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ふじま

 数日間は、あの不良たちも大人しかった。

 もちろん、俺たちは少し登下校のルートを変更していたし、彼らはあの場所で待っているのだろう。

 でも、毎日待っているはずの不良たちは、あまり辛抱強くなかった。手分けして俺たちを探しているみたいだった。

 俺たちは俺たちで、安易な解決策として、人通りが多ければ手出し出来ないだろう、と賑やかな国道を歩いていたせいかもしれない。

 その一組に発見されてしまった。

 一人が、照れながら真田に話しかけてくる。もう一人はどこかへと走り去ってしまう。

「真田さん。探したぞ。藤間さんが直接待っているのに、何日待たせる気だ?」

「辛抱の足りない男たちね。数日しか経って無いじゃない。それに、私は会うなんて言って無いわ」

「どこが忙しいだ? 彼氏とノホホンと歩きやがって。どう見ても暇人だろ?」

「か、彼氏? このオタクが? 馬鹿じゃないの! 病院に行ったほうがいいわ。そんな勘違いするなんて……。物事を正しく判断できなくなっているのよ!」

「おぉ。大人しく藤間さんと会ってくれれば、真田さんにも彼氏にも乱暴はしね~よ」

 相変わらず噛み合ってない会話が、真田の『力』を証明しているのかもしれない。

 そして、先ほど走り去った男が、ボスらしき人物をつれて戻ってきた。 

「あ、藤間さん」

 と照れながら会話していた不良が言ったので、俺は首だけで振り返った。

 真田と不良が噛み合わない会話をしている間に、回りは高校生と思えない恐ろしい面持ちの集団に囲まれていた。

 どうして今の今まで気付けなかったのかと自分を攻めたくなるぐらいに、多すぎだ……。

 完全に俺たちの後の進路、つまりは歩道を封鎖していた。

 顔の血の気が引くのを感じながら、俺が首を前方に戻すころには、前側の歩道も封鎖されていた。

 どこからか沸いてきた彼らは、五十人ほどの集団だった。

 不良たちの集団から、藤間と呼ばれた美少年がこちらに歩いてくる。

 彼は、仕草や口調からも『僕は自信高いナルシストです』と自己紹介しているようでもあった。

「もういいよ。君らは帰りな。男女の会話って奴は、ギャラリーがいると出来ないんだよ」

 サラサラの黒髪に、中性的な顔。身長も男としては小柄だった。俺と同じぐらいか? 百六十センチメートルより少し大きい。

 不良のボスらしい藤間は、女と言っても通じるぐらい綺麗な少年だった。

「はい。失礼します!」

 藤間以外の怖い人たちは、直ぐにいなくなった。

 だけど、藤間はあいつらが素直に言う事を聞くぐらい凄い奴なんだよな。

 俺は見た目に騙されずに臨戦態勢に入った。

 真田の手をつなぎ、いつでも逃げられるように……。

 急に手を握られた真田が、ついに我が娘に王子様を奪われました、と言わんばかりに怒りで顔を紅潮させながら、不機嫌そうに言った。

「ちょっと、なにしてるのよ!」

「馬鹿。危なくなったら、逃げるんだよ。出来れば今すぐ逃げたいけどな。話すだけですよね? 藤間さんだっけ?」

 藤間は俺の問いには反応するも、回答することなく、真田に問いかけていた。

 自信満々な、小さな笑顔が鼻につく。

「あはは。頼りになる彼氏だね。昔のあの人といい、こう言う男が好みなのかい?」

「あんたも、重病ね。そんなんじゃないわ!」

「まぁ、いいや。さぁ、戻っておいで。アフロディーテ」

 藤間は、またも自信たっぷりの仕草で、真田に手を差し出した。

「嫌よ。あなた達とは縁を切ったの。ほっといて頂戴!」

 口調は強気だけど、真田の俺の手を握る力は強まっていく。そして、手は湿っていた。俺の心臓も激しく脈打っていた。

「困ったな。随分ときっぱりと断るんだね。どうしても、協力してくれないのかい?」

「当然よ! お姉さまと出会って私は変わったの。ついでに綱吉の出会いもちょっとだけ貢献したわ」

「わかってないな~。僕らは君が必要だ。だけどね、わがままを言っちゃ駄目だよ。いざとなれば、力づくの方法だってあるんだ」

 自信たっぷりの藤間は、少しだけ目に殺気を宿した。

 ヤバイぞ。雲行きが怪しくなってきた。

 決断は速さが命だ。

 俺は逃げる事にした。

 この数日間、無駄に過ごしたわけじゃない。

 もしものために、この辺の交番の位置は把握している。

「真田! なんか知らんが、とにかく逃げるぞ!」

 必死に走った。多分、交番までは四百メートルぐらいだ。逃げ切れないまでも、俺が盾になれば真田は交番に駆け込めるはずだ。

 そう思っていた。

 だけど、三秒も走らないうちに、真田が俺の手を振りほどいた。

 そして、首を押さえて座り込んでしまう。

 直感的に藤間の方を見ると、奴は追いかけてすらいなかった。

 ただ、手のひらを真田に向けてかざしているだけだ。

 俺はとっさに、藤間と真田の間に割って入った。

「あ、ありがとう。綱吉……。もう平気よ」

「お前は、先に行けよ。交番の場所はわかるな?」

「う、うん。でも……」

「大丈夫だ、お前が戻ってくる間ぐらいは、踏ん張ってみせるさ」

 ちょっと、怪しい。

 藤間が携帯電話で仲間を呼び戻して俺を拉致する時間と、真田が交番からおまわりさんを連れてきてくれる時間と、どっちが早いだろうか?

 いや、女みたいな顔して藤間は強い男らしい。

 奴一人で、俺を連れ去るぐらい出来るかもしれない。 

 だけど、藤間は演技調に首を横に何度か振り、やれやれといった表情でこう言った。

「その必要は無いよ。今日は帰るさ。未知の敵程恐ろしいものは無いからね……。まさか、上司の探し人と、アフロディーテが知り合いだったとは、想定外だったんだよ」

 その言葉を信じて言いのかわからないから、俺たちは走って帰宅した。

 真田が家の玄関を開ける時、ポツリと言った言葉が心に残る。

「巻き込んで、ゴメンなさい……」と、言った真田は俺の知らない真田だった。弱気だった。

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