僕と元美女のその後
二月初旬。朝。
真田は『力』を失って、やっぱり普通の女の子として見られるようになっていた。
悪い意味で、冬休みに化けた女の子として見られている。
だけど、冬休みが終わると同時に登校してきた人物に話題を取られて、大きな騒ぎにはならなかった。
眠れる不登校の美少女。白雪姫こと、斉藤由紀だ。実は、彼女は洋介さんの妹らしい。
噂だけが大きくなっているのだろうと予想していたのだが、想像以上に可愛いかった。
照れ屋なのに笑顔は眩しい。そんな不思議な娘だ。
彼女は今から登校しても、来年も一年生らしい。
そこで、同じクラス。あるいは同学年と言うステータスを失う事が決定した男子共は、彼女との繋がりを持とうと必死だった。
嫉妬なのか親切心かわからないが、汚いハイエナ共から白雪姫を守る女子の騎士団も出来上がり、異様な繋がりが形成され始めていた。
そうだ。
俺の小さな心配。
乱暴だけど素直な、本当の真田を独り占めしたいと言う願いは叶ってしまった。
真田の自己啓発本は、それなりに役立っているらしく、人前では見事に化けていた。
これで良いのだろうか?
「ちょっと! 聞いているの? みっともないあほ面して。またエッチな漫画の事を考えていたんでしょ!」
真田が俺のほっぺをつねって、聞いてきた。
結構痛い。
凄く痛い。
大事な事があった。
もう、危険じゃない真田を送り迎えする必要は無いのだが……。
俺は律儀に遠回りしてでも、こいつの家を経由して学校に向かう毎日を過ごしている。
「違うって。お前は可愛いなって思っていたんだ」
俺は赤くはれ上がっているだろう、ほっぺをさすりながら答えた。
軽い復讐だ。
だけど、本音でもある。
真田は少しの間、手をばたつかせていた。
最近思うのだ。
まともに会話した事の無いこいつは、パニックにもなれていないらしい。
それで、頭の思考回路の混乱が、手の不自然な動きとして出力されているのではないだろうか?
そして結局、真田は言葉として、どう出力して良いかわからなかったらしく。
「ふん!」
と顔を背けた。
俺が赤面する彼女の顔を、楽しんでいる事に気がついたのかもしれない。
真田は顔が熱くなると、そっぽを向く事を覚えていた。
それじゃ、あんまり変わらないぜ。可愛い奴だ。
なんて、意地悪く真田で遊んでいると天罰が降りた。
氷で足を滑らせ転んでしまったのだ。
「馬鹿なんだから。ほら!」
真田はそう言って、優しい笑顔で、手を差し伸べてくれた。
俺の頭の中では、高慢だったお姫様は普通の女の子になってしまい、やっぱり身分も普通な女の子になったのだけど、それはそれは幸せそうに暮らしたとさ、なんてナレーションが聞こえた。
それから教室に着くまで、俺も真田も手を離そうとしなかった。
結局、俺が何で生きているのかはわからない。
もしかしたら、俺の覚悟を見るための嘘だった。あのオジロワシの意地悪い試練だったのかもしれない。
あるいは、俺が情けなく途中で気を失ったので、世界中の『力』を滅ぼす事ができなかったのかもしれない。それで、寿命の半分ぐらいを失っただけと言う可能性もある。
だけど、わからない事は深く考えても仕方が無い。
それを確かめる術も無い。
俺の中の答えはこうだ。
やっぱり、愛の力さ。
サンキュー。真田。




