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報告

 その夜、俺は心配する気配を砂糖一粒ほども見せなかった、屁理屈男のハリネズミに報告してやる事にした。

 この男に報告するのも癪だけどな。

 一応相談に乗ってもらった立場でもあるし仕方ないさ。

 だけど、俺の親切をあざ笑うように、チャットルームにはハリネズミの姿は無かった。

 とりあえず、このチャットルームの主、ハンドルネーム『先輩』に声をかけてみる。




 ----------


 slothさんがログインしました。


 sloth:

 こんばんは~。


 先輩:

 やぁやぁ。おかえりさね。


 ----------




 先輩は、常時パソコンを起動し、チャットルームの主と化しているのだが反応する事は少ない。

 精神科の医者でもあり、ボランティア活動にも勤しんでいる、多忙な人だからな。

 そして、ハリネズミと違って、ネットの人格も現実の人格もそんなに違わない、表裏の少ない人だ。

 おまけに美人だ。

 だけど、ハリネズミは『良い意味で腹黒い』と評していた。

 そうだ。一つ大事な事があった。

 先輩と呼ぶことを強要し、ハンドルネームまで先輩な彼女だが、歳は十二歳ほど離れている。俺は先輩と同じ組織に所属した事は無い。

 それでも先輩と呼ばれたほうが、若々しく感じると言う理由だった。

 それにしても、この時間に先輩が反応するのは予想外だった。

 



 ----------

 

 sloth:

 いたんだね。珍しい。


 先輩:

 武田君がこの時間に帰ってくるほうが珍しいさね。何か夢中になれることでもあったのかい?


 sloth:

 あれ? 先輩には話してなかったかな? 

 俺は、変な女に絡まれて大変な毎日を送っているわけですよ!


 先輩:

 そいつは、興味深いね。

 是非、聞かせておくれよ。


 ----------




 俺は、あの『力』も含めて、真田の事を全て話した。

 先輩が信用できる人物だと言う事もあるけど、まさか真田を知らない人が、この話を信じるなんて思っていなかったからだ。

 



 ----------

 

 先輩:

 なるほどね。君は、まだ信じ切れていないんだね。

 

 sloth:

 まぁね。でも、信じざるを得ない状況でもあるんだ。


 先輩:

 信じていいよ。

 それに関しては、私が保証するさ。

 

 sloth:

 信じたとしても、彼女の相手は大変なんだよ。

 本当にわがままで高慢なやつでさ。甘やかされて育った奴は駄目だね。


 先輩:

 そうかもしれないね。

 でも、考えてごらんよ。ずっと自分の言葉が勝手に改変される生活をね。

 彼女をそうさせてしまったのは、『力』のせいかもしれない。そう。それだけさね。根はそんなに悪い子じゃないと思うよ。


 sloth:

 人事だと思って……。


 先輩:

 薫ちゃんに足り無かったのは、君に出会えなかった事さね。

 うん。きっと大丈夫。それも私が保証するさね。


 sloth:

 俺はそんな人間じゃありませよ。

 小さくて、ワガママな普通の高校生だ。プラスオタクなね。


 先輩:

 そうかもしれないね。でも、そうじゃないかもしれないよ?

 人間なんてものは、測る人によって違った尺度を示すのさね。

 君自身のものさしは、君を低く評価しているみたいだけどね、私は特別な存在だと評価するよ。


 sloth:

 よくわからないけど、頑張るよ。

 平和な高校生活を取り戻すためにね。


 ----------



 

 先輩の言う事は、いつだって良くわからない。でも、なんとなくその気にさせる不思議な魔力がある。

 先輩の、つい甘えたくなるような、優しい微笑みを知っているからかもしれないな。

 その後一時間程待ってはみたが、ハリネズミがログインしないので、一度席を離れる事にした。

 そして、夕飯と風呂を済まし部屋に戻ると、チャットルームにはハリネズミの姿もあった。 

 先輩相手に、この前の『オタク定義論』を発表しているらしい。

 そして、彼の行動はいたって単純だ。

 このまま、先輩に甘やかされて自信をつける。そして、ネットの掲示板あたりに発表し、ボロボロに批判されて帰ってくる。

 ただ、ハリネズミの尊敬できる数少ない一面として、非常に打たれ強いのだ。奴の強さは見習いたい。

 死への突撃魂はゴメンだけどな。

 そう言えば、ハリネズミと先輩は夏の大喧嘩から少しぎこちない。

 チャットでは普通なのだけど、絶対に現実では会おうとしないのだ。




 ----------


 sloth:

 戻りました~。よぉハリネズミ。

 

 ハリネズミ:

 君は毎回説教から聞きたいらしいね。

 良いかい? 

 挨拶と言うのはだね……


(以下略!)


 sloth:

 と言うわけで、転校生の美女は不思議な超能力者だったとさ。


 ハリネズミ:

 なるほど。是非とも会ってみたいな。

 今度、紹介してくれないか?


 sloth:

 お前まで、信じるのかよ。

 まぁ、自然な機会があったらな。

 見世物じゃないんだ。みんなが信じるなら、話さない方が良かったとさえ思っている。


 先輩:

 そういう所が、武田君の良い所だよ。

 彼女を闇から拾い上げられるのは、君だけさね。


 ハリネズミ:

 先輩。そいつは疑問ですよ? 

 こいつは、ただのか弱い高校生に過ぎないと言わざるを得ないです。プラスひねくれ者でチキンハートなね。


 ----------




 あぁ、俺自身もそう思っているよ。だけどな、本人の前で言うなよ。

 チキンハートとガラスのハートが、似ているとは思ってくれね~のか?

 でも、不思議に高評価をくれる先輩のおかげで、理不尽な毎日も楽しく思えてきた。

 情けない事に、やっぱり女子と二人っきり、と言うのは嬉しい事だった。

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