偽物のフロンティア2
「ここか?」
俺たちは一つの門の前で止まった。しかしそれは門というにはあまりにも大きすぎた。家の門っていうレベルじゃねーよ、城の門って言われても納得するぐらいの大きさだ。
「ああ、ここが僕の家だ。驚いただろう」
胸を張るキース。しかし、城に住んでいる俺にその自慢はどうかと思うけどな。
「家に何かご用でしょうか?」
一人の衛兵らしき人物が近づいてくる。
「ああ、連絡が言っているはずだが」
「えーと、今日の訪問客は……え、し、失礼いたしました。リュウマ様でしたね。そしてそちらは大力様と鉄壁様ですね」
あー、ホントに俺まだ知名度低いっぽいな。まぁ色々あったし、メディアが発達していないこの世界ではしょうがないのかもしれない。悲しいけどな。
「そしてそちらは?」
「えーと聞いてない?」
「は、何も聞いていませんが」
「えーと、一応グイン家の長男なんですが?」
「はい? どういう事ですか?」
話が通じていないようで、これはこいつと話していてもしょうがないな。
「まぁいい、こいつの身分は俺が証明するから、とりあえず中に入れてくれ」
「は、はぁわかりました」
俺たちは人間用の通用口へと案内された。そして中に入ると、最初に目に入るのは庭だった。
手入れの行き届いた広い庭だ。木は綺麗に揃えれており、石の道が奥の館へと続いていた。そんな中、一番目を引くものが庭の中心へと鎮座していた。それは綺麗な水を上空へと吹上げながら、水しぶきを辺りにまき散らしている。まぁ要するに噴水だ。
「スゲーな、こんなもんまであんのかよ」
「田舎者」
「うるせーよ、こんなものがあるなんて思わなかったんだよ」
流石金持ちだ。こういう贅沢には糸目を付けないな。
「ほら、遊んでないで行くぞ! こんなもの珍しくもないだろう」
ずんずんと進んでいくキース。こんなとこに本当に住んでのかよ、あいつはやっぱりすげー奴だったんだな。まぁ城に住んでる俺が言うなって話なんだが。
「はいはい、ほら皆行こうぜ」
俺たちはキースの後へと続いていく。
「さぁ、開けてくれ」
あれから数分ぐらい歩き、屋敷の入口へとたどり着く。やはり大きなドアだ、こんなに大きくしてどうするんだ? どうせ人間ぐらいしか通らないのに。
「はいはい、というか扉ぐらい自分で開けろよ」
「こんな重い扉開けられるわけないだろう」
「はぁ、わあったよ」
俺は大きな扉を力を込めて、開け放つ。
俺たちは大きなエントランスへと立つ。中は豪華絢爛を誇っており、目がくらむほどの輝きを放っていた。
城ほどの大きさはないが、人が暮らすには大きすぎる家だ。こんなに大きくて不自由しないのか? 俺だって城にはできれば住みたくないのに。
「広いな」
「そうだろ、グイン家は三貴族の一つだからな。これぐらいじゃないとな」
「お待ちしておりました。藤堂様御一行、私グイン家執事長をしておりますセバスチャンと言います。よろしくお願いいたします」
階段のそばには老年の男が立っていた。白髪を綺麗になでつけ、顔には深い皺が刻まれていた。執事服をビシッと決め、背筋はピンと伸ばし、とても丁寧な印象を受ける。
「セバスチャン、僕だ! キースだ!」
「では藤堂様、こちらにどうぞ」
セバスチャンと呼ばれた執事は、キースなど意に介していないように、俺へと話しかける。
「なぁ、セバスチャン」
「グース様がお待ちです。こちらの部屋へどうぞ」
なおも無視をする執事。何か意図して無視しているような気がする。
「まぁいい、そこらへんはグースとやらに聞こう。ほらキース行くぞ」
腑に落ちていない様子のキース。まぁいきなり執事に無視されだしたらおかしいと思うわな。
「ほら行くぞ」
おっさんに首根っこ掴まれ引きずられるように連れて行かれるキース。本当にあいつはどうしようもないやつだな。
「主、行こ」
「おう」
俺は二人についていき、屋敷の奥へと入っていく。
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「遠路はるばる御苦労だ。私が三貴族の一人、グース・グインだ」
目の前の年老いた男が自己紹介をする。さっきの執事よりも年は上だろうか? 執事が七十ぐらいだとすると、こちらの男は八十も後半と言ったところか。頭は禿げ上がっており、顔は梅干しのように皺くちゃで、腰は曲がっていた。しかし、その眼光はギラギラしており、衰えは感じられなかった。
