大力のフロンティア
「噂?」
「そうです。どうやら西の方の農村に、なんでも力持ちが居るとか」
内戦が終了して、一週間が経った。復興のめども立ったし、国の各種機関も形だけでも復帰したらしい。各種機関って何があるのか俺には全く分からないが。
「力持ち? なんで俺が力持ちに会いに行かなくちゃいけないんだ?」
筋肉勝負でもしろとでも言うのか? 俺はそんなムキムキってわけではないから絶対に負けるぞ。俺はゴリマッチョではなくスマートマッチョなのだ。
「それが度を超えた力持ちらしいですよ?」
書類を流し読みしながら応えるクラウザー。
「そうらしいですよ。何でも山をも動かすとか」
「山ぁ?」
山を動かすって、どんな人間だよ。というかそんなのを俺は人間とは認めないぞ。
「何それ!? 面白そう! 僕会ってみたい!」
「アウラ、好奇心は猫をも殺すって言葉を知ってるか? 俺は山を動かせる男となんて会いたくない」
山を動かすなんて、そんな奴は絶対に人間の形をしてるわけがない。そんな奴には絶対に会いたくない。
「主ビビり?」
「ビビりじゃない。というかそんな言葉どこで覚えたんだよ」
「主語録から?」
「俺語録って……」
あまり俺も変な言葉を使わない方がいいかもな。みんなが現代の言葉に染まってしまっても嫌だしな。
「行こうよー、お兄ちゃん!」
「行けるか! 俺達にはこんなにも仕事が溜まってるんだよ!」
俺は目の前にうず高く積まれた書類を指さしながら言う。下部組織のインフラが整備され始めたとはいえ、まだこっちの仕事がなくなった訳ではない。
「今回の件は目をつぶりましょう。事態が事態ですので」
「どういう事だ? たかが噂じゃないか」
「たかが噂でも、これには確認するべき必要があるんです」
たかが力持ちの噂になぜこんなに血眼になるんだ? 所詮噂ではないか。
「その力持ちってのが大事なんですよマスター。《大力》である可能性があるんですから」
《大力》? そういえばそんなのもいたな。最初の説明は流し読みをしてしまったから忘れていた。
「《大力》ってのは力持ちなのか?」
まぁ字面的に力持ちだよな。大力って言うぐらいだし、でもその人も英雄っていうぐらいだから三人みたいに人外なんだろうな。
「ええ、初代《大力》は大陸をも動かしたとか」
「おいおい、それは流石に……」
日本の神様じゃないんだから、あり得ないだろう。
「まぁ、伝説みたいなもんですから多少は脚色されてるでしょう。しかし火のないところに煙は立たないと言いますし、それなりにすごい人物ってことですよ」
子供のおとぎ話の類のようだ。しかし、アイリが認めるほどの人間ということはさぞかしすごい人間なのだろう初代《大力》という方は。
「我々としても英雄は一刻も早く全員集めたいんですよ。我々がこの世界で覇権を握るためには」
クラウザーは野望に満ちた目で言う。覇権か、俺には大きすぎてわからねぇや。
「そうです。多少の無理は分かっています。しかしそれを補って余りある利点があるんですマスター」
「だーかーらーいーこーうーよー、なんかピクニックみたいで楽しそうじゃん」
わくわくした声ではしゃぐアウラ、こんなにうれしそうなアウラは初めて見た。
「遊びじゃありません! これも歴とした仕事です」
「主と旅行」
「だーかーら、旅行じゃありません!」
アイリが二人を窘める。しかしなんだかんだ言ってアイリも楽しそうだ。
「というか行くのは確定なのね。でもその間国はどうするんだ? 全員で行くわけにはいかないだろう?」
国を空けるわけにはいかないし、でも英雄は捨てがたい。
「いいですよ私が残ります。英雄の三人は行く気満々のようですし」
ため息をつくクラウザー。まぁそんな表情にもなるよな。
「じゃあ、俺も残るよ。クラウザーばかりに仕事を任すわけにはいかないし」
それに王様が国を空けるってのはあまりいいこととは言えないしな。
「え、マスター行かないのですか?」
「え、お兄ちゃん行かないの!?」
「主……」
不思議そうな三人。え、なんでそんな不思議そうな目で見るの? 俺なんか変なこと言った?
「さすがに王様が国を空けるわけにはいかんでしょ」
「それはそうですよね」
「なんでアイリはそんなにがっかりそうな顔なんだよ」
アイリが一番こういう事は分かってると思うんだが。
「えー行こうよ! 行こう、行こう! 行こうよー」
「主ぃ」
二人はまだ納得してない様子だ。俺も行けるなら行きたいが、さすがにクラウザー一人に任すのも忍びないというか。
「無理なものは無理だよ、国をおろそかにしたらそれこそ本末転倒だろ?」
「しかしっ! クラウザーが頑張れば!」
「《剣聖》も言いますね」
あきれた声をこぼすクラウザー。
「おいおい、楽しみなのは分かるが、三人で行っておいでよ。俺達は今回留守番をしてるから」
なんでこんなにムキになるのだろう、そんなに俺と《大力》を会わせたいのだろうか?
「はぁ、分かりましたよ。行ってきていいですよ」
「いいのか? クラウザー」
「いいですよ。一応『議会』も『政務庁』も形だけですが機能し始めましたから」
「では行きましょう! マスター」
意気揚々と執務室を出るアイリ、何がそんなに楽しみなんだろうか? 自分であんなに仕事だって念を押していたのに。
「待ってよお姉ちゃん!」
「アイリ、はしゃぎ過ぎ」
それに続いく二人、なんだかんだ言って二人ともすごく楽しみなようだ。
「じゃあ行ってくるよ」
「行ってらっしゃい。二週間以内には帰ってきてください。それ以上は流石に私も過労死してしまいます」
「分かったよ、なるべく早く戻って来るよ」
「ええ、楽しんできてください。さぁみんな待ってますよ」
俺は三人を追って部屋から出る。たぶんここまで忙しかった俺に対するちょっとした休暇なのだろう。クラウザーも頑張ってくれるようだし、俺も好意に甘えるとしよう。
「王は、英雄を集めるですか」
執務室には一人、疲れた表情の男が残るのだった。




