大戦のフロンティア12
目の前には謎の少女。しかも素っ裸だ。薄く栄養があまり取れていないように感じるほど貧相な体だが、やはり女の子、しっかりと出ているところは出ているのだ。
「えーとフロンティアさん?」
「うーん? 多分そぉ」
寝起きの彼女はほんわかした雰囲気のまま話し続ける。
「あの、まず隠して欲しいんだけど」
生まれたままの姿は流石にこちらとしても困る。目のやり場にも困るし、彼女も流石に寒いだろう。
「えぇ? どうして?」
「いや、裸はまずいと思うんだけど」
「裸ぁ? ああ、そうだねぇ」
なんとも調子が狂う。まるで生まれたての子供だ。夢で話した時と全く違う雰囲気だ。あっちは結構年を取っているというか、老練な雰囲気を感じた。外見は一緒なのだが、全く同一人物とは思えない。
なんとも言えない。というかこの状況が良く分からない。まず、彼女はなんでこんなところにいるのだ? というより、彼女は何者なんだ?
「アイリッ!」
「どうしました!?」
流石に俺だけではどうしようもないので、アイリを呼ぶ。流石に女の子相手のことを俺がするわけにもいかない。
「えっと、どういう状況ですか?」
直ぐに来たアイリは、この状況を見て、何事か分からないようだ。というか、俺も良く分からない。
「あのぉ、彼女は?」
「俺も良く分からない。洞窟で寝てたんだ」
夢で会ったという情報は流石に頭が可笑しい人間だと思われないので、伏せておく。
「とりあえず服を用意しますね」
「ああ、お願いする」
アイリは急いで衣服等を用意している。
「で、お前は何なんだ?」
「うーん、フロンティア。フロンって呼んで欲しいかも」
「で、フロン、繰り返すが、お前は何だ?」
俺の夢に出てきたこともそうだが、この人物は分からないことが多すぎる。こんな少女が敵だと思いたくはないが、その可能性だって否定はできない。現状、何か良く分からないというのが彼女の評価なのだ。
「何だ? フロンはフロンだよ?」
「いや、そうじゃなくて、えっと君はどんな人間なの?」
「分からないよぉ? 私は何も知らないから」
記憶喪失? いや、何も知らない? ちょっと分からない。夢でもそうだったが、彼女がなんだか本当に良く分からない。
「記憶がない?」
「うーん、そうかも」
まるで何も気にしていないという雰囲気の彼女。この状況でまだぼけーっとしているところを見ると、生来そういう性格なのだろう。
「あー、分かった、分かった。お前は敵か?」
「うーん? 味方だよ?」
なぜか笑顔でそういう彼女。でもその笑顔はとても信用できる気がした。
まぁ感覚の話しだからとても信用できたものじゃないが。
「なんでそう言える?」
「多分あなたが悪い人じゃないから」
「悪い人さ」
弱きは悪だ。守りたいものを守れなかった俺こそ、何者でもない悪だ。
「そうなの? じゃあ敵かも! でもお兄さんは好きだからまぁ良いや! あ、お名前は?」
「藤堂流馬、ヒロノキアの王だ」
「王様? 良く分からないけどリューマね、よろしくね!」
よろしくと言われてもどうしようもないのだが。
「マスター、服を」
「ああ、ありがとう、ほら着ろよ」
シロナの服だろうか? シャツとズボン等そこにはあった。
「ほら、そこ、手を通して」
服を着るのすら大変なのか、四苦八苦しながらやっと服を着る。
「ゴワゴワする」
「ほら、脱ごうとしないでください。で、マスターこの子は?」
「分からない。名前がフロンティアってことだけしか分からない」
「フロンティア? どこかで聞いたことがあるような?」
「俺の元の世界では未開地とかそういう意味だったような。こっちの世界での意味がどうか分からないけど」
「そうなんですか、私もどこかで聞いたような気がするのですが、思い出せません。カルアに聞いたら分かるかもしれません」
確かに分からないことならカルアに聞いたほうが確実だろう。
「とりあえず、連れて行こう。こんなとこで放置もできないし」
「大丈夫なんですか?」
「分からないけど放っては置けないだろ」
「分かりました。こちらに来てください。逆らうなら殺しますよ」
「ああ、分かった」
