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話し合い

 俺は、ハリネズミに聞いてみた。

「どうだ? ハデスとやらは来ているのか?」

「あぁ。あの小学生がそうだ。なるほどね~。人の悪意を利用して『力』を増大させるタイプだ。そして、真田ちゃんやスネークよりずっと凄いね。なにせ、全人類を対象にするんだから。でも、強すぎる力は、制約があるものだよな。人類を滅亡するか、しないかの選択権は、悪意を吸い取られるために選ばれた六百六十六人に委ねられている」

「あいつらは、人類を滅亡すると、決められないってことか?」

 ハリネズミの代わりに、話を聞いていた先輩が答える。

「そうさね。言っただろう? 今回は人類は滅亡しないんだ。私が保証するよ」

「それと、先輩が詳しく言えない理由もわかりました。どうやって、その六百六十六人が選択するかについては、強力なプロテクトがかかっている。それについて人に話せば、命は無いみたいだ」

 よくはわからないが、その部分について言えないのは、ハリネズミも同じなのだろう。

「他の二人はどうなんだ?」

「あのおっちゃんは、『誰にも見られたくない聖域』と俺は名づけるね。あの人を中心に激しい嫌悪感を抱く空間を作り出す事ができるんだよ。決して足を踏み入れたくなくなるようなね。そして、外から、その空間で起きている事を目視する事は出来ない。それだけだ。戦闘向きじゃないな」

「あの女の子は?」

「彼女は明智と逆のタイプ。明智が火を操るなら、彼女は冷気を操る。どちらも、熱エネルギーを変化させるタイプだな」

「戦闘向きだな……。三人相手に大丈夫か? 俺だって、あのサラリーマンと同じだ。戦闘向きじゃないぞ」

「三人? 綱吉は馬鹿ね! スネークだっているじゃないの! それに、何が戦闘向きじゃないよ。もっと男らしくしてよ!」

 真田にきつく怒られた。

 もっともだ。

 でも、俺が出来るのはこれだけだ。

「スネークだけは俺が止める」

「そうしてくれ。三人は俺が何とかするからよ!」

 今回はハリネズミに頼りっぱなしだな。

 そして、先輩は優しい微笑でこう言った。

「今回は話し合いさね!」

 俺たちは、作戦を練りながらあいつらに近づく。

 公園の入り口は強面の面々が封鎖した。

 異常な空気を感じた無関係の先客たちも、散り散りに消えていく。

「ようこそ、卑怯な悪者さんたち~」

 スネークは笑っているけど、軽蔑の視線を向ける。

 だけど、落ち込んでいる暇も無い。

 段取り通りに話を進めていく。

 俺はスネークに手を差し出し。

「スネークさん。手をつないでください」

 と言うのだが、スネークは応じなかった。

「話し合いなのよね~? それなら、私と武田君が手をつなぐ必要は無いわ~。それとも、卑怯者の武田君は、話し合う気なんか無いのかしら?」

 俺は何と答えていいのか、わからなかったのだが、先輩が助けてくれた。

「まぁまぁ。そう言わないでおくれよ。今回は話し合いさね。それにはね、スネークさんの力は脅威なんだよ。こっそりとみんなが動けなくなってました、じゃ納得できないからね。悪いのだけど、武田君と手をつないでくれるかい?」

