暗闇のフロンティア6
俺たちは怪我の体をおして、今朝女将さんに聞いた情報を確認しに来ていた。
「お兄ちゃんも、もの好きだよね」
「あん?」
「いやいや、ほら、態々こんなことをするなんて」
「そりゃあな、温泉を襲われても俺が困るし」
今後も暇なときは通いたいのだ。ここを野盗等に潰されたら流石に困る。それに女将さんも良い人だったしな。
「素直じゃないよね、困ってる人がいたから助けたいって言えば良いのに」
「うるせーよ、夕実はついてこなくても良かったんだよ」
「えー、最近ほら暇だったからさぁ、私も一応称号持ちだよ?」
「その鈍臭さで何ができんだよ」
「鈍臭くないもん」
「はいはい、夫婦喧嘩もやめなさいねぇ」
「夫婦じゃないもん!」
「はぁ、全く」
俺と夕実、アウラとゲイル、キースは散歩がてら今朝聞いた噂の村を目指していた。
アイリとシロナは二日酔いのため、子供たちの世話をお願いしていた。
その村は、山の中腹を開墾した村らしく、その村を探していた。
「さてさて、でも見つけてどうするの?」
「まぁ野盗が犯人なら退治して終わりだけど、他の問題もあるかも」
「他の問題?」
「まぁ、そこらへんは可能性の話だわな」
「そうなのぉ? まぁ、気分転換には良いかもねぇ」
「というか、お前元山賊だろ」
「あらぁ? 良い女は過去を振り返らないのよ」
良くもないし、そもそも女でもない。もうこいつにはどこから突っ込めば良いのか分からない。
山をゆっくりと登っていく。踏み固められた道っぽい場所を歩いていく。
本来山をこんな風に登るのはただの自殺行為なのだが、俺たちにしてみれば山等自分の身体能力だけでなんとかなるので、ある程度適当に登っても大丈夫だろう。そもそも、食料もお昼ご飯程度、水も少ししか持参をしていない。
まぁハイキング感覚でついでに調べれば良いのだ。
温泉街が近いので、ここも何かしらの火山なのだろうか? 死火山か、活火山かは分からないが。というか、火山の中腹を拓いて村を作るというのはどういうことなのだろう?
「でも、楽しいねぇこういうの」
まぁ、何も考えずこういう山をみんなで登るなんて事はそうそうなかったし、そもそもみんなでこうやって遊べる機会もなかった。
少し暇が出来ればそういう機会を設けるのも良いかもしれない。まぁそんな暇が来るとは思えないが。
まだ麓付近なので木等まだ自然が残っているが、上の方になるとゴツゴツとした岩肌がむき出しになっている。
「火山を登るって、怖いな」
「そうだねぇ、もしかしたら噴火しちゃうかもね、流ちゃん」
まぁ近くに村ができているから、流石に噴火はないと思うけど、流石にそうなったら全力で逃げないとやばいな。
「そしてらごめん、僕だけ逃げるよ」
「おい、アウラ、王様をおいて逃げんなよ」
「ほら、みんなの勇姿を後世に伝えないと」
「おい、殺すな」
山としてはかなり緩やかなので、このメンツなら疲れもしない。夕実もこの世界に来てから結構タフになっている。
別に夕実が稽古していたりとか、スキルとかで能力が上がっている訳ではない。そもそもこの世界にくれば基本的な能力が上がるようだ。どういう仕組みなのだろう? 色々他にも謎が多い。というかそもそもこの世界はなんなのだろう? 俺の頭では考えても分からない事の方が多い。
「でも、そんな村、ほんとにあるのかしらねぇ」
「どういうこと?」
「ほら、アウラちゃん、こんな火山に村を作るって相当よ?」
「確かにねぇ」
それは俺も思った。
「そもそも、農業なんて無理っぽいし、火山の噴火の心配もあるしねぇ」
「ふーん、じゃあもしかしたら長く暮らさないつもりだったって感じ?」
「そんな状態で村を作る意味があるぅ?」
「ないよねぇ」
ふぅむ、確かに。ここら辺は観光地だ、色々な人が来るからその人用に作ったのか? いやだったらそもそも可笑しいよな。発展している街の近くに村を作る意味が分からない。
「じゃあ、食料の心配とかなかったんじゃない?」
「村で? 観光地に温泉は独占されてるのに? そんなのお金なくてすぐ飢えるわよ」
「ほら、他から食料が送られてくるとか?」
「それこそ意味が分からないわよ、こんな人里離れた場所に隠すように作るなんて」
ゆっくりと山を登っていく。一時間ほど上り、休憩を挟む。
十分楽しんだし、もう良いかなぁ、そこまで真面目に探している訳でもないし。
そんなことを考えながらゆっくりと開けた場所でお弁当を広げる。
女将に頼んだお弁当のボックスを広げる。野菜と鶏肉のサンドウィッチが人数分入っている。結構大きめのものなので、夕実は食いきれないかもしれない。
「ほら、一個もってけ」
各々、ボックスからお昼ご飯を取り出していく。
ボックスいっぱいに詰まっていたサンドウィッチは既になくなっていた。
「ちょっと待て、俺のがない」
全員分、配り終えたと思ったが、一人一個のはずが、俺の分だけなかった。
その瞬間、周りの空気が一瞬凍る。