ゆっくりと立たせ、洞窟の入口付近まで連れて行く。歩くことがままならないのか、先ほどの寝起きのように右に左にとゆらゆらしている。
「本当に大丈夫か? これ?」
「分かりません」
俺も人のことを言えないので、なんとか入口付近まで戻る。未だ、アウラとシロナがまだ焚き火に暖まるように座っていた。
「服を欲しいと言われたから何事かと思った。主、新しい女?」
「違うよ。その反応やめて」
「《聖母》と言い、《英知》と言い、女の子が増えていく」
夕実はともかく、カルアは関係ないと思うんだが。
「お兄ちゃんは英雄じゃなくて女の子を集めてるの?」
「おい、アウラ、偶然だろ、というか俺が選べるわけないじゃないか」
「冗談だよ」
「しかもお前だって男だろ」
「えー、こんなに可愛いのに?」
「うるせーよ、で、カルアは?」
「まだ外、色々これからのことを話していると思う。でもそろそろテントも張り終わるし、少し空くかも」
「分かった。ちょっとフロンについて聞かなくちゃいけない」
「フロン?」
「ああ、彼女の名前だよ」
「ふーん、変な名前」
俺たちは、テントの設営を待って、カルアに相談することにした。
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「はぁ、女の子が倒れていた?」
「いや、本当なんですよ」
設営等も全てが終わり、一際大きめのテントの中で一息つくついでにカルアに相談をしてみた。
「いえ、まぁ居たのであれば何か理由があるんでしょうが、ここは一応道から外れているとはいえ、ガイロンとヒロノキアの交易路にみなっているので、ずっと倒れているのは可笑しいんですよねぇ。数時間も歩けば村等もありますし」
「へぇ、でも完全に寝てたな」
「うん、ずっと長い間寝てた」
「寝てたって、まぁどこからか落ちて衝撃等で気絶したのかもしれません。怪我はないみたいですが、まぁ外傷がない場合もありますし」
まぁ普通ならそうだよなぁ。普通の精神した人間があんなところでましてや裸で女の子が寝るわけがない。
「で、えーと、彼女の名前についてでしたっけ」
「そうそう、フロンティアって聞き覚えがないか?」
「フロンティア……ですか、フロンティア、フロンティア……確か、大昔の文献にそんなことが書いてあったような。ああ、この世界が生まれたときの祝福の言葉だったような」
「祝福の言葉?」
「ええ、伝説の中の伝説、この世界が最初に生まれた際に、フロンティアとこの世界が名付けられたとかいないとか」
「あれ、でもこの世界って名前がないって」
「正式な名前はないですよ。というより、この伝説ってのが亜人の中で進行されている伝説なんですよね。だからあまり、残ってませんし、残したくもなかったんでしょう」
「なんでだ?」
「亜人と人間は大昔、戦争をしていましたから、敵対する存在の伝説等信じたくなかったのでしょう」
ふむそういうものか、まぁ俺たちの世界でも宗教戦争とかもあったし、ありえないこともないだろう。亜人が居たのも英雄王たちの時代らしいし、そんだけ長い時間が経てば、歪んでいくのも仕方ないだろう。
「じゃあこの子はその名前からとったってことか?」
「ありえなくはないですけど、でもこのことを知ってるのは本のひと握りなんですよね。アイリさん達が知らなかったように、多分国でも知ってるのは数人ってレベルだと思います。そもそも学ぼうともしないですし」
「じゃあ、そんな人の子供?」
「ありえなくはないですけど、それほどの知識がある人は大体偉い立場にいるので、こんなところに子供を放置するとは思えないんですよね」
「ふーむ。分からねぇ」
夢に出てきたこともそうだ。しかも夢の中で《魔神》の名前すら出していた。
だからこそ怪しい。危険がないとは思いたいが、《魔神》なんていう言葉を出す人間がなんでもない普通の人間とは思えない。まぁ今椅子に座って足をブラブラさせている彼女にはそんな危険は感じないが。
「一番安全なのは、そのまま置いておくことですね。刺客じゃないって確証はないですから」
「そうだよなぁ」
何? みたいな感じで小首をかしげる彼女を再度見る。連れて行く事に意味はない。というより連れて行くことでリスクしかない。近所の村に預けてしまった方が良いのだ。
