第一話 ここまでは短編とほぼ同じです
この回は以前「黒死蝶ルナの短編集」に載せたものを多少アレンジしたものです。
太陽はビル群に飲み込まれ、秋空にたなびく雲は茜色から群青色へと染まってしまっていた。
夕焼け小焼けが鳴り響きだした街、子供達は手を繋いで帰っていった公園で、金属が擦れ合う不協和音を鳴らしながら男子中学生が二人。錆びたブランコに乗りながら他愛もない会話に興じようとしていた。
『……なあ霧島』
「なんだマカロン厨」
『俺の名は無月グレンだ。それより暇だから何か話せ』
「おうふ何たる無茶振り……ってかこれ会話メインの割に前置き長くね!?」
その片方、短く狩った褐色の髪の少年霧島霧之助がガチャガチャと派手な音を立ててブランコから飛び降りると開口一番隣の少年に向けてそうツッコんだ。
『……霧島よ。これからほぼ台詞だけで読者様に俺達の日常会話をお送りするのだぞ?
場所や俺達の情報を第一話で詳しく提示しておけば読者様も今後少ない情報量でも読みやすくなるというものであろうが』
「とか言ってお前が脳内モノローグで格好つけるのが楽しいだけだろ!?」
『否定はせん』
「そこはしろよ! もう嫌だこの同級生!」
そしてもう片方のよく晴れた日の空のような髪色と瞳色をした少年、無月グレンは小柄だが薄暗がりの中で見ても人外な美しさを放つ容姿の少年だった。
光の入っていない硝子玉のような瞳は、感情を写していなくて少しばかり不気味さを感じさせる。
――さて。役者が揃いましたのでここから先は男子中学生達の会話をお楽しみください。
『どうでもいいけどマカロン食べたい』
「突然なんだよ!? てかお前学校でも散々食ってたろ!
授業中に堂々と『マカロンタワー』とかはしゃいでたせいで隣の席の俺まで先生に怒られたじゃんか!」
『マカロンを持ってきてはならないなどという校則はないぞ』
「大体の学校ではお菓子類は持ち込み禁止だかんな!?」
『なら何故二月になると俺のロッカーや机や下駄箱がチョコで溢れかえるのだろうか……? あれは校則違反じゃないのか……?』
「嫌味かよふざけんなお前チビの癖に何でそんなにモテんだよ畜生! 血涙が出る程羨ましいわ!」
『だから霧島も変態をやめればモテると言っておろうが』
「俺が変態? ハァン? ぬゎあにを言うのかなチミは?」
『テンションうざい。それとゲス顔で言うな』
「ふふふ、俺は健全な男子中学生としての務めを全うしているだけなのだよ。大丈夫俺はまだ正常さ☆」
『階段を登る女子生徒の後を付け回す奴が健全だと? 笑わせるな』
「問題ぬゎあいっ! 盗撮はシャッター音でバレるから、わざわざシャッター音の出ないアプリをインストールしたのだからな! フハハハハ!」
『それ犯罪』
「まあまあグレン殿。硬い事を言言いなさんな」
『お前キャラどうした』
「こういうのはバレなきゃ良いんだよ……」
『では俺も先生にバレないようにマカロンを食べれば良いのだな?』
「エッ?」
『バレなければ咎められる事はない。そういう事だろう?』
「エッ、ちょ」
『それでは明日からは先生の目が無い所で共にマカロンを食そうではないか。友よ』
「あ、はい……っておい! 何で俺も道連れなんだよ!」
『水臭い事を言うな。お前は今週の屋上掃除当番だろう? 屋上ならば先生も容易くは来れまい』
「それもそうだな……まあ鍵は貸すけど俺はやらんからな」
『……チッ』
後日、屋上でマカロンパーティをする為に鞄にマカロンを大量に詰め込んだグレンが荷物検査で引っかかって生徒指導室に呼び出されたのは言うまでもない。
『解せぬ』
「おい」