知らない電話番号
翌朝、家まで迎えに行くと、真田はがお礼を言ってきた。
「いつも、迎えに来てくれてありがとう」
彼女は着実に素直な良い子になっている。
先輩のアドバイスのおかげだ。
あるいは、俺が人の扱いに長けているのかもしれない。
だけど真田は、自分の言葉に憤慨しているのか、顔の血色が必要以上に良くなっていき、なんとも理不尽な命令を申されるではないか。
「何ぼけっとしてるのよ。気が効かないわね。救えない男……。ほら、鞄もってよね」
と鞄を差し出してくれた。
俺は、数秒で高くなった鼻をへし折られた。
ただ、鞄を持たされたのはこの時だけだったのは、不幸中の幸いだ。
そして放課後、俺たちはあの道を、昨日決闘した遊歩道を歩いていた。
昨日までウジャウジャいた不良たちの姿が見えなくなり、安心してたのかもしれない。
それは、同時にハリネズミの身に危険が迫っているのではないだろうか?
あいつが俺に喧嘩で助けを求めるはずも無い、とわかりつつも携帯電話の着信を確認してみる。
その時だ。
見慣れぬ番号から着信があった。
だけど、この声には聞き覚えがある。ムカつく美少年、藤間だ。
「やぁ、武田君かな?」
「そういう、あなたは藤間さんですよね?」
「驚いたかな。明智君から教えてもらったんだ」
可愛いはずの後輩に裏切られた。明智、個人情報は大切に扱ってくれよ。
「何の用ですか?」
「わかっているだろう? アフロディーテが必要なんだ。僕らの計画にはね」
こいつらに『計画』があることも、その『計画』に真田が必要なことも、もちろん、俺にとっては新事実だったのだが、言わない事にした。
「それで、俺に電話したと。ちょっと、意味がわかりませんよ。今更、脅しに屈すると思っているんですか?」
「わかってないな~。今日電話したのは、忠告のためなんだ。武田君の『力』についてはわかったよ。そして、君は『力』が無ければ、とても弱いとね」
「それを、わざわざ言うために電話したんですか?」
「あぁ。君の『力』は万能ではない。むしろ、酷く弱いのさ。僕が証明してあげるよ」
「これはこれは、ご親切にどうも。敵に忠告してくれる訳ですね」
「君が恐怖で怯えているのを想像したかったんだよ。その方が、楽しいだろう?」
今日の藤間は、口調こそ穏やかに戻っていたが……。なんて性格の悪い奴だ。
「それにしても、武田君の周辺には奇妙な連中が集まるね。針山君もそうだけど……。今日、君の学校の連中が、事情も知らないまま謝りに来ていたよ」
「なっ!?」
その俺の学校の連中とは、『やっぱり友達』や正座させるのが趣味の上級生だと思った。
「あはは! 安心しなよ。自ら謝りに来れない情け無い武田君? あんな雑魚を相手にしたら、僕の格が下がるんだ。適当に追い払ったさ」
俺は安堵したのだが、藤間が最後にこう言い残した。
「そうだ。大事な事を忘れていたよ。君が明智君や針山君と知り合いなら、見張る必要は無い。言ってる意味はわかるよね? 上からの命令で、君らにはちょっかい出せなくなったんだ。君一人なんかどうにでも暗殺できるのに、僕の上司は臆病な人でね。そういうことだから、十二月初旬に改めて電話するよ。その時、大人しく会いに来てくれれば良いさ」
高校生が暗殺なんて言葉を使うなよ。俺が思っていたよりも、藤間は危険な男だった。
きっと人質がいるから見張る必要は無いって事も言ってたな。明智はお前ら側の人間だろうに。本当に嫌な性格をしていやがる。
そして、よくわからないがハリネズミと藤間は冷戦状態らしい。それの火蓋も俺が握っているって事だろうな。
藤間。敵ながら見事だよ。確かに、俺は怯えて待つしかなさそうだ。
あぁ、そうだ。勘違いしてるみたいだけど『力』なんて俺には無いさ。
オタクなだけの、普通の高校生だ。
只ならぬ様子を感じ取ったのだろうか? 電話を終えると、真田が心配そうに聞いてきた。
「誰だったの?」
「藤間だよ」
「はぁ? なによ! 何であいつなんかから電話が来るのよ?」
「さぁな。俺を超能力者だと勘違いしてるみたいだったぞ。そして、対策も見つかったから怯えて待ってろって」
「そう」
真田は俺の『力』を否定しなかった。そして、顔色を赤に染め上げるのが得意技なはずなのに、珍しく青くして考え込んでしまう。
「そうだ。昨日、俺の友達に会ったろ? もう一人、会いたいって人がいるんだよ」
まぁ、時間には余裕があるさ。藤間は、大よその日付まで指定してくれている。
カウントダウン効果を狙ったつもりだろうが、それまで安全が保障されたって事でもあるんだぜ?
心の中で、サディスティックな藤間に嫌味を送る。
そして、何より。先輩なら、なんでも解決してくれそうな気がした。
「嫌よ! 不良はきらい、じゃなくて少しだけ苦手なの。それに前にも言ったでしょ? 巻き込みたくないのよ……」
「安心しろよ。今度の人は、優しい女の人だ。ハリーとは違った意味で頼りにもなる」
「そう……。女の人……。わかったわ」
同姓も嫌いな対象なのだろうか? 真田は、鋭い狐目で俺を睨みながら、弱々しく了解した。
その後も、先輩と会うまでは不機嫌だった。
この前のように、シカトはされなかったけどな。
夜には、先輩に真田と会うため予定を空けてくれとを頼んだ。そして、藤間からの電話についても話した。
先輩は、出来るだけ早いほうが良い。事情が変わったからと言っていた。何かに焦っているようだ。
今週末の日曜日に、待ち合わせの約束をした。