「色々あって挨拶が遅れた。俺がヒロノキアの王、《武帝》藤堂流馬だ」
俺たちは握手を交わす。握られた手は弱弱しく、崩れてしまいそうなほどだった。
「カカッ、別にそんなことはどうでもいいわ。で、今日は何用か?」
「分からないか?」
「ふむ、分からんな。む?」
どうやら後ろのキースに気づいたようで、表情が一瞬歪む。
「そういう事か……そのことについては私からは何も言えんな」
「どういう事ですかおじい様!」
我慢が出来なかったのか、キースが前へと出てくる。
「帰れ!」
一喝、老人の声に俺たちでさえ一瞬硬直する。
「私ができるのはそれぐらいだけだ。今日は帰れ、これ以上は何も言えん」
「こいつが狙われているのもそれが理由ですか?」
「そうだな、私からはそれしか言えん」
それっきり、黙ってしまうグース。
「やぁ、父さん。どうしたんだい?」
途中で男が一人入ってきた。その男はよく言っても悪く言っても普通、何とも特徴のない人間だ。この世界の人間はみんなキャラが立っていたので忘れてた、普通の人間というものを。
「お前は今出てくるな」
「どうしてだい? ああ、そういう事か」
キースを一瞥して、何か分かったような顔をする男。
「分かったなら早く出ろ。お前が居ては話がこじれる」
「分かったよ父さん」
そういってその男は出て行った。
「今のは?」
「これも言えん。すまんが、早く引き取ってくれ」
口を固く閉ざす爺さん。もうこれ以上は無理だな。
「分かった。今日は帰ろう。いつか説明してくれるか?」
「解決できればな」
「分かった、帰ろう」
「おい、どうしてだよ!?」
「ほら帰るぞ」
またもや首根っこをつかまれ連れて行かれるキース。こればっかりはしょうがない、この爺が何か喋るとは思わないしな。
「おい、小童」
「なんだ?」
後ろからのしゃがれた声で呼び止められる。
「この件には関与するな。これはグイン家の問題だ」
「は? どういう事だ」
「これ以上は言えん。そしてお前はあいつを守るな」
「はぁ、それは約束しかねます。一応友達ですから」
俺は一礼して、部屋から出る。
「じゃあ、帰るか」
俺たちは屋敷から出るため、ドアへと向かう。そのとき俺は何か気配を感じ、階段の方へと目を向ける。そこには少年が一人いた。キースによく似た一人の少年が。
「どうしたの? 主」
「ん、ああ」
もう一度見るとその少年の姿は何処にも見えなかった。
「なんでもない。早く帰ろう」
俺たちは何の収穫もないまま、帰路につくのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「どうして僕がこんな目に合わなくちゃいけないんだ!」
夜、城に戻ってきた俺たちは、また円卓を囲み、会議をしていた。
「なんか分かったか?」
「いいえ、なにも分かりませんでした」
アイリはさっぱりといった表情で首を振る。
「あー、行き止まりかよー。なんだよグイン家の問題って、明らかにあいつらキースを避けていた、というよりいないものとして扱いたいみたいだったぞ」
そうだ。あれは気にしないようにしているのではない、居ないものとして扱っていた。なんとかして視界に入れないようにしていた節がある。
「分からんな。グースとかいうやつは、キースのことは知っていた。しかし孫だとは思っていないようだ。何か厄介者を見ているようだったぞ」
「おっさんをそう思ったか、どう考えても孫を見る目じゃなかったぞ」
「どうしておじい様は……」
「何か心当たりはないのか? あの爺の口ぶりからすると、今回お前を狙ったのはグイン家だぞ?」
「そんなわけない! そんなわけ……」
自信がなさげなキース、まぁ疑いたくはないよな。
「だが現実を見ろ。この件についてはあいつらは明らかに黒だ。そのことを前提に動いた方がいい。それにあの男のことも気になる。爺さんのことを父さんとか呼んでたぞ」
あの何の変哲もない男、何も感じないが、妙に引っかかる。それに、最後に見たあの少年も気になる。
「多分その男は現当主、アース・グインでしょう。グースの息子はその人ただ一人ですから」
「だってさキース、何か知ってるか?」
「いいや。当主は僕の父、リース・グインのはずだ。そんなアースなんて人間は知らない」
またもや意見の食い違いがある。どういう事だ? なんでこんなにも意見が食い違うんだ?
