始動のフロンティア
「やっぱすごいな」
外から見たときもその凄さは分かったが、やはり中も想像通りの凄さだった。
「ええ城はその国のシンボルであり、要塞ですから」
まぁそうだよな、ちゃっちい城を作って簡単に落ちてしまったら意味がないもんな。
しかし、俺の想像をはるかに超えているぞ、これは夢とは思えないな。さっき壁を触ってみたが、ものすごくリアルな触感だった。これは本当に夢なのか?
「あんまりきょろきょろしないで」
怒られてしまった。いやでもこれ本当にすげーんだよ。一個一個の装飾品も手が込んでいるし、何と言ってもすべてがでけーんだ。
「まぁまぁ、マスターは城が初めてのようですし初めは誰でも驚きますよね」
城もすごいが二人もすげーな、二人とすれ違う人すべてが会釈していくぜ。なんか俺まで偉くなった気分だ。でもみんなの視線が痛いのは変わらないんだけどね。
「もうすぐ着きます。少し覚悟をしておいてください、『議会』の連中は私たちに少し厳しいですから、とくに貴族派の方々は」
ひときわ大きな扉の前で止まってアイリさんはそんなことを言う。まぁそりゃあ今の自分たちの立場が危うくなるんだ、俺たちの存在を快く思わない人も多いだろう。
俺は再度覚悟を決めて扉の前に立つ。まぁ多分大丈夫だろう、多分だけど。俺もあまり落ち着いた人間とは言えないからなぁ。
「では行きましょう」
俺たちは大きなドアを開け、その部屋の中へと入っていく。
中は半円形上の作りになっていて、ちょうど国会で会議をするようなのような場所の作りになっていた。そしてその中には席を埋め尽くすほどの人間が座っていた。
「おやおや、これは《剣聖》様と《鉄壁》様ではないですか、今日はまたどういったご用件で?」
その大勢の人の中から一人の男が立ち上がる。その男は嫌らしい笑みを浮かべながらこちらに話しかける。その顔には深い皺が刻まれ、服はこの部屋に居る誰よりも豪華だ。
「貴族派のエリシル・ノワール……」
アイリさんが呟く、どうやらこいつが貴族派のようだ。しかも真っ先に話しかけてきたところを見るとこいつがリーダーなのかな?
「英雄のみなさんは『議会』ではなく、『円卓』に行かなくてはいけないのではないですか? あ、そうか『円卓』はもうかなり前になくなったんでしたね、失敬失敬」
部屋全体から嘲笑が漏れる。どうやら貴族派が優勢というのは本当のようだ。しかし、一角だけその下卑た笑いが聞こえない区画がある。一番左の隅っこの方に黙ったまま座っている人間がどうやら民衆派のようだ。
「そうやって笑っていられるのも今のうちです。私は今日は『円卓』の再開をお願いしに来ました」
「ん? どうやってだ? 英雄も二人しかいないというのに?」
「いいえ、この方を入れて三人になります。この方、トウドウ・リュウマ様は召喚の儀によって召喚された正真正銘の王です」
回りから驚きの声が上がる。どうやら何か俺は意外な存在だったらしい。
「まさか本当に現れるとは! しかし! その普通の青年が王だって言う証拠はどこにあるんですか? ただのおかしな恰好をした普通の青年じゃないですか!」
おかしくて悪かったな、しょうがねぇじゃん起きたらこの世界だったんだから。そうか俺は今スウェットに半袖か、この姿じゃあこの世界では目立つに決まってるよな。スウェットなんて着ている人間は町にはいなかったし。
「失礼な! しっかりと《剣聖》と《鉄壁》の二人が召喚の儀を見届けています!」
「はっははそりゃあ、お二人は『円卓』を復活させ、御自分の権力を回復させようと必死ですから嘘ぐらいはつくでしょう」
たしかに証拠がないんだよな、というか俺自体王だっていう自覚がないし。
「くっ、私たちを愚弄する気か!?」
「少し落ち着く」
「くっ、ではどうすればいいというのです? 何をすれば認めてもらえるのです?」
「ではこうしたらどうだろうか?」
左の一角から凛とした声が響く、その声で騒がしかった『議会』は一瞬で静かになる。
「カノン・クラウザーっ、なにかいい案があるというのですか? 私たち全員が納得できる案が?」
銀髪の長髪に、黒い服装、さっきのおじさんと比べると豪華さには欠けるが何か感じるものがある。彼からは何か強者の匂いがする。
「そうですね、かの屁理屈で有名なノワールさんを納得できるかは心配ですが、多分納得してもらえると思いますよ」
どうやらこのような言葉の応酬がここでは日常茶飯事のようだ。俺だったら真っ先に殴り合いになりそうだな。
「くっ、ではその大層な自信の根拠を聞かせてもらおうか?」
「では、私の愚策を発表させてもらいましょう。私の愚策とは……英雄をもう一人連れてこさせるというものです」
その発言に静かになった『議会』がまた騒がしくなる。なんだ? そんなに驚くようなことか?
