襲撃のフロンティア
その知らせは突然だった。最初は門でいざこざが有ったらしい程度にしか報告を受けていなかったので、何も心配はいらないと思っていた。それが普通の人間が起こした事態であれば何も問題はなかったのだ。
しかしその問題を起こしたのは普通の人間ではなかった。軍事国家ガイロンの王、《