英知のフロンティア1
ハルモニアでの件が解決して帰ってきてから一週間、俺はやっと自分の日常に戻っていた。
「よぉ、久しぶりだな。学校休むとか不良だな」
「久しぶり、ランス。こっちはこっちで色々あったんだよ」
「なんか顔が死にそうだもんね。六首会議だっけ? それにハルモニアも大変だったらしいね」
俺は久しぶりに学校までやってきていた。最近は色々ありすぎて学校には来ていなかったから、この光景も懐かしい。
クラスには少し余所余所しい空気が充満している。前回はどうやら俺が王だとは知らなかった生徒たちにも、流石にもう浸透しているらしい。このクラスにはこのヒロノキアの王都だけではなく、地方からも結構な数の学生が来ているので、そういった事情には詳しくない学生も多いから浸透するのも遅かったのだろう。
そんな空気の中、普通に話しかけてくれるこの二人がありがたい。
「おーし、授業を始めるぞー、っとその前に今日は新しい生徒がいるぞ。入ってきてください」
転校生みたいなものか、まぁこの国にこの学校以外に学校はないので、そんな事はありえないのだが。どちらかといえば新入生と言ったほうが正しい気がする。
「トコヤミ・ユミです。よろしくお願いします」
俺の顔は綺麗に机にダイブするように落ちていった。
なんだ? なんで夕実がここに来た? というか、どうして周りはそれを許した!?
「あーじゃあ、あそこの問題児エリアに行ってくれ」
「おい、問題児エリアってどこのことだ?」
問題児の中心地がそんな的外れのことを言っている。アホに王様に、馬鹿が居れば、そりゃあ問題児だ
ろう。まぁ王様に向かってそんなことを言える教師も教師だが。
「おい、新しい生徒がこっちに来るぞ? どうしてだ?」
だからお前も俺も、エルも大問題児だからに決まってるだろが、というのは俺が机に突っ伏してなければ言えただろう。
「えへへ、よろしくね流ちゃん」
「なんで居るんだよ!? どうして来ちゃったんだよ!」
「だってアイリさんだっけ? が学校には行ったほうが良いって、流ちゃんもいるって話だし」
いや、学ぶことには別に反対な訳ではない。しかし、俺と同じクラスにしなくても良いし、それにこの世界にはまだ慣れてないはずだし、もう少しゆっくり慣らしたほうが良かったのではないか。まぁ今更そんな意見は無駄ではあるのだが。
「えーと、ユミさん? リューマと知り合いなの?」
「あーえーと、うん、そうだね。これからよろしくね。えーと……」
「私はエル、エル・グレースね。このでかい無駄な人間がランス・マリアだよ。よろしくね」
「うん、よろしく」
「よろしくな!」
そんな光景に俺は頭が痛くなるのだった。
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「王様を雑務に使うってどうよ?」
「まぁまぁ、それに図書室にも用事があったからいいじゃん」
放課後、俺と夕実はあのやる気のない教師に頼まれて、図書室まできていた。そりゃあついでとは言え、王様だぜ? なんかもっとあるのではないだろうか? まぁ俺もそういう扱いは嫌だから良いのだけど。それに王様なんて彼らからすればいきなり現れた訳のわからない存在だ。まぁ国民には信じられてる伝説の存在なので、なんとか受け入れられているようだが。
「そりゃあそうなんだがなぁ」
俺の中でも王様のイメージがどんどん崩れていく。というより周りの王様に比べて俺の威厳がなさすぎる気がする。まぁ、たかが高校性が威厳だなんだなんて可笑しな話でもあるのだが。
校舎を歩き、図書室へとやってくる。やはり紙というものがまだ貴重なようで、蔵書自体はそこまでではない。しかしこの国唯一の学校ということで、本自体は貴重なものが揃っているようだ。まぁクラウザーに聞いただけだから、何がどういうふうに貴重かなんては分からないのだが。
「ん?」
静かな図書室には本をめくる静かな音が聞こえてきていた。
太陽ももう少しで沈む時間、こんな時間まで勉強とは勉強熱心な学生なことで。元の世界では図書室なんて利用したことがなかったからなぁ。
とりあえず、ここにはヒロノキアの歴史などを調べに来たのだ。二代目の王様は異世界の人間で、どうやら若い頃に来て、そのまま行方不明になってしまっているらしい。純粋にこの世界で行方不明になった可能性もあるが、もしかしたら元の世界に戻ったのではないだろうか? 全く手がかりがない現時点ではなんでも良い、とっかかりが欲しいのだ。
「しかし、全くわからないな」
本はあるのだが、どれがどれかが全く分からない。文字は問題なく読めるようにはなっているのだが、題名が独特すぎてどれか分からない。
「本当だね」
夕実にもさっぱりらしい。この世界はどうやら共通の言語が使われているらしい。どの国に行っても話は通じるのはありがたいが、どういう仕組みなのだろう? まぁこの世界には神様というものが確実にいるという伝承があるし、なんか神様のおかげなのだろう。
