大戦のフロンティア10
「GAAAAAAAAA」
叫び声が響き渡る。限界を超えた動き、まるで獣のような動きで攻撃を続ける《大力》。
絶え間ない攻撃が、《武神》を襲う。
まるで相手の攻撃を否定するように攻撃を続ける。相手の攻撃の余地を許さない攻撃。
しかし、当然《武神》には何の効果もない。
だけどそんなことは気にしない。まるで止まれば死ぬということを運命付られているように攻撃をし続ける。現に、この攻撃を止めてしまえば、一撃で《大力》の命を刈り取るだろう。
「はぁはぁ」
しかし、そんな攻撃も永遠に続くわけもない。全力の攻撃など、数分と持たず連鎖は終わる。
「ここで終わりか」
「お前の弱点だな」
「何?」
「相手を舐め続ける。相手の攻撃を見ずに倒せもしない」
「……まぁ確かにな、だがお前が私に勝てないというのは変わらないだろう」
「死ぬのは変わらんさ。だけど、こんな私一人でも多少の時間稼ぎはできるさ」
「数分稼いだところで変わらんよ」
「変わるさ」
未だ橋の中枢には兵士たちが急いでる姿が見える。まだ渡りきるまで時間はかかるだろう。
だからこそ、命をかけてでもここでは時間を稼がなくてはならない。
「さて、私もここであいつらを逃すと怒られるのでな、殺させてもらうぞ」
英雄全員が戦い、更に《武帝》が限界を超えても時間稼ぎしかできなかった敵だ。《大力》一人では何の障害にもならないだろう。
今のままでは一瞬で殺される。それが事実だ。
だからこそ、強くなる必要があった。無理矢理にでも、限界を超えてでも。
「スキル、『大力』」
異常に膨れ上がる肉体。まるで全身の筋肉が膨れ上がるかのように、人間のエネルギーがまるで全て外に向かうように膨張する。
かなり大柄な《大力》が、更に大きくなる。二メートルを軽く超えたところでその成長を止める。
まるで筋肉の化物。ゲイルなどが筋肉を膨張させるのに反して、バレルは筋肉を増強していた。増やして強くする。それがこのスキルの単純な能力だった。
人体の限界を超えて人体を強くする。《武帝》が行ったスキル同質のものだった。
そして膨張した体が一気に収縮した。膨れ上がったエネルギーを無理やり人型に押し込めるように、エネルギーを濃縮に濃縮を重ねるように。
「人型に収めたか」
「そうしないとどうしても体が思ったとおりに動かないからな」
「で、何分持つんだ?」
「十分だ。十分で私の体は限界を迎える」
「そうか、では短い時間だが楽しむとしよう」
「だからそこがお前の弱点なんだよ」
《武神》は戦うことを楽しんでしまう。本来なら圧倒的な力を持って、相手が気づく前に殺すことだって可能だ。
しかし、心で強者を求めている《武神》にとっては、立ちはだかるものは全て待ち望んだ存在だ。だからこそ楽しんでしまう。まるでおもちゃを与えられた子供のように、壊さないように、大事に扱ってしまう。
「では行くぞ」
高速の攻撃が《武神》から放たれる。その攻撃を難なく《大力》は捌く。まるで攻撃が遅く見えるように、その手を叩き落す。
「レベルが違うんじゃないか?」
「ふむそうか、ではあげよう」
更に速度が上がる。まるで相手に合わせて実力を出しているようにレベルを上げる。
「ああああああああああああ」
叫び声が木霊する。まるで自分に気合を入れるように、己を超えた力を出せるように声を上げる。
そこからは修羅と修羅の戦いだった。
まるで嵐と嵐のぶつかり合い。必殺と必殺のぶつけ合い。
拳と拳がぶつかり合うたびに血が吹き飛ぶ。《武神》は己の基礎能力で治療というより再生していく。《大力》は無理やり上げた身体能力で回復をしていく。
ノーガードの殴り合い、まるで死すら厭わない戦士と神のぶつかり合い。
まだ《武神》が《大力》を見下しているおかげで攻撃が通っている。
《武神》が防御をし始めれば、無傷で《大力》を圧倒するだろう。
だからこそ、この均衡は、《武神》の甘えによって成り立っている。故に《大力》はこの瞬間を長く続ける必要があった。
「命と引換というものか、凡人は全く悲しいな」
「誰もがお前のように神になれるわけではない」
「そうでもないさ、《王道》には可能性を感じた。人間はいくらでも強くなれる」
攻撃を止め、嬉しそうに話を続ける。
「私は一番、いや、それは過言か、私は最高に人間を愛しているし、人間を信じている。私を倒せるのは他の神でも、古ぼけた伝説でもない。お前たち人間だと信じているよ」
「驚いた、お前には他の人間が全てゴミに見えてるかと思った」
