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仲直り

 翌朝、真田の家に着くと、あいつは空を眺めていた。

 俺を待っていたのかもしれない。

 何故に断言できないかと言うと、真田は、俺と目が合うとわざとらしく反対方向へ勢いよく首を振り早歩きで動き出したのだ。

 俺は駆け足で追いつき、めげずに話しかけた。

「おい。俺は、お前の事を悪く言う奴がいても怒るぞ。まぁ、藤間たちの前じゃ、心の中だけでしか出来ないかもしれないけどな」

 先輩はやっぱり凄い。予想は的中だったみたいで。

「馬鹿じゃないの? 当然じゃない! 私が仲良くしてあげてるんだから、そのぐらい当たり前でしょ! 本当に、救えない男だわ」

 やっと、反応した。

 真田は頬も耳も赤くさせながら、にやけるのを隠せないで言い放った。

 俺の心臓が、一呼吸だけ強く脈打った。

 俺の頭には、何故か……。

 王子様に「あんな青臭い娘よりお前の方が素敵だよ」と言ってもらい高慢なお姫様は、普通の女の子になることが出来ましたとさ、なんてナレーションが聞こえた。

 これは報告しなくても、わかってるかも知れないが、一応な。

 その日、学校ではこんな噂で持ちきりだった。真田と俺は痴話喧嘩を乗り越え、清い男女交際をより強固な物にとしたという噂で。


 すっかり居心地が悪くなった学校も終わり、放課後の掃除の時間は、認めたくは無いのだけど楽しい時間だった。

「そろそろ帰るわよ。早く、送ってよ!」

 この野郎。

 感謝の言葉は言われても、命令される覚えは無いぞ。

「そういう時は、『ありがとう』や『お願いします』が必要なんだ。わかるよな? 真田は素直なやつだもんな」

「え、えぇ。あなたと違って馬鹿じゃないもの。だから。その、えっと、お願いしてあげるわ!」

 真田だけに見える、蚊を打ち落としながら言っていた。

「おぉ」

 随分な言い草だったが、真田のこの表情だけで、今日は良いかと思った。

 商売繁盛、赤ダルマを思い出しながら。

 ただ、帰ろうとした時、『もしかしたら友達』のクラスメイトの鞄が、教室に残っていることに気がついた。

 嫌な予感がして、教室の窓から外を見てみると、今度はあいつが上級生に呼び出されていた。

 俺は真田に待ってろよ、と伝えて後を追いかける事にした。今回はシカトはされなかったのだけど、何とも理不尽な返答だった。

「本当に、あんたは疫病神よね! あの子大丈夫かしら……」

 だけど、真田の表情が『強がっています』と教えてくれていたので、軽く流して、二度と訪れたくないはずの校舎裏へと急いだ。


 どうやら、我が高校の上級生は、下級生に正座をさせるのが趣味のようで、またしても、十数人で取り囲み説教をしていた。

「てめぇ。今、武田を少しだけ脅せば、真田さんと別れるだ? 俺らのせいで、より深い関係になってしまっただろ! それに、藤間が絡んでいるなんて聞いてなかったぞ? もし、巻き込まれたら責任取れたのか? あぁ?」

「すみません」

「すみませんじゃね~だろうが!」

 全く持って、先日の俺を見ているようで、腹立たしくもあり、情けなくもあった。俺は、覚悟を決めて話に割り込む。

「こんにちは」

「武田! 何しに来た?」

 上級生は、恐ろしい目つきで俺を睨む。

 うわ。怖ぇぇ。

 頑張れ。

 ファイトだ。

 俺。

「いやね。藤間さんが俺じゃ相手不足だ。せめて、人数集めて来いって言うんですよ。それで、この友情あふれるクラスメイトが助けてくれるって言うから、呼びに来たんです。あれ? もしかして、先輩たちも手伝ってくれるんですか?」

「し、知らね~よ。俺らを巻き込むんじゃね~! 俺たちとお前らは何の面識も無いんだ。話しかけてくるんじゃね~よ」

 と、上級生たちは去っていきましたとさ。

 正座したままの『友達かもしれない友達』はらしくなく、俯いたまま、馬鹿な事を言ってきた。

「武田。ありがとうな。……だけど、やっぱり俺は喧嘩したく無いよ。藤間さんって怖い人なんだろ? 助けてくれたのにゴメン!」

「わかってるよ。お前を巻き込もうなんて思ってね~から。俺が、敵の威を借るオタクなだけだ。気にするなよ!」

 俺は、思いつく限りの励ましの言葉をかけたのだが、奴は土下座しやがった。いや、正座したまま頭を下げただけか。どっちにしろ止めろよな。

 俺は『やっぱり友達』を無理やり立ち上がらせた。

 なんか、こいつはあいつに似ていて、憎めないんだよな。

 どことなく、中学生時代の、憎たらしいのに可愛い後輩を思い出した。

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