「あのぉ、何かお探しですか?」
そんな俺たちに声を掛けるのは、メガネの落としそうな少女の姿だった。しかし、何か見たことがあるような。
「あ、キリシス・オルトメア」
そうだ、入学式の代表をしていた少女だ。しかし、何かあの時感じた堂々としたような雰囲気は感じない。
「ひゃい、あ、えっと違います」
「ん?」
確かに言われればなんか違うような気がする。まぁ一度しか見たことがないので、何が違うかは分からないけど。
「キリシス・オルトメアは自分の妹です。はい。というか……あ、失礼しました!!」
あー、兄弟か。道理で似ているわけだ。でも雰囲気自体はかなり違う。妹の方は何か自信に満ちているような雰囲気だったが、彼女は何か頼りないような、なんだかこっちまで不安になってしまうような。
「ん、何がですか?」
「あ、いえ、王様なのにこんな普通に話しかけちゃってすいません。本当にごめんさない」
「あー、そういうの新鮮だわ。でも良いよ、そんな改めなくても。というか、お姉さんってことは先輩か。俺が敬語を使わなくちゃいけないですね」
「やめてください! 私はそんな、敬われるほどの人間じゃないので」
確かに先輩だから敬うというのは最近では古い考えなのだろうか? まぁ、確かに一理あるとは思うのだが、やはり先達の者というのは敬うべきではあると思う。
「いや、そういうわけには」
「いえいえいえいえいえいえ」
「もう、めんどくさい。両方共普通に喋れば良いでしょ!」
「まぁ、俺もそれの方が楽でいいけど」
「はぁ、まぁ。で、何か探していたんですか?」
敬語は治っていないのだが、多分彼女は根がこんな感じなのだろう。これ以上の譲歩はできそうにないな。故にツッコミはもうやめておこう。
「オルトメア先輩、この図書室で何かヒロノキアの歴史に詳しく書いてあるのってないですか? 特に二代目王様について書いてあるものとか」
「あーだったらこの『超歴史超絶最強最高伝説』とかがそうですね」
なんという名前だ。この本を出した人間の気がしれない。というよりこんなアホな本を書けるのはすごいの一言だ。題名からしてアホだということが分かる。
「あ、ありがとう」
「いえいえ、感謝などされるようなことじゃありません。私はもう少し本を読んでいますの……」
「カルア、帰るよ?」
「って、こんな時間ですか。それではすいませんがお先に失礼します」
図書室に入ってくるもうひとりの影。それはキリシス・オルトメア本人だろう。確かに見比べてみると、似ているようで全然違っていた。
「ああ、ありがとうな」
「感謝なんてもったいないです。それでは失礼します」
そう言って二人で出て行ってしまう。
「さて、俺たちも、これだけ借りて帰るか」
「そうだね、というかこれって持ち出して良いのかな?」
「いいんじゃない? というか王様だし、良しとする」
「横暴だねぇ」
「たまには王様らしいことをしたいものさ」
俺たちは厚くも、薄くもない本を持って、図書室を出る。日は半分ぐらい地平線上に落ちており、もう夜が近くなっていた。
「キリシス・オルトメアね」
「どうしたの?」
「いや、学園創学史上最高の天才だって言われてるらしいんだよな」
学園ができたのは確か二代目の王、《英雄王》の時代だった気がする。ということはそんな昔からある学校の中でも天才なのか。もしかしたら……
「へぇ、そんなに頭が良い子なんだねぇ」
「まぁ、噂で聞いただけなんだけどな」
大天才という噂は割と有名な話らしい。ということは、彼女が英雄である可能性も無きにしも非ずって感じなのかも知れない。
称号とは人々の願いだ。英雄もまたそれに準ずる故に悪名だろうと、美名だろうと、称号とは人々にこうあって欲しいと思われて生まれるものだ。称号持ちは時代が作るとは昔の偉い人の言葉だそうだ。
「彼女が英雄の素質があるなら楽で良いんだけどなぁ」
「ああ、そういうことね」
「うむ、現状一刻も早く戦力を揃えなくてはいけないからなぁ」
そりゃあ自分の世界の世界には帰りたい。しかし、この世界でもやらなくちゃいけないことだってある。こっちを蔑ろにして、自分だけ楽になりたいとは思わない。
それにハルモニアで《武神》や《王道》と対峙して理解した。確かにアイリやシロナ、おっさんは強い。でも全然足りない。そもそも強さのレベルが違うのだ。俺だって戦いを通じて少しは強くなった自信もある。しかし、アレらに比べれば、自分はまだまだ駆け出しのひよっこにすらなっていない。
「まぁ、手がかりがない以上地道に探すしかないんだよな」
「流ちゃんならなんとかなるよ。頑張ろう」
「ういうい」
王は英雄を集める。五百年は見つかっていなかった英雄は、今やアイリなどを含め四人になっている。あと三人、それさえ集め切れればヒロノキアは安泰であると言えるかも知れない。
「早急に集めなくてはなぁ」
そう思いながら、俺は王宮へと帰っていくのだった。




