天罰?
昨日真田に冷たくしたのだから、今日はもう絡まれないだろうと思っていたのに、真田は嬉しそうに俺に絡んでくる。
軽いイジメといってもいいんじゃないか?
昨日まで、全てを見下し冷酷な口調だったのに、俺に絡む時は、それはもう嬉しそうだった。
例えば、小休止の度に、
「ねぇ。キモオタ君。今日は私が日直なの。黒板を綺麗にしとけよな!」
とか。
他にも体育の前には、
「ねぇ。そこのキモオタ!!次の体育の準備しなくちゃいけないの。お前がやってね!」
とか。
もちろん一日の締めくくり帰りのホームルーム後には、
「ねぇ! キモオタ下衆野郎。お前のために、仕事持ってきてやったわ。これから、毎日掃除当番よ。あんた一人でやらせてあげるわ!」
とか。
まぁ、輝かしい笑顔で言ってくるのだ。
俺も俺で、後悔から来る反省と言う物をしなかった。
いや、より断固拒否する姿勢をとる事にした。
だって、ムカつくだろ?
真田も暴力には訴えないみたいだしな。
もう既にクラスメイトが俺から距離をとろうとしている動きにも感づいていたし、毎回、心置きなく抵抗を試みる事にしている。
「うるせ~よ。お願い事するなら、せめて苗字で呼べよ」
それでも、弱い俺は言葉とは裏腹に、彼女の言う事を聞くしかなかった。
そんなに、俺は悪い人間だったろうか?
本来、六人一班でやる掃除当番だ。
一人でやるのは思ったよりも時間がかかる。
なんとか、掃除を終わらせるのに、一時間もかかってしまった。
遠くから、部活動をやっている連中の声は聞こえてくるものも、普通教室の辺りは人影は見えなくなっていた。
俺と、鋭い眼光で廊下から教室を覗き込んでいる人物を除いては、人の気配は感じられない。
教室のドア、地面スレスレから、顔だけを突き出し教室を覗き込んでいる人物。俺を陥れた張本人の真田の姿が見えたのだ。
そんなに苦しむ俺が見たいのか?
俺と視線が合った真田は、実に満足そうな足取りで教室に入り、やっぱり満足そうな笑顔で俺の前に立ちはだかる。軽くスッキプまでしてやがった。
とりあえず、嫌味を言う事にした。
「どうだ? 満足か?」
「えぇ。そうね」
本当に性格悪い女だな、と思ったのだが、どうも様子がおかしい。白い肌の彼女の顔は、頬の辺りだけ朱色に染まっていた。
「ゴメンなさい。二人きりになりたかっただけなの……。私、そういうの初めてで」
「なんだよ。それ。意味が通らないぞ。まさか、好きだからイジメました、なんて小学生みたいな事を言うじゃないだろうな?」
「はぁ? 本当救えない男ね!」
と一瞬俺を睨み付けるのだが。
「でも、怒るのも当然よね。ゴメンなさい。本当にどうしていいかわからなかったの」
そう言うと、真田はうつむいてしまった。今にも泣くんじゃないかと心配しまう。
ちょっと、普段のワガママな彼女とのギャップに、萌えてしまったのも事実だ。
誰も俺を責めるな。
男って奴は実に不便な生き物なんだよ。
もちろん、萌えた俺が馬鹿だった。
「あんた、私の言っている事がわかるでしょう? 理解できているんでしょ?」
そう言って、政略結婚の申し出とは知らないお姫様は大きなダイヤをプレゼントされて嬉しそうでした、みたいな笑顔と目の輝きで、俺を見つめてくる。
なるほどね。そういう事か。
高く持ち上げてから落とすと、より強い位置エネルギーが加えられる。
あるいは、スイカに塩をかけると甘さが際立つと例えてもいいし、カレーの隠し味に蜂蜜を加えると例えてもよい。
とにかく真田のもくろみはわかった。
容赦の無い女だ。
「おいおい。オタクは異人さんじゃないんだぜ? 日本語ぐらいわかるさ。あんまり、馬鹿にするなよ」
俺は、出来る限りの嫌味を言って教室を出て行った。
ちょっとした罪悪感に襲われた。
後ろでついに、真田が泣いてしまったような気がしたからかもしれない。