チャットルーム
学校でも少しだけの友達はいる。中学生時代やそれ以前からの付き合いもある。
だけど、俺は孤独が好きだ。
もちろん、全くの一人ぼっちは辛いさ。
でも、学校外の自由な時間に遊ぶのは月に一回ぐらいで十分だ。
残りの時間は、アニメやマンガやゲームに費やしたい!
俺は『陰のオタク』と自分を定義している。
ちなみに、俺と対となる『陽のオタク』と定義したオタ友達は、メイド喫茶や、わざわざ飛行機に乗ってまで秋葉原やコミックマーケットに行っている。同じオタクとしても理解に苦しむね。オタクの癖に活発的すぎる。
そして、俺の趣味の一つに、数少ない友達とパソコンで行うチャットがある。IRCと言って、ウエブ閲覧ソフトで使う訳じゃなく、チャット専用のソフトを使うのだ。
俺と親しい友人二人の、三人だけの秘密のチャットルーム。
友達の一人は、ハンドルネームを『ハリネズミ』と名乗っている。
こいつとは中学生からの付き合いだ。
お互いに少し普通からはみ出ていた。多分、友情のキッカケはそんな感じ。
だが、こいつとは馬が合わない。あらゆる所で、俺の価値観とは逆なのだ。そして、えらい屁理屈が好きな男でもある。
少しウザイ。夏には大喧嘩もした。あれは、最初で最後の大喧嘩になると思う。
それでも一番の友達は誰かと問われるならば、俺はこいつの名前を挙げてしまうだろう。人間の心って言うものは、理屈で分析できないものがある。
軽く悔しい。
俺は、四年の歴史があるマイPC、つまりは居間から俺の部屋にお下がりとしてやってきたマイPCを起動した。チャットルームで真田の不可思議な現象について、意見を聞きたかったからだ。
それから、三十分程あと、ハリネズミがログインした。
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ハリネズミさんがログインしました。
ハリネズミ:
やあ、こんばんは
sloth:
おぉ
ハリネズミ:
君は挨拶もろくに出来ないのかい?
良いかい。
挨拶が必要な理由を考えてみるんだ。
一つにお互いに味方であると認識する理由もあるだろう。つまり、相手と自分の立場をはっきりさせる目的があると思うんだ。
君の「おぉ」と言う挨拶はなんだね。僕を見下しているのかい? それとも、敵であると主張しているのかい?
sloht:
いや、そんなつもりはね~よ。
あぁ、悪かった。
こんばんは。
これで満足か?
ハリネズミ:
全く、君と言う人間は……。
いや、止めておこう。これでは、いつまでたっても話せない。
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全くもって、その通りだ。このままじゃ話が進まないぞ。いつだって、お前の話は長すぎる。そして、無駄に長いが中身はそんなに無いだろ?
物事はシンプルにまとめてこそ美しいんだ。数式だってプログラムだってそうだろ?
ちなみに、この事については討論済みで、彼の返答は珍しくシンプルだった。
君の言葉も無駄に長いさ、だと。
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sloth:
そう言えば、俺のクラスに美女がやってきたぞ
ハリネズミ:
ほぉ。噂の『白雪姫』かい?
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『白雪姫』は、去年の夏から不登校らしい少女のあだ名だ。名前をもじって、そのあだ名がついた。眠れる不登校の美少女『白雪姫』と。
ハリネズミは、その正体を知っているみたいで、美少女と言うのは本当らしい。
まぁ、こいつとの会話は時間がかかるから省略させてもらおうか。
俺は、転校生が来て生意気な奴だった事を愚痴った。
そして、二つの疑問、周りは美女だからとその転校生を許容している疑問と俺から見れば普通の女の子にしか見えない疑問があることを話した。
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ハリネズミ:
なるほど。
それは、簡単な事だと思うよ。
価値観なんて人それぞれだ。君のそれが一般的で普遍的な価値観と同じである、なんて保障は誰にも出来ないのさ。
現に君はオタクだ。その時点で、普通から大きくはみ出しているのだからね。僕には、人と違う価値観について、君が疑問に思う方が不思議だよ。
sloth:
いや、本当に恐ろしいほどに生意気なんだ。
いくら美女だからって、許されるレベルじゃないぞ。
ハリネズミ:
それだって同じ事だよ。
君が持っている許容容量と一般の人の許容容量が同じとは限らない。それに、美女に対して、その容量が大きく膨らむ事も不思議とは言えないさ。
sloth:
だから。そのレベルの話では無いんだって。
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駄目だ。俺には文章と言う媒体を使い、情報を正確に伝達する力が足りないみたいだ。諦めて、テレビを見ながらダラダラと討論を繰り返した。
ウザイけど、こいつと話すのが好きなのかもしれないな。