始まりのフロンティア4
「乗っ取られている?」
は? なんかすごい平和そうな町に見えるんだが、どういう事なんだ?
「それは言い過ぎ」
「しかし!」
「主はまだこっちに来たばっか、事実だけ話すべき」
「くっ、一理ありますね」
「それが全て」
シロナちゃんアイリさんに対しても結構辛辣なんだな、というかあんなに小さいのにしっかりしてるんだな。
「分かりました。事実だけをお伝えします。この国は本来二つの機関によって運営されていました。民衆から集めた代表者で作られた『議会』、そして私たち英雄で作られた『円卓』。本来この二つの機関で話し合いをし、国の方針を決めていくのがこの国でした」
日本でいう衆議院と参議院だろうか、こんな世界だから王様の独裁かと思っていたが、意外に政治体系もしっかりしてるんだな。
「しかし現在この国に居る英雄はふたりだけ、故に今やほとんど『議会』での決定が最終決定となっています。『議会』の連中は私腹を肥やすような事しかしていません!」
ふむ、ここも日本と同じようなものか、まぁ人間だししょうがないのかもしれないな。
「だから私は乗っ取られてると言ったんです。これでは国の意味がない!」
「それについては私も同意、でもまぁしかたない」
それもそうか、七人もいれば話し合いにもなるが、二人では機関としては成立はしないよな。ましてや国の方針を決めるものだったら、なおさら難しいだろう。
「本来『議会』と『円卓』では、『円卓』のほうが優勢なんです。だけど今の状況では私たちは何もできません」
悔しそうな顔をするアイリさん。あれだけ慕われていた二人だ、国民のことが大好きなんだろうな。それ故に現状にはつらいものがあるよな。
「まぁでも二人しかいないならしょうがないんじゃないか? 議会の人も二人だけに任せるのはつらいだろうと思うし」
「しかしっ! これではなんのための国ですか! 国民を蔑ろにする国がありますか!?」
「少し落ち着く」
まぁ興奮する理由もわからないでもない。俺も政治家という人間が好きなタイプではないからな。
「でもどうするんだ? どうやったってこっちには英雄は二人しかいなんだろ?」
どうやったって二人しかいないんだ。このままではどうしようもないと思うが。
「大丈夫です。マスターを入れれば三人です。この人数なら何とかなると思います」
そうか、二人で不安なら三人いればいいのか……ってなんで俺?
「ちょっと待ってくれ、なんで俺が入るんだよ? 俺は普通の人間だぜ、少なくとも英雄なんてもんじゃないぜ!?」
「大丈夫ですよ、なんたって『王』さまですから、『円卓』は王と英雄で構成される機関ですから、王様を入れれば三人。八人中三人とは言えこっちにはマスターがいますからあっちも強気には出れないと思います」
ああ、そういえばなんか知らないけど俺王様なんだっけ、いまだに実感がわかねーよ。
「俺は王様なんてやりたくないんだけど、本当に」
俺にそんな大役を出来るわけがない。なんたって現実じゃ普通の学生だったんだぜ。
「ダメですか? どうしても?」
くっ、そんな上目使いで見られても……俺にはできないよ。
「ごめんな、俺にはそんなことは出来ない」
いくらこれが夢だと言っても俺はそんなものをやりたくない。王様なんてものには絶対になりたくない。というか一般人で王様をやりたいなんて人が居るのか? いやまぁ居るだろうけど、そんなの王という存在の重さを知らない人間の発言だ。
「そうですか、私もマスターをあまり困らせたくありません。でも『円卓』ができるまでは王でいてくれませんか? そうすればあとは私たちが何とかしますので」
「ごめん」
こういうことは安易に決定は出来ない。爺にも色々叩きこまれたからな、健全な精神は健全な肉体に宿るだったか?
「いいえいいんです。いきなり王様になれとか無理な話しですよね……ではさっさと終わらせちゃいましょうか」
「そうだな。で、俺は何をすればいいんだ?」
いくら『円卓』結成までとは言え、俺は普通の学生だ。王様がやることなんて皆目見当もつかないぞ。
「大丈夫です。ついてきてもらえればそれだけで大丈夫です。マスターには手を煩わせません」
「私たちに任せて」
まぁついてくだけでいいなら楽でいいか、というか俺に難しいことを要求されてもできる気がしないし。
「それでも何も知らないのは不安ですよね、『議会』について簡単に説明をさせてもらいますね。『議会』とは先ほども言った通り、民衆の代表が集まっている機関です。これは国民の投票と貴族の投票によって決まります」
そこが少し日本と違うところか、日本には貴族なんていなかったし。というか民衆の代表なのに貴族もいるんだな。
「そして現在民衆派と貴族派で『議会』は二つに割れています。というより貴族派が圧倒的に強いですね、その貴族派に少しの民衆派が反対しているという状況です」
なんか最悪の状況だな。俺は現実での貴族のイメージしかないから一概には言えないがアイリさんの話を聞くとこっちの貴族もそう変わらないのかもしれない。
「今から私たちが会いに行くのは貴族派です。では簡単な説明も済んだところですし城に向かいましょう。『議会』は城にありますので」
俺たちは小屋を出て城へと向かう。色々不安が残るが今考えてもしょうがない、俺は細かいことを考えるのは苦手だし、出たとこ勝負でやっていくしかないよなぁ。