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新らしい日常

 それから、数日後が過ぎ、学校中の男子の悪意の視線が痛い毎日にも、少しだけ、本当に少しだけ慣れてきた。

 なにより、真田にムカつきながらも、女子と二人っきりの掃除と言うのも良いものかも知れない、とさえ思い始めていた。

 授業の合間の十分間の短い憩いの時間に、クラスの『一応友達』が俺の机の横に立ち、話しかけてくる。

 こいつは軽薄で薄情でトゲのある言葉を操る、それはもう嫌な奴なのだが、どこか憎めないところがある。

 なんとなく、中学校時代の後輩に似ていて、気がつけば友達になってしまった。

 丁度良い機会だったので、先日のホームルームの発表について、どう認識されているのか聞いてみた。

「武田。本当羨ましいよ。あんな美女と仲良く出来るなんて。実はオタクの皮を被った超能力者なんじゃないのか?」

「羨ましいと思うなら、いつでも代わってやるぞ」

「それは駄目だ。誰がどう見ても、清い男女交際だ。お前は憎いが、真田さんには嫌われたくない。それが、この学校の男子の総意だ。肝に免じておけ。もし、彼女を泣かせれば、どうなるかわかっているんだろう?」

 奴は机を軽く叩いてきた。軽くイラつく。

 そもそも、それに関してはもう手遅れだ。既に一度は泣かしている訳だが、もちろん不利な情報は伝えなかった。

「あぁ、忠告ありがとうよ」

「出来れば、お前が泣かされて、さっさと別れてしまえ!」

「それは俺の望みでもあるな。頑張ってみるよ。ところで、俺と真田の掃除はどういう風に認識されているんだ?」

「何言ってるんだ? お前も真田さんが発表した時にいたじゃないか。えっと、『わがままなのは承知です。クラスの皆さんの青春のために、私にクラスの仕事を引き受けさせてください。お願いします。一人では、少し辛そうだと思うかもしれませんね。大丈夫です。武田君が手伝って下さると言ってました。他の人は遠慮してくださいね。二人きりになりたいの……。それに、みんなが青春を謳歌する事が目標なの。私のわがままにどうかお付き合いしてください』みたいな感じかなだったかな」

 なんて、腕を組み右上を見つめうなり声交じりに、必死に思い出している、こいつの情報がどこまで正しいかは疑問だが……。

 俺の聞いた台詞とは、随分と認識が違うのは確かなようだ。彼女の『力』は本物かもしれないような、違うような……。どうなのかね?

「早くフラれろ」

 奴は、チャイムのベルに催促され、捨て台詞を残し席に戻っていた。


 放課後、つまりは二人っきりの掃除の時間に、真田にその事実を知らせてみた。

「いまさら、確認したの? 本当に救えない男ね。綱吉は、もっと他人に興味を持つべきだわ! 自分の殻に閉じこもっているから、オタクになるのよ」

 と口を尖らせながら怒っていた。

 待て。そいつは偏見だ。

 確かに、俺は陰のオタクだと自負している。だけど、行動範囲がやたらと広く、お節介焼きのオタクだっているんだぞ。

「まぁ、いいわ。私も確認できるのは発言の後なの。いいえ。誰かに聞かなくては確認する事も出来ないわ。私の言葉が、みんなにどう届いているかはコントロールできないのよ……」

 真田は何故か、視線を下に落とした。それは、一瞬の事で、

「でも、他人に興味ない素振りして、ちゃんと私のことは気にしてくれているのね! 見直してあげてもいいわよ! 一ナノメートルぐらいね」とお姫様は明るい笑顔で、家来を褒めてくれました。

 片目を瞑り、開いているほうの目の前で、親指と人差し指で隙間を作っていたのだが、明らかに一ミリオーバーしているのが気にはなったが、何も言えなかった。後が怖い。

 掃除の時間は短くなったけど、二人で話す時間は増えた。

 俺たちが学校を出る時間は、毎日十八時近くだった。それは、校内放送で帰れと促される時間でもある。

 そして、二人で掃除するようになった日から、俺と真田は一緒に下校する仲になった。

 これは、周りから勘違いされても仕方が無いか。

 女の涙なんて言う反則武器を使われての事だけど、俺の気持ちも一時は傾きかけたしな。

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