「そうね~。その理屈はわからないでも無いわよ。でもね。話し合いにおいて、貴方の『心を読める力』も卑怯よね~。貴方も武田君と手をつなぎなさい!」

 少し予定外な事もあったが、段取り通りにスネークを封じ込める事に成功した。

 俺は左手でスネークと手をつなぎ、右手で先輩と手をつないだ。

 そのまま、俺を中心にお互いのメンツが対面しあう。と言っても俺たちの中で対面する形なのはハリネズミだけだ。

 『し』の字のような形になった。

 真田は俺の右後ろにいる。

 俺の両手がふさがっているし、真田が本音を言うには俺に触れなくちゃいけない。そこで、彼女は俺の右肩に手を置いたわけだ。

 あいつらが六人、俺たちが四人。総勢十人の議長のいない話し合いは、酷く混乱するものだった。

 二時間ほど経っただろう。

「どうしても、諦めてくれないのかい?」

「当然よ~! わからないのかしら?」

 スネークと先輩の問答を最後に、お互いに言いたい事を言い終えたのか、誰も言葉を発しなかった。

 俺はチャンスとばかりに、今の話し合いを頭の中で整理する。

 まず、先輩の要求から始まった。

「今回で手打ちにしようじゃないか。人類が滅びようとも救われようともね。もう、その子には『力』を使わせないで欲しいのさね」

「それはどうかしら~。人類は滅亡するのに意味の無い約束よね~? それに、私たちがそれを守る義理も無いわ~」

 次に、ハリネズミの一言から、あいつらがどうして人類を滅ぼしているかについての話があった。

「なんで、お前らは人類を滅ぼしたがっているんだよ?」

 それに答えたのは、ハリネズミと犬猿の仲の藤間だった。

「針山君。僕らはね、力を授かると同時に、力の使い方を覚えたんだよ。僕らと出会うまで、何も知らなかった武田君と違ってね」

 スネークが藤間の説明に補足する。

「そうね~。私たちは力の使い方を知っていた。それと同時に力を授けてくれた神の意思。『人類を滅ぼすため』という目的意識もわかっていたのよ~。そして、そんな私たちを集めてくれたのが、同じ神から『力』を授かった心を読める少年だったわ」

 先輩は答えを知っているような口ぶりで質問した。

「だけど、本当に人類を滅ぼそうと思っていたわけじゃないだろう? 十一年も何もしなかったんだ」

 答えたのは真田だった。

「弥生お姉さま。夏の日に、私たちの心には急に闇が出来たの」

 そして、スネークは人の発言を補足するのに徹する構えのようだった。

「私たちの中でも、力を授かった時から人類を滅ぼそうと思っていたのは、心を読める少年と私だけだったわ~。だけどね、今年の夏のある日。急に深い悲しみに襲われたたの。理由もわからない深い悲しみにね。貴方たちに想像できるかしら~? 理由もわからない悲しみが、ずっと心に居座り続ける状態なんて」

 明智が追従する。

「それ以前から、僕たちにも闇はありました。その闇と理由のわからない悲しみが結びついてしまったんです。大きくなった、心の中の闇と、元々わかっていた『人類を滅ぼす』という指名とが繋がるのに、時間はかかりませんでした。だけど、それまでは楽しい毎日でしたよ。武田先輩との部活だってね。それに、周りの人間は小さく見えてましたから。僕がその気になれば、いつだって焼き殺す事の出来る、か弱い哀れな生き物だってね」

 理由もわからない悲しみが居座り続ける。まったくもって想像出来ないけど、絶対に体験したくないと思った。

 それから、ハリネズミが、公園の入り口からあいつらと接触するまでの短い時間では、説明出来なかった事実を、さりげなく俺たちに伝えてくれた。

「どっちにしろ、人類を滅亡させるためには、除夜の鐘が必要なんだろうよ? 一年間ゆっくり話し合おうぜ。俺たちが無事に新年を迎えられたらな」

 心が読める先輩が取得した情報だと思ったのか、ハデスと言うコードネームを受けた少年が口を開く。

「貴方は電話越しにでも、心の声が聞こえるのですか?」

「そうだね。そうかもしれないね」

 先輩は得意の意地悪な微笑みを返しただけだった。

 そして、真田ことアフロディーテが必要な理由もハデスから聞けた。

「もう、隠しても意味はありませんね。そうです。僕の力が発動できるのは一年に一度だけ。だから、アフロディーテさんが必要なんですよ。人類が滅亡すると言う選択肢を選んでもらうのに。いたるところで演説してもらうのも良いし、ネガティブ系アイドルなんて言うのも良いかもしれないですね」

 やっぱり、スネークが情報を補完する。

「でも、絶対に必要なのはハデスさんだけなのよ~。アフロディーテは重要だけど必須条件ではないわ」

 それからは、各々が好き勝手話していた。

 そうして、今の静寂がある。

 誰も口を開かない。

 もう、この話し合いは無意味だと全員が悟っているようだった。

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