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呼び出し

 今朝の真田を泣かせてしまった噂は、瞬く間に学校中に広がった。

 学校中から降り注ぐ軽蔑の視線と噂話に追い討ちをかけるように、俺は昼休みに人生初の『呼び出し』を受けた。

「おい。放課後ツラ貸せよ」

 飯を食っていた俺に、そう声をかけてきたのは、真面目な我が高校の数少ない不良だ。しかも、最上級生ときたもんだ。

 そして、彼らが教室を出たのを確認し、『馬鹿にされてもさほど腹が立たない分類の友達』が話しかけてきた。

「だから、真田さんを泣かせると、ただじゃすまないって忠告してやったのに……」

 だって。

 あぁ~、めんどくせ~。

 なんだよ。真田と関わってから、俺の平和な生活がどんどん崩れ去っていくぞ。

 クソ。


 放課後。

 俺は、真田に帰るなと言ってから『呼び出し』場所に向かった。真田は、返事をすることも、うなずくこともなかった。

 俺は校舎裏に呼び出されていた。校舎と、学校の敷地を知らせる壁との間にある狭いスペース。

 上を見れば普通教室が見えるものも、人通りが少ない。

 そもそも、どの教科の移動教室でも通る必要が無い場所でもあるし、こいつらのたまり場なのは周知の事実で、誰も無意味に近づこうなんて思わない。

 一人、二人、……十四人もいるのかよ。

 髪こそ地毛だろう黒だけど、やっぱり制服を間違った作法で着こなしている集団だった。その中の一人が、声を低くしながら話しかけてくる。

「よく来たな。用件はわかっているんだろう?」

「はい」

「立ってんじゃね~よ。正座だ。せ・い・ざ!」

「すみません」

「すみませんじゃね~んだよ」

 じゃあ、何て言えば良いんだよ?

 はぁ。集団暴行か。

 俺に無縁な世界だと思っていたのにな。

「良いか? 彼女を泣かした罪は重い。本来ならば、死罪に匹敵する。わかっているのか? あの、彼女のステキな笑顔を曇らせたんだぞ! あの麗しく誰にでも優しい真田さんを泣かせたんだぞ!」

 彼らの言う事は、俺の知っている事実とは違っていた。それでも、俺は「すみません」を繰り返すしかなかった。

 結局、真面目な我が高校の上級生たちは説教が目的みたいだった。

 そりゃ、そうだ。

 悪いが俺はプライドが無いし、悪い事をしたつもりも無い。暴力を振るわれれば、教員に密告するだろう。そして、彼らには進学やら就職が控えている。停学なんて絶対に避けたいのだろうね。

 だけどよ。怖そうな上級生に呼び出されて、囲まれて正座させられて、お説教だぜ?

 俺が学校に来なくなる理由としては、充分じゃないか?

 これは、イジメといっていいはずだ。

 許せね~のは、真田の奴もだ。

 説教の途中、教室から見下ろすように、コッソリ覗いているあいつを見つけた。

 そんなに、憎い俺が絡まれているのが楽しいか?

 上級生たちは、とどめの最後にこう言い残した。

「今度、真田さんに近づいてみろ。今度こそ、痛い目にあうからな?」

 そして、俺の膝から数センチ横の土を蹴り上げる。飛び跳ねた土は、俺の制服にヒットした。

 あぁ、ついてね~。

 こんな不幸な日だ。一日ぐらい掃除をサボっても良いのではないだろうか、と思っていたのだが、俺の計画は破綻してしまった。

 真田が、真面目に掃除をやるみたいだ。

 教室に戻ると、真田は窓を見ていた。

「帰ろうぜ」と言う俺の問いかけると、答えもせず、黙々と掃除し始めた。

 そんなに掃除が大事ならば、俺の説教中にやってくれれば良かったのに。

 もちろん、掃除の最中も、何度か話しかけてみるのだけど、答えないだけじゃなくて、ピクリとも反応しやがらない。

 ムカつく奴だ。

 それだけじゃない。掃除が終わり、昨日までなら楽しい談笑の時間なのだが、真田は一人で帰ろうとするではないか。

 本当に駄目だ。こいつは、馬鹿なのか?

「おい。一人で帰るなよ」

 俺は、真田のちょっと後ろをついていく。

 横を歩るくのは気まずいし、前を歩いてしまうといつの間にかいなくなるかもしれない。

 校門を出て三十歩も歩かないうちに、先ほどの上級生が俺に話しかけてくる。

 俺の事を見張っていたらしく、『呼び出し』直後に堂々と一緒に掃除をしていた事に腹を立て、真田に知られずに話しかける瞬間を狙っていたみたいだ。

「おい。お前は、俺たちの事を見くびってるだろう?」

 俺は、真田を見失わないように注意しながら答えた。

「いや、そんな訳ではないんですよ。あいつ。いや、真田さんがね、最近、藤間という男に付け回されているんで、見送らないといけないかなな~て思ったりしちゃったりなんて。あはは……」

 出来れば、この人たちに真田の送り迎えの任務を譲りたかった。俺の予想では、喜んで仕事を奪い取ってくれるはずだったんだ。

 だけど、藤間という男は有名人らしく、上級生たちは即答した。

「が、頑張れよ」

 それから、俺たちは無言のまま歩き続けている。この調子だと、明日も危ないな。俺は二メートルほど前を歩いている真田に、一応忠告しておく事にした。

「お~い。真田さんや~。明日の朝、待ってろよ。一人で動くなよ~」

 反応は無い。

 聞こえているんだろうか?

 真田の家に着くまで、念のため三回ほど叫んでみた。周りからは、相当変な人に見えただろうな。もしかしたら、ストーカーとして警察に通報されたかもしれない。

 でも、俺は真田の後を付回すしかなかった。

 真田に付きまとう不良たちの姿も見えた。幸いにも彼らは、遠くから見張っているだけで動こうとしなかった。

 真田の家に着くと、真田は少しだけ後ろを振り返り、鋭い狐目で俺を睨みつけてきた。

 あいつの顔は、怒りで血が集まっているのが見て取れる。

 俺は、自分の行動に対して、自信がなくなった。

 神様、もし本当に存在するならば、返してくれよ。

 俺の平和なオタクライフを!

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