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決裂

 そして……。

 藤間が口を開く。

「面倒臭いね。なんか、もう全部。話し合いなんて必要ないよ。こいつらを消し去って、アフロディーテを手に入れる。それで、終わりだよ」

 いつかのように、言葉こそ崩れていないが。

 一番攻撃的なのは、やっぱりこいつだ!

「武田! スネークを盾にしろ。こいつらの『力』は障害物ごしには発動できない」

 ハリネズミの助言通り、スネークの後ろに俺と先輩と真田が隠れる。

 藤間が先輩に手をかざしたが、スネークの後ろに隠れたので躊躇していた。

 ハリネズミが、すばやく藤間に近づき、その突き出された手を掴み見事な一本背負いだ。

 この前の決闘とは違う。ただ、投げるだけではなかった。

 ハリネズミは、藤間の襟首を掴み身体を制御して、後頭部が地面に叩きつけられるのこそ防いでいたが……。

 直ぐに体重を乗せて、藤間の上で前回り受身をする。

 ハリネズミは、そのまま起き上がり振り返って、状況を再確認していた。

 一瞬で戦闘態勢に入った彼らについていけなかった明智が、ようやくハリネズミの顔に向かって、火炎放射器のような『力』で攻撃する。

 だけど、ハリネズミは凄い。簡単そうに大きく横に避けた。

 その動きについていけない明智との距離を一気につめる。

 やっぱり無防備に突き出された手を掴み、今度は自分の脇に挟み体重をかけている。柔道では、体重をかける立ち関節は反則な訳だが、これは試合ではない。

 それから、数秒後、無常にも明智の肩が外された。

 中学生の悲痛な叫び声が響き渡る。

「ゴメン。三人相手はきついんだ。綺麗にはずしたから、直ぐに直ると思う……。申し訳ない」

 ハリネズミが謝っている。夏までのあいつとは違う。そうだろ? 人を傷付けるなんて、胸糞悪いんだよ。

 だけど、明智……。ゴメンな。俺のせいだ。

 藤間は肋骨を押さえながらも、もう戦闘できるようだ。

「はりやま~よ~。綺麗ごと言っても、お前はやっぱり俺たちサイドの人間なんだよ」

 ついに、汚い言葉で話し始めた藤間だった。

 そして藤間は、静観していた氷を操るらしい女子高生に何か命令している。

 その時だ。氷を操る女子高生が手をかざした前方に、無数の拳程の大きさをした氷の玉が浮かび上がっている。

「彼女は凍らせるだけだ。俺がいなきゃ無力な女だよ。多数を同時にとは言え、こんな小さな氷を作るのにも、二秒ほどの時間が必要だしな。だけどな~。俺がこの氷たちに加速度を加えてやればどうなると思う?」

 無数の氷たちは、次々とハリネズミに襲い掛かる。一度避けても、後ろから再度ハリネズミを襲う氷たち。

 藤間の手のひらから、大よその方向はわかるとは言え、前後から襲い掛かるのだ。ハリネズミは、氷の玉たちを何とか避けているものも近づけない。

「針山~? これなら、お前の予知能力でも避けきれないだろうが!」

 そして、彼らの弾丸は尽きる事が無いみたいで、次々と生産される氷の玉たち。

 少しづつ、氷の玉はハリネズミを捕らえ始めた。ハリネズミは、避けきれないと判断した物は、ダメージの少ないだろう腕や足で受け止めていた。

 だけど、その氷の玉の壊れ方を見ても、相当な力が加えられていると容易に想像できた。

 ハリネズミは防戦一方で、攻撃を捌ききれていない。

 スキも増えていたのだろう。

「これだけじゃないぜ?」

 そう言って、藤間はもう片方の手で、本来の自分の『力』で、ハリネズミを捕らえたようだ。

「両手が使えるんだよ。俺はな」

「知っていたのか? 間抜けなお前は知らないのかと思っていたぜ?」

「強がり言ってるんじゃね~よ。お前の四肢を二〇kgの力で押さえつけている。まともには動けね~だろ?」

 ハリネズミは、自分の腕をゆっくりと動かし。

「そうだな。少しだけ動きにくいかもしれね~な! だけど、そんな小さな氷の玉じゃ、俺は何回でも耐えて見せるぜ? お前とは根性が違うからよ」

「わかってね~な! それを試してみるのも面白そうだけど、切り札を見せてやるよ~!」

 藤間は、そう言って攻撃に使っていた右手をハリネズミの頭上辺りに向ける。氷を操る女子高生も同じだ。

 ハリネズミの周辺だけ夜が訪れた。

 いや、ハリネズミの頭上で氷の塊が成長している。

「俺の力は一度に五百kgしか扱えね~。そして、射程距離も一〇メートルとちょっとだ。これで効率的に攻撃する方法を考えた。答えはこれだ。お前の頭上……。九メートルって所か。俺の力の限界まで、彼女が氷を大きくする。随分と痛いだろうよぉ? 四二〇Kgの氷の塊が九メートルの頭上から落ちてくるのは。な~。針山~?」

 俺は呆然と立ち尽くすばかりだった。

 スネークを開放してでも、助けに行くべきか?

 でも、うまく震える足に命令できない。

 考えがまとめられない。

 真田と先輩は悲鳴を上げて泣いている。

「やめておくれよ~!」

 こんな先輩を見るのは初めてだ。

 そんな時、ハリネズミ目掛けて走る人影が見えた。

 公園の入り口を固めているはずの、洋介さんだった。

 それに気づいた藤間は、巨大な氷の塊をハリネズミに落とした。

 氷の塊は、直径七メートル程にまで成長していた。

 洋介さんはハリネズミに体当たりする。

 推定九十kg弱ほどのハリネズミに、藤間の力で八十kg程プラスされているはずなのに、見事に氷の塊の外に押し出していた。

 だけど……。

 肝心の洋介さんの片足が潰されていた……。

 洋介さんは、声こそ上げていないが、そのダメージは大きいに違いない。

 ハリネズミは以前のあいつに戻っていた。

 殺気みなぎるあいつに。

「藤間~!」

 夏のあの時のハリネズミに……。

 失敗した事に、少し動揺していた藤間は反応できなかった。

 ハリネズミの巨体から繰り出された拳は、藤間の鼻を直撃した。

 藤間はよろめき前のめりになっている。

 その藤間にハリネズミはさらに追撃する。

 左手でアッパーを繰り出して藤間の体勢を崩して、相手の右足をつかみ、体重を乗せて鼻にもう一撃強烈な拳を送る。

 かなり野蛮な変則朽木倒しだ。

 地面に叩きつけられた藤間の、鼻血が止まらない。

 藤間の胸の辺りに、血の水溜りが出来ていた。

 人は、一.五リットルぐらいの出血で死ぬんだろ?

 俺には目測で正確な出血を測る術なんて持っていないけど、あの出血量はヤバイ気がする。

 二時間の話し合いの後、急に始まった二分弱の戦い。

 俺は、まったくもって情け無い。

 うまく反応する事も、考える事も出来ないでいた。

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