まぁ私達二人共多重人格みたいなもんじゃん?」
「少なくとも俺は人前でキャラ作ってないかんな! どっちも素顔だかんな!」
「面倒臭いな。別に何だって良いじゃんくっそだりぃ」
「姉ちゃんの本性怖い! もう嫌だ!」