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美女との遭遇

 俺こと武田綱吉は、普通の高校一年生だ。どこにでもいる十五歳。自分でもそう思う。

 あぁ、そうだった。

 実はオタクだ。

 でも、それは大した問題ではない。

 やっぱり、普通に学校に行って、適度に頑張り適度に遊ぶ。そんな、普通の高校生なんだ。

 特別、優れた運動能力や頭脳を発揮するでもない、かと言って、特別落ちこぼれたわけでもない。

 いや、落ちこぼれてるか。運動はまるで駄目なチビだからな……。

 でも、まぁ、恐らく多分、強調するほど落ちこぼれちゃいない。

 つまりは、やっぱり、俺は普通の高校生だ。

 

 暑い夏から開放されたものも、札幌の秋は短い。肌寒い気温が『憂鬱な冬の足跡はすでに聞こえているよ』と告げている気がする。

 そんな秋、十月初旬の事だった。

 いつものように、学校に行く準備を完了し、頭は半覚醒の状態で自宅マンション出て直ぐの事だった。

 半分夢心地の俺は、こう思うのさ。『俺は普通の高校生だ』なんて良くあるプロローグ的な妄想をしている自分は、実は特別な存在だったりしてとか、親しい人間も特別な存在だったりしてとか、これから特別な物語に巻き込まれたりしてとかな。

 それは、高校に入学して六度目の妄想なのだけど、今日に限っては妄想じゃなかった。

 マンションを出て、最初に出会う交差点での事だ。

 ふと不自然な状況に気がついた。

 歩道の信号が青に変ったのをぼんやりと認識し、歩き出したのだが、左後方から俺の横を抜き去っていくはずの車が止まったままで、やっぱり左前方の車も動き出す気配もない。一緒に赤信号を待っていた連中の気配も感じられない。

 俺は赤信号で横断しているのではないだろうか?

 と言う不安がよぎり、信号を確認するのだけど、やっぱり青信号だ。

 それならばと、周りを確認すると、風で木の葉は揺れているし、カラスはゴミをあさっている。歩行者信号から鳴っている『とうりゃんせ』の音楽だって、いつも通りに仕事をこなしている。

 ただ、人間の時間だけが止まってしまっていた。

 車を運転してる奴も、動きを止めて見入っている。

 通行人もそうだ。

 老いも若くも、男も女も、全ての人間が、ある一点を見つめて止まっているんだ。俺から見て、横断歩道を渡った先を見つめていた。

 俺も、やっぱり視線をその一点に送る事になるさ。

 そこには美女がいた。

 眩い光沢を放つ栗毛色のロングヘアーの下には、白い肌と、欧米人のような堀の深いかつ彫刻のような整った顔立ち。それも、かなりの高レベルでまとまっていた。百七十五センチメートル程の長身が、モデルを連想させる。

 足も長く、全体的に細い。それでいて、秋用で薄い生地だろうとは言え、茶色いトレントコートの上からでも胸は存在を主張している。

 やっぱり、モデルなのだろうか?

 いや、テレビや雑誌でしか見たことの無い芸能人を含めたって、俺の美女ランキングベスト三には入る。

 それは、固まって動けない、こいつらも同じだろう。

 でも、ちょっと美女に対して幻想を抱きすぎじゃないか?

 彼女たちは、俺たちとは別の生き物だ。『木耳とくらげ』みたいな関係なんだよ。似ている所もあるが、全く別の生き物なんだ。

 そんなに、心を奪われていては人生辛いぞ。諸君。

 俺は、ちっとも気にしないフリをして、実は横目でちらちらと見ながらも、歩き去ろうとした。

 すると、その美女は、俺と視線が重なった瞬間、小さく微笑んで、近づいてくるではないか。

 ヤバイな。自分が思っているより、俺は魅力的な人間だったかもしれんね。

 さっきは、無関心を装ったものも、胸の鼓動は花火大会のフィナーレの如く盛り上がっていた。

 まぁ、やっぱり俺の心配は裏切られてしまった訳だけど。

 彼女は、俺の横を通り過ぎようとした時、視線は遥か先を見つめながら、一言つぶやいていた。

「見つけたわ~。ずっと、あなたを探していたのよ」

 こんな美女に探してもらえるなんて、どこのイケメンだろうか?

 俺は悔しいから、後ろを振り向いてまで確認しなかった。

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