表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/47

倫理観

 奴の家は、一つの階にに十五ほど部屋がある、横長いマンションの六階にあった。オートロック式で、玄関から先には進めない。

 どうしたものかと悩んでいたのだが、先輩は躊躇なく呼び鈴を押した。

「はい?」

 インターホンから聞こえる女性の声は、高校生の親にしては若く聞こえた。

「私どもは、藤間君の友人です。本日一緒に出かける予定だったのですが……。あ、藤間君には、超能力についてのレポートと言えば伝わると思います」

「えぇ。少しお待ちくださいね……」

 インターホン越しでも、眉間にしわを寄せているのが見えるようだ。俺たち、怪しすぎるよな。

 それからしばらくすると。

「君たちか。今、降りるから待っててくれないか?」

 藤間の声だった。

 数分後、降りてきた藤間は明らかに寝起きだと伺える。

 ズボンこそ履いていたが、白いダッフルコートの胸元からはパジャマが見えた。

 ただ、サラサラヘアーは寝癖の一つもついていない。

「ここじゃまずいんだ。近くの公園まで着いて来てくれるよね? 約束破りの武田君たち」

 俺たちは了解し、ほぼ無言で藤間の後を着いて行く。

 しかし、約束と言うには、あまりに一方的に押し付けられたぞ。

 俺は毒づいた。もちろん心の中でな。

 藤間が先頭を歩き、先輩とハリネズミがその後ろ、俺と真田がさらに後ろに陣取った。

 藤間の家の辺りは、それなりに栄えている。そして、この公園は、それに半比例するように小さかった。

 俺たちは、屋根つきのベンチに座り話し始める。

「さてと。随分だね。いきなり家に押しかけてくるとはね」

「わかるだろうよ? こっちだってなりふり構っていられないんだ」

 一触即発。

 公園に着くなり険悪な雰囲気を隠さない、ハリネズミと藤間だった。

「やぁやぁ、初めましてだね。藤間君。この度は、私のお友達を可愛がってくれたみたいだね~」

 そして、先輩もなんか怖い。

 いつものように、優しい笑顔なんだけど目は怒っている。

 だけど、藤間はハリネズミや先輩の態度なんか、気にもしていない様子だ。むしろ、自分が被害者とさえ思っているだろう。

 俺も今日に限ってはそうだと思う。

 確かに、お前は哀れな奴だよ。

 藤間は欠伸を一つかみ殺してから、鋭く俺を睨みつけて。

「で、何の用だい? それに、何で僕の家がわかったんだ?」

 それは、当然の疑問だ。

 俺が奴の立場だったら、恐ろしくて夜も寝られない。

 俺たちは、本気で変質者みたいだ。

 先輩は、最初の質問にだけ答えた。

「人類を滅ぼす人物について聞きたいのさ」

「それを僕が教えるとでも?」

「じゃあ、スネークさんについてでも良いさね?」

 先輩は子供をからかうような大人の微笑で、言っていた。それにしても、新たな登場人物の名前が出てきた。

 スネーク。これもコードネームなんだろうか?

 だけど、その質問をされた藤間は、腹を抱えて笑っている。

「くっ。あははは。なるほどね。残念だけど、僕は何も知らない。スネークについてもね。あいつからの指令もインターネットのメールで行われるのさ」

 そして、藤間はいつもの、表情だけでやれやれと表現し、首を数回振った。

「そこの綺麗なお姉さんのような『力』の持ち主の存在は、僕らも危惧していたからね。出来る限り情報を知らないようにする。それも、僕の任務なのさ。それに比べて、君たちは次々と僕らに情報を与えてくれるね。実に愉快だよ」

 どうやら、今回の接触はあちらの有利に動いただけのようだった。

 俺は相も変わらず、話についていけないけどな。

「さて、有難い情報を与えてくれた君たちだけどね。僕はかなり腹が立っているんだよ。こちらから連絡するまで動くな、と言ったのに……。どうしてくれようか?」

 藤間は爆笑から、怒りの表情に瞬時に切り替わった。場の空気が緊迫する。

 それを一瞬で壊したのは、ハリネズミだった。

「俺たちは、お前の家を知っているんだぜ? 大人の前じゃ、優等生の藤間君よ?」

 藤間は、鋭い眼光で睨みつけながら、にやりと笑って去っていく。

「全く、武田君ほどの悪者はそうはいないよ。もう良いだろう? 帰るよ」

 なぜか、俺が罪を被っていたのは置いといてだ。

 全く持ってその通りだよ。

 教えてもいないのに家に押しかけられ、家を知っているんだから無茶をするなと脅しまでかけてくる。

 どっちが悪者なんだか。

 帰りの電車で、ハリネズミはこう言った。

「倫理感より、人類の危機を救うほうが大事だ」

 まぁな。

 それについては、昨日の晩に有難い講義を無理やり聴かされたよ。

 そして、真田は重要人物として認識されているのに、組織の中では末端扱いだったらしい。

 会社のトップの息子が平社員と言った感じなのか?

 そんな真田は、スネークと言う人物について何も知らなかった。

「私は、藤間の指示に従うだけの立場だったのよ」

 俺たちは、暗い表情と重苦しい空気で、電車を降りた。


 ついに秋は完全隠居を宣言し、地面に雪たちが二、三日残る事も増えてきた。

 もう一週間二週間もすれば、札幌の街は雪化粧でおめかしをしてしまうだろう。

 俺たちは、何も出来ないままに十二月を迎えてしまった。

 中でも、俺は無力だ。

 そして、十二月一日。

 俺はある夢を見た。

 これは、誰にも言えない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