「お前が嘘ついているとは考えたくないな」
「僕は真実を言っている!」
声を荒げるキース。どうもキースも余裕がないようだ。
「分かってるよ。でも、現実はお前が間違っているとしか思えないぞ」
「そうだけど……」
シュンとしてしまうキース。まぁ、こんだけ訳分からない状況なら、自信もなくなるか。
「あー分からん。もう明日また出向けばいいか」
「うん、それでいいと思うよ?」
一斉に臨戦態勢に入る。
「おいおい、物騒だな。もっと穏やかに行こうぜ」
その男は、窓からこちらを覗き、嫌な笑みを浮かべていた。
「はぁ、城の警備はどうなってんだよ」
さすがに侵入者が入りすぎだろ。セ○ムなみにとは言わないが、もっとちゃんとしてほしいものだ。
「優秀だと思うよ? まぁ僕ちんを見つけるのには力不足だけどね」
「で、その僕ちんは俺たちに何か用かよ?」
危険まで冒してここまでくるんのだ、たぶん何か重要な情報なのだろう。
「あー君たちが悩んでいることについてだよ。それに僕ちんの名前はリジェット・ウルクだよ」
「で、そのウォッシュレットがなんだって?」
「全くあってないけどまぁいいや。君たちはそこの子供について知りたいんだろ? だったら明日またお家に来るといいよ。そしてら色々なことが分かるだろうし」
奴はオレンジの髪をかきあげる。むかつく野郎だ。なんかそこそこのイケメンだから、その仕草がとてもよく似合っている。
「おい、どういうことだ?」
言っている意味が全く分からない。なぜこんな意味不明な男がそのことを知っているのだ。
「内緒だよー、それに今回は僕がリーダーじゃないから、下手なことは言えないんだよ」
「訳分からん。会話をしろ!」
ペースが崩れる。だからこういう人間は嫌なんだよ、俺がイライラしてばっかだ。
「じゃあ、僕ちんは行くよ。また明日ねー」
「おい、待てよ! お前はなんなんだよ!?」
去りゆく、奴に話しかける。
「あー、僕ちんは『天秤』の《自由奔放》リジェット・ウルクだよー、覚えておいてねー」
「は?」
奴はそういってどこかに消えて行った。
「おいおい、どうしてこんなに楽しそうなことばっかり起こるんだよ」
はぁ頭が痛くなってきたぜ。でも行くしかねぇよな。友達が困ってるのを放っておくわけにはいかないしな。
「どうします? って決まってるようですね」
「当たり前だ。放っておけるかよ。明日また行くぜ、キース安心しろ。お前をしっかり家に帰してやるからよ」
「あ、ああ」
「んじゃあ、ちょっくら家族喧嘩に介入しに行くか」




