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夢を見た

 十二月一日に見た夢。

 それは、確かに夢だった。

 だけど、俺にはただの夢じゃないという確信があった。

 辺りは雪景色に覆われている。ここは砂浜のようで、目の前には海が広がっていた。

 生き物の気配は無い。俺とあいつ以外には。

 岩に一匹の鳥がいた。都会じゃ見れない大きさだ。一メートルぐらいの雄大な身体は、優雅でいて誇り高そうだった。

 オジロワシだ。

 そして、頭の中に声が響く。耳が捉えた空気の振動ではない。直接、頭の中に響いてきている。

 俺は不思議な事に何の疑問もなく、それはオジロワシの声だと認識した。

「少年よ。時は来たのだ」

「なんだよ? ここはどこなんだよ? あんたは誰なんだ? 全く持って、意味がわからないぞ」

「わかっているはずだ。人類は滅亡へと歩き始めたのだ」

 そうか。人類を滅亡させる力がついに発動されたのか。

「なるほどね。あんたが俺たちに余計な『力』なんてものをよこしたのか。神様気取りか?」

「お前たちから見れば、『神』なのかもしれないな。ただ、二つ間違っている。私たちはそんなに大きな存在ではない。命ある一つの生命体に過ぎなかったのだ。お前たちが力を得たという事実は、私の死を意味しているのだよ。そして、世界を滅ぼそうとしている『力』は私とは別の生命の物だ」

「よくわからないな。ただ、俺の前に現れたという事は、人類を救ってくれるのか?」

 オジロワシは一声だけ、鳴き声を上げた。笑い声だったのかもしれない。

「それは、お前の仕事だ。お前は自分を過小評価している。せっかく、世界から滅ぼす『力』を与えてやったのに……」

「……。やっぱり、よくわからないけど、あんたが直接やればいいじゃないか?」

 俺がそう言い終るや、彼は俺の耳を掠めるように横切った。耳に残る、羽ばたきの音が恐怖を募らせる。

「おごるなよ。人間。私もお前たちを憎んでいるのだ。助けてやる義理も無い。だが、我々が一つの種族の滅亡に関わる事を良しとしない。そういう想いがあるのも事実だ。おまえ自身が解決しろ」

 そして、オジロワシは、また一声だけ鳴いた。やっぱり、笑い声なのだろう。

「それにだ。私は残留思念のような存在だ。身体も魂もこの世には存在していない。生前の私の記憶、そしてお前の頭にある情報。それが私の全てなのだよ。だから、お前が解決するんだ」

「どうやってだよ? 俺は無力なんだ」

「言っただろう? お前は世界から滅ぼす『力』を持っている。多少の代償は必要だがな……」


 夢と言うには、やけにリアルだった。

 そして、目が覚めてからも、はっきりと覚えている。

 こうして、俺は自分の『力』の本当の使い方を知った。

 自分自身に『力』が効かないのも、触れた人物の『力』を封じるのも大した事ではない。

 本当の『力』が強すぎるために、俺が力を発動していなくても、にじみ出てしまった産物に過ぎないのだ。

 それがわかっていても、俺は覚悟を決める事の出来ない、小さな人間だった。


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