この雰囲気はやばい、誰も彼も人に譲ろうという親切な人間らしい心がない。
「おい、お前ら」
誰も俺と目を合わせようとしない。
「おい、俺の分がないのだが」
誰も声を発しない。きっとその声を発した瞬間、その人間のお昼ご飯が取られると思っているのだろう。いや、現にそうなるだろう。
「おい、アウラ」
俺の言葉聞いた瞬間アウラが自分のサンドウィッチを無理やり口に放り込む。結構大きめなサンドウィッチだった為、一口では食いきれなかったのか、何口かに分けて無理やり食べきる。その早さと言えばまるで《閃光》だった。
まずい、これはまずい。アウラの動きで食べきることが正解という雰囲気ができてしまった。
辺りを見渡す。その誰もが食べきる方向で動いていた。
ここで俺がするべきことは何だ? 一瞬で状況を判断する。
俺がすべき行動は
①諦めてこの状況を受け入れる。
②誰かから奪う
③みんなから少しづつ分けてもらう。
この状況において③のような小学生の遠足のようなほんわかした雰囲気が起こるはずもない。生きるか死ぬか、奪うか奪われるかだ。
そして当然①もない。
ということは②だ。
ゲイルは無理だ。あの大きさならほぼ一瞬で食べ終わる。残るはキースと夕実。距離的にはキースの方が近い、だが抵抗される可能性が有る。
ならばやはり、夕実だ。
そうと決めれば俺の体は何の思考も挟まず行動に移っていた。
対角上に居る夕実の傍へと動く。ここから先はサンドウィッチを落としてもダメなので慎重に動く。
驚いた夕実の顔が見えるが、そのまま俺は手に持つサンドウィッチへと手を伸ばす。
「動かないで!」
その瞬間俺の体が一瞬止まる。
どうやら《聖母》のスキルを使ったようだ。
「てめぇ狡いぞ、スキルはないだろ」
「流ちゃんが私の奪おうとするからでしょ」
そう言いながらサンドウィッチを一口食べる。
クソ、動け、動いてくれ俺の体!
二口目も口に運ばれるのを眺める。
「うおおおおおおおおおおおおおお」
無理やり俺の体を動かす。所詮夕実のは暗示みたいなものだ。無理やり動かせないこともない。
齧られたサンドウィッチをめがけて顔を伸ばす。
「なッ!?」
その口には戦利品が勝ち取られていたのだ。
柔らかいパンと、鶏肉のジューシーさ、野菜のみずみずしさが口の中に広がる。マスタードか何かなのだろうか? 少しスパイシーなソースがとてもマッチしていた。
「はぁ、そんなに食べたかったの?」
「バカ野郎、山の中で食料を取れない事の恐怖をお前は知らないだろ」
三日ぐらい草だけで生きていると体中に力が入らなくなるんだぞ。
「食べかけだけど良いよ、はぁ本当に子供」
「うるせーよ、ばーか」
「馬鹿!? あげないよ!」
「うるせーもう俺のもんじゃい!」
「もー! 本当に子供!」
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休憩を挟み、俺たちはそのまま宿へと足を向けていた。
結局見つからなかった。まぁ見つかれば良いやぐらいの感覚だったので、それもまぁ仕方なしだろうな。
そんな風に山を降りていると。
「あら、あの煙」
そんな山の帰り道、行きには全く気付かなかった場所から煙が出てきていた。
温泉街だし、湯気が出ていてもおかしくはないだろうが、その箇所だけ空に登るように煙が上がっていた。
「あれは?」
「湯気じゃなさそうねぇ」
確かに一筋の煙が上がっている。
「多分焚き火か何かか?」
「そうよねぇ」
「ここら辺に村はないはずだ。ちょっと警戒で確認するぞ。もしかしたら野盗かもしれないし」
「分かったわぁ」
ゆっくりと煙の方へ動く。警戒を高め、森の方へ歩く。
少し森をかき分けると、見つけづらいように木などが伐採されている小さな広場が出てきた。そこには十ほどの簡単な家屋が建っていた。
どうやらそこの一つの家からお昼ご飯を作っているからだろうか? 一筋の煙が出ていた。
「登るときに気づいたか?」
「全然よぉ、多分見つけづらく細工されてるわ。木の生え方とか少し異常だったし」
「アウラ、周囲は?」
「今ぱっと見てきたけど特になし」
「ゲイル、俺と先頭」
「オッケーよぉ」
俺とゲイルでその家の正面まで歩く。木製の簡単な小屋だ。家族で住むには小さいだろう、一人暮らし用のかな。強度はそこまでなさそうだ。
ゆっくりとドアまで近づく。中には気配が一つか? ゆっくりとドアに手をかけるが、鍵が掛かっている。
「ぶち破る?」
「穏便に行くぞ」
アウラとキースを中盤に、夕実を後方に配置する。
「行くぞ」
俺はゆっくりとドアをノックする。乾いたきの音が小さく響く。
一回、二回、三回目で中から声がする。
「はーい」
若い男の声がする。周りを見ても、この家以外には誰も住んではいないようだ。
ドタドタという音と共に、閂が外れる音がする。
その後、すぐにドアがゆっくり開く。
「ユウヤか?」
「ああ、リュウマか」
そこからは黒髪の少年が出てきたのだった。