ちょっとの良心を無視すれば安全なのだが、何かが引っかかる。まぁその中の大部分があの夢に起因するのだが。
まぁ内緒にしたところで何の意味もないだろうし、話しちまおうか。
「連れて行こうと思う」
「どうしてですか? マスター」
「まぁ、あんなところで寝てた人間が普通じゃないと思う。あと、彼女が夢に出てきた。そこで彼女は《魔神》と口にしていた」
「《魔神》ですか」
「そう言えば《魔神》って何をしたんだ?」
最近《英雄王》や《魔神》という話しをよく聞くが、詳しいところ分かっていないのだ。おとぎ話ぐらいの知識しかない。
「二千年ほど前、この世界を支配しようとしていた《魔神》という悪者がいました。その《魔神》が世界を支配しようとしたとき、異世界から来た六人の勇者が《魔神》と戦いました。その六人はそれぞれ国を作り、人間は六人の勇者に、亜人は《魔神》について戦いました。その戦いは長い間続き、最終的には五人は《魔神》に破れ、《英雄王》は《魔神》と相打ちになり、世界の平和は保たれました。亜人たちは《魔神》を追ってこの世界を離れ、六人の勇者が残した国は六大国となり、世界に平和をもたらしました」
カルアはそう説明してくれた。
「大体分かった。彼女が《魔神》の手先の可能性は?」
「ないでしょう。というか伝説で本当にあったかも眉唾物です。しかも、完全に滅びた、復活するなんていう話はどこの文献でも見たことがないです」
「うーん、まぁ夢なんていう訳の分からないものだしなぁ」
「確かに夢見た直後に現実でも彼女に合うなんておかしな話しだよねぇ、お兄ちゃんは異世界とかで心当たりとかないの?」
「ない! というか、夕実以外の女の子の知り合いもいない」
「お兄ちゃん、現実だと悲しかったんだね」
「うるさい、男だけの方が楽なんだよ」
「まぁ、それは分からないでもないけどねぇ」
さて、本気でどうしようか。迂闊に連れて行くなんてこともできないしなぁ、日本だったら警察に届けて終わりだし、最悪家に呼んでも爺に任せれば良いのだが、今は俺も立場があるし簡単に言えないんだよなぁ。
「ふぅ、でも見捨てても置けないよな」
おっさんならきっと見捨てないし、子どもが困ってるなら助けるのは当たり前だ。
「本気ですか」
「まぁ、な。おっさんなら多分そうするだろうし」
「そうですね」
「危険なのは分かってる。でも、きっと彼女は俺たちにとって大事な気がする」
これについては唯の勘だ。というより、この状況で出会った少女に運命を感じない訳がない。夢で出会ったことについてもだ。
「連れて行くことは確定だ。これは命令で。で、こっからの話し、アストガルドは?」
「追ってについてはなしです。斥候からの情報では、ガイロンは国近くの関で籠城の構えだそうですが、アストガルドは撤退を目標にしているみたいです」
「撤退?」
あの状況から撤退? どういうことだ? ほぼ勝っていたというのに。
「兵站の問題か、損害が多かったのか、こちらの撤退に合わせて撤退の準備を行っているそうです」
「そんな事あり得るのか?」
「ありえないです。今回の戦争に関して言えば、終始何がしたかったのか分からないというのは私の感想です。ご主人様が言った通り、もしかしたら戦争以外にも目標があったのかもしれません。その目標は全く分かりませんが」
冗談で言ったはずなのに、その可能性が出てしまったと、なんとも言えない。きっとあいつらの目標が分かるわけもないのだろう。多分何か色々なことが足りないのだろう。答えを考えるためのピースみたいなものが。
「今考えたところで多分無駄なんだろうな」
「多分そうですね。戦略的な目標があったのでしょう。私たちには理解ができないレベルの目標が」
「まぁ分からないことを話してもしょうがない。じゃあ、ここからは?」
「撤退を続けます。追っ手がなければ確実に撤退が可能です。アストガルドの地理的な問題や、今回の損害から算出すれば、相当長い期間次の戦闘はないでしょう」
「そうか、まぁしばらくは安全ってことか」
「そうですね。まぁここから先は国に帰って話す必要がありますが、最優先すべきは《英雄》の集結、各国に対しての情報共有です」
