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刺客のフロンティア2

 俺は目を瞑る。なんだかんだいってこの世界も俺の世界とそんなに変わらないのでは? と思っていた。しかしそれは全く違った。躊躇いなく振り下ろされる剣や槍、命を刈り取ろうと引き絞られる弓。


そうだよな相手だって命を狙ってきているんだ。だったら俺たちが命を奪うのだって当たり前だ。殺らなくては殺られる、そんな当たり前のことなんだ。だけどそんな当たり前のことを俺は全く割り切れなかった。


 悲鳴が聞こえる。大の大人があんなにも情けない声を出しながら、血しぶきをあげ、その生命を散らしていく。むせ返る血の匂い、剣と剣がうちあわされる嫌な音、男の断末魔、そのどれもが俺の心を蝕んでいく。


俺はなぜか目を開けてしまう、止せばいいのに、見なければ幸せなのに、俺は瞼を上げることを止められない。


 三十人ほど居た男たちが、半分ほどの人数になっていた。そして減った数だけ増える死体と血の跡。アイリさんとシロナちゃんはその流麗かつ華麗な動きで敵の命を刈り取っていく。


俺は耐えきれなくなって胃の中のものをすべて吐き出してしまう。もう耐えられない、この場所から逃げたいとも思う、しかし体が動かない。足がすくんで動かないのだ。


「マスター! 危ない!」


 そんな声で我に返る。ああ、そうだ。戦闘において一番怖いのは何も知らないことだ。今俺に何が起こっているんだ? ああ、そうか後ろに一人いるのか、なんでこんなに近くに来るまで気づかなかったんだろう。死がこんなにも近いのに。


「主!」


 ああ、分かってた。最初から認めたくなかっただけだ。そうこんなのが現実だって認めたくなかったんだ。俺の世界はあの平和な世界で、こんなのは夢だと思いたかったんだ。あの世界は嫌いだった。夕実が居て爺が居て、学校があって、友達が居て。そんな世界が嫌いだった。でもそれが俺の世界だった。だからこんなのが現実だと認めてしまえば俺の世界はなくなってしまうような気がしていた。しかし今はっきりと認識する。ここは現実だ。


「ああ、そうだよな。ここは夢なんかじゃないんだ」


 俺は気合を入れる。どうやら相手は俺をもう仕留められると思って油断している。まずは相手の方を向こう、そうしたらどうするか、いや考えても無駄だな……俺は戦うだけだ。


「死ねっ!」


 相手が剣を振りかぶる。鋭い剣が俺の命を奪おうと振りかざされる。俺は咄嗟にその剣を小手で横から叩き、軌道をずらす。


「えっ?」


 相手が呆けている間に、回し蹴りを相手の顔にめがけて放つ、相手の顎が砕ける感触がする。しかし俺は攻撃の手を緩めない、そのまま掌底を相手の腹に放ち、そして最後に俺はスキル『ダブル』を発動させ相手顔面に向かって拳の二連撃を放つ。


相手が血まみれになりながら吹っ飛ぶのが見える。多分相手は死んだだろう、でも俺は何も感じられなかった。人を殺したというのに、俺は何も感じることすら出来なかったのだ。


 俺が一人を倒している間に残りの半分は片付いたようだ。そこにはただの死体だけが転がっていた。


「大丈夫ですか! マスター」


 二人が駆け寄ってくる。


「うん? 大丈夫だよ、怪我だってないし」


「いえ、そういう事では……」


「うん? どういう事? 少し疲れてはいるけど、大丈夫だよ」


「無理してない?」


 無理? どういう事だろう? 分からない。


「うん、全然大丈夫だ。それよりも早く『閃光』とやらを探しに行こう」


 まぁ期限は設けられてないが、早めにした方がいいだろう。俺もこんな役割を早くやめて元の世界に戻りたいし。


「大丈夫ならいいのですが、ではゆっくり行きましょう。『閃光』ももう近いことですし」


 そうして俺たちはまた歩き出したのだった。

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