「バカな、私は才能がない方だったからな、《英雄王》によく馬鹿にされたさ。本当の化物は最初から化物だ。私はただ長い時間でその技術を上げただけだ。だから、お前たち人間が本当の才能と、血のにじむような努力をすれば私にだって勝てると信じている」
「お前はどうやったら倒せるんだ?」
「私が……聞きたいよ」
心臓に痛みを覚え、先が長くないことを察する《大力》。全身に無理に血液量などを送るせいで鍛えられる筋繊維などよりも先に心臓が根を上げていた。
「さて、話の時間はもう勿体無いか、ここから先は拳で語ろうか」
「――」
既に声すら出せない。喉が焼けるように痛みを持っている。体が戦うこと以外の機能を全て排除しているようだ。
「声すら無理か、ではもう終わりにしよう」
再度ぶつかる。熱が《大力》を支配する。まるで熱湯を頭蓋骨に注がれているよう熱を持つ。脳みそが沸騰して溶けているようだ。
しかし、その熱が《大力》を上のステージへと引き上げる。熱量が全て運動のエネルギーへと帰る。脳みその熱のおかげで気絶も、痛みも感じないで済んでいた。
より一層速度が上がる攻撃。《大力》に防御など不要だった。そんな暇があれば殴ったほうが良い。そして今では体の傷を治すことすら無駄だと判断したのか、血だらけのボロボロの拳のまま、相手を攻撃する。
それに付き合ってか、《武神》も防御をしないで攻撃を続ける。
まるで燃料を入れ続ける乗り物のように、止まることができない。いや、止まってしまえばもう走り出せなくなってしまう。
だから燃やし尽くすまで動き続ける。残り少ない燃料だとしても、それを燃やしながらも、戦い続ける。
拳の骨はもう既に形を成していない。しかし殴るのには問題はない。威力が下がろうが攻撃が出来れば問題はない。目が霞む。しかしそれも問題はない。
力が湧き上がる。今なら大陸でも持ち上がるのではないか? そんな自信もあるが目の前の《武神》には力でも拮抗されている。
《大力》という力を無理やり命を燃やし、力すらも底上げするこのスキルは、本来であれ時間制限ありで無類の力を発揮するというものだ。
強くなれば強くなるほど《武神》の強さがわかってしまう。そこが悔しく、そして羨ましかった。戦士として生きてきた自分の人生がまるで無駄になったような感覚に陥る。
だからと言ってここで倒れる訳にも行かなかった。
燃え尽きる直前、凄まじい轟音が響いた。まるで土砂崩れのような、何かが崩れるような音友に地面全体が揺れていた。
「ああ、楽しみすぎたか」
それは谷を繋ぐ橋が落ちる音だった。唯一の移動手段。これで、後続の人間達が彼らを追う手段はなくなった。
ヒロノキアへの道は遠回りの道しかなくなった。このまま彼らが大軍で追ってくるのはかなり難しくなっただろう。
「まぁ、目的は達成したから問題はない。それにこのままお前らを追うつもりはない。私たちの目的は既に達成されたからな」
《大力》は男の言っている意味が分からなかった。目的? 達成した? 侵略が目的ではないのか? そんなことが浮かんでは消える。霞みがかった脳内ではまともな思考はできなかった。
《大力》の体がグズグズに崩れそうになる。まるで中身が溶けて流れ出ていきそうな激痛が体を支配する。もう長くない、それは本人が一番分かっていた。
「さて、お前を殺そう」
声を出そうとしても体がそれを拒否している。
立っていることがやっとだ。だからこそ倒れる訳には行かなかった。
「最後に名を聞こう」
その言葉を聞いたとき、なぜか《大力》の心には歓喜の気持ちが支配していた。強者に認められるという喜び、心からこの男に認めて貰えられたのかという喜びが心を支配していた。
「《大力》シャ……ナ、―――」
無理やり喋ろうとしたが、口から出る音は言葉とはならない。
「そうか、《大力》、お前もまた強者だったよ」
拳が《大力》を捉える。音もしない綺麗な正拳突きだった。
腹部に大きな穴が空く、《大力》が驚いたのは、痛みを全く感じないことだった。
体が崩れそうになる。しかし、なんとか耐える。
「――」
自分の放った音が耳に届かない。なにも聞こえない。目すらも見えない。
真っ暗な世界が広がる。まるで自分が闇に堕ちたような錯覚に陥る。いや、実際落ち始めていた。
大渓谷に落ちていく《大力》。
意識が闇に落ちていく。
ああ、これが死か。
「あとは頼んだぞキース、それに小僧」
その音が世界に響いたかどうかは分からないが、これが《大力》の最後の言葉だった。




