先輩のその後
十二月三十一日。深夜。
俺と先輩は、約束通りに初詣出のため神社に並んでいた。
先輩は、何故か踊り公園の事件から、オタクを止めてしまった。
今日は振袖姿だ。
除夜の鐘が鳴る前から、神社には参拝のための列があった。
俺たちはその最後尾に並ぶ。
俺は、とぼけた冗談風な口調で、病室での疑問をぶつけてみた。
「先輩は、俺が死ぬなんて思ってたの?」
先輩は、やっぱりいつもの優しい微笑で。
「こう見えても医者さね。専門分野じゃないとは言え、それなりに知識ぐらいはあるよ。あの時の武田君は酷い衰弱状態だったからね」
と言っていた。
そして、意地悪な微笑で俺を指差した。
「……それに、武田君があんな大事な事を秘密にする理由は、一つしか無いさね!」
それは、買いかぶりだ。
俺はいつだって自分が一番可愛い、そんな小さな人間だよ。
そして、一月一日になった瞬間。
十三秒間の苦痛で、辺りはパニックになった。
だけど、人間って奴は強い生き物らしい。
多くの人間は、とりあえず自分の身に異常が無いことを確認し、訳も解らないままだけど……。
楽しみにしているイベントを、何が何でも絶対に楽しむ事に決めたらしかった。
事情を知っている、俺たちは尚の事だ。
「いや~。やっぱり滅んでしまうかと思ったさね」
先輩は余裕っぽく笑って見せた。
「どうする? やっぱり、今日は止めとこうか?」
「それは駄目さね! 今日は決心を固めてきたんだ。絶対にお参りして帰るさね! それに、きっと、もう大丈夫だよ。人類は滅びない事を選んだに違いないさ」
先輩は、優しく自信に満ち溢れた微笑みだった。
混乱があったせいもあるだろうか?
俺たちの順番が回ってきたのは一時半だった。
そして、先輩は一瞬、俺を睨みつけ、わざわざ声に出してお参りした。
「あんな男より、ずっとずっとステキな男性と出会えますように……」
俺のオタクとしてのアイデンティティが、先輩をオタクとして認めたがならなかった理由がわかった気がする。
先輩は、オタクのフリをしているだけの偽者だったからだ。
十二も歳が離れている俺たちに、『先輩』として呼ぶ事を強制したのは、少しでも俺たちとの歳の差を縮めたかったから。
そして、先輩は真田と同じく『力』のせいで苦しんでいた。
そこにただ一人『力』の及ばない俺に、特別な感情を抱いたとしたら……。
「先輩。ゴメン……」
だけど、先輩は、とてつもない悪意を感じる意地悪な笑顔で言った。
「おやおや。おませさんだね~。何を勘違いしているんだい?」
俺は、身分不相応な妄想を抱いた事を後悔した。