「情報共有?」
「はい、《武神》の戦力、アストガルドの驚異等についてです」
「あー六首会議にでもするか?」
「無理ですね。アストガルドに敵対するための会議など、潰されて終わりです。だから、各国に対して個別に話していく必要がありますね」
「大変だな」
「まぁ、ご主人様がですけどね」
「そっかぁ、俺が動くんだよなぁ」
世界中を回る必要があるということか、まぁしょうがない。これからのことを考えれば当たり前か。
「後は、私達の強化ですね。このままではいつまで経っても《武神》には勝てませんから」
「そうだな」
俺も修行を積まなくては、今度は想像ができないが、《武神》と戦えるぐらいにはならないと、もう誰も失わないように。
「とりあえずは、その方向性か、議会や円卓でもう一回話し合ったほうが良いだろうな」
「そうですね」
「じゃあ、とりあえずは戻ることを最優先にしよう」
「そうですね。とりあえずは態勢を整えましょう。それからの動きはそこから詰めていくということにしましょう」
「疲れたからすまんが先に休む」
流石にそろそろ頭も重くなってきた。体中の痛みが抜けたわけでもない。
「あ、分かりました。ではおやすみなさい」
そのまま寝所へと向かう。ベッドに入った瞬間落ちるように眠る。ああ、本当に疲れた。またあの夢でも見るのだろうか? いや、まぁどうでも良いか。
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あれから数日、時間をかけてヒロノキアに帰ってきていた。
俺は色々な仕事を放り投げ、ある部屋の前まで来ていた。
真っ暗な闇の中、石作りの城は冷たく、月明かりは壁を照らしていた。
俺は気分を落ち着け、ドアをノックする。
「こんな夜遅くになんだよ」
そんな文句が中から聞こえてきた。足音が近くなる度、俺の心が重くなるのを感じた。
「はいよーって、リューマか」
「ああ、夜遅くにすまんな」
「本当だぜ。でも良かった生きて帰って来れたんだ、ゲイルのやつも今回留守番だったから、結構不貞腐れてたぜ」
「そうか」
「で、わざわざこんな夜遅くに来たってことは何かあるんだよな」
心が重い、喉を通る言葉がまるで鉛のように重くなる。
しかし、これは俺が言わなきゃいけないことだ。守ってもらった俺が言わなきゃいけないことなのだ。
「《大力》シャイナ・バレルが死んだ」
だから俺は、事実だけを端的に言った。何の言い訳も、何の飾りもなく。
「そうか、子供たち、悲しむかもな」
「聞かないのか?」
「何をだ?」
「どうしてとか」
泣きたいのはキースの方のはずなのに、再度俺は涙を流しそうになる。
「聞く必要あるか? 戦争だぜ? 行ったら帰ってこれないことだってある」
「あんなに強かったおっさんがだぜ?」
「そうだ、俺だってここに立ってるのが奇跡なんだぜ? そもそも死んでても可笑しくない。そういう世界で生きているんだ」
「だからって!」
「教えてくれたのはありがたい。お前の口から聞けて良かった。だからすまないが、今日は帰ってくれ」
「でも、俺のせいだ」
「お前は王様だ、俺だって途中までは貴族として育てられた、上に立つものの心得みたいなものはある程度は分かってるつもりだ。だから敢えて言う。お前は責めて貰って楽になりたいだけだ。怒られれば楽になれる。だけどお前は王様だ。責められる事を求めちゃダメだ。お前が一番偉いんだから」
「こんな若造だぜ? おっさんには小僧としか呼ばれない俺が?」
「甘えて良い状況じゃないんだ。この世界は平和でもないし、ほのぼのだってしてない。だからこそ、お前は……いや、ここら辺はお前が学ぶべきことだ。頼むから今日は帰って欲しい」
「分かった」
「じゃあ、明日は色々忙しいか、時間が出来たら声を掛けてくれ」
「ああ、分かった」
ゆっくりと静かに閉じるドア。その中からは叫び声にも似た泣き声が響いてきた。
多分、気づかないフリをしてただけだ。兵士一人一人にもこのように泣いてくれる人が居るのだろう。
だからこそ、俺は強くならなくちゃいけない。ずっとずっと強くならなくちゃいけないのだ。