「それを本気で言っているのか? 貴様は本当にできると思って言っているのか?」
「ええ、だって伝承では王とは英雄を集める存在なのでしょう? 英雄を連れて来れば『円卓』は四人になりますし、王という素質も認めざる負えない。これ以上の案はないと思いますが?」
「しかしっ、クラウザー! 私たち以外の英雄を集めるなんて!」
「それしかないと思いますよ? 《剣聖》様、どうやったって今の状況でその青年を王と認める証拠と実績がないのですから」
「うん、そうだね」
「シロナ!」
「クラウザーの言うとおり、私たちにはそれしかない」
「しかし……」
「いいよアイリさん、俺がやればいいんだろ?」
「マスターっ!」
俺は口を開く、どうやら俺が彼女たちにできるのはこれぐらいだしな。俺も今は彼女たちの王だ。覚悟を決めよう。
「分かったよ、俺がもう一人の英雄とやらを連れてくる。それでいいな?」
「ええ、分かりました。王様が言うならそれでいいでしょう。では私たち『議会』は英雄をもう一人連れて来たら、『円卓』を復活させると確約しましょう。それでいいでしょうか?」
一斉に拍手がなり始める。どうやら賛成のようだ。
「ではお待ちしておりますよ、まぁどれくらいかかるかわかりませんねぇ、もしかしたら私が生きている間には連れてこれないかもしれませんしね」
俺たちが部屋を出る直前にそんな言葉を投げかけてくる。最後まで嫌味な野郎だ。覚えてやがれその顔を絶対に歪ませてやる。
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「はぁ、しょうがありません。言ってしまった以上、私たちは英雄をもう一人連れてくるしかありません。まぁ絶望的な状況ですが、なんとかしましょう」
「まぁ、やるしかない」
俺たちは城から出て、さっきまでいた小屋まで戻ってきていた。
「どうしてそんなに暗いんだよ、たった一人連れて来ればいいんだろう? 簡単じゃん、そんなに悩む事か?」
しかも英雄だろ、そんなに有名な人間ならすぐに見つかると思うのだが。
「はぁ、マスターは知らないでしょうが、私たち以外の英雄はここ五百年王国に仕えていません。五百年前を境にぴったりと英雄は姿を消しました」
は? 五百年? そんなに? 俺はどうやら大変なことを約束しちまったようだな、初めて実感した。これ無理じゃね?
「え? じゃあどうやって連れてくるの?」
「はぁ、まぁ大丈夫です。一人なら心当たりがあります。でも連れてこれるかは別問題なんですよね」
「じゃあ簡単じゃん、なんだどんな難題かと思えば、居場所が分かれば後は連れてくるだけだな」
「まぁ連れてこれればの話なんですけどね、じゃあ行きましょうか《閃光》の元へ」
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城の中のとある一室、薄暗い部屋の中には何人かの人間が話し合っている。
「いいのですか? あんな約束をして、あの少年が本当の王だった可能性もあるのでは?」
「まぁ万が一王だったとしても、消えてしまえば関係ないよ。しかもほぼ確実に奴らは『閃光』の元へ行くだろう」
「そうですが、あの男についているのは《剣聖》と《鉄壁》ですよ? どう殺るのですか?」
「いくら英雄が二人ついていようが、精鋭から普通人間を一人守るのはつらいであろう?」
「ははは、それはそうですな」
「安心しろ、私たちの立場は一生安泰だ」
男たちの下卑た笑いが部屋に響く。
「ふふふ、トウドウとやらが生き残ることは万が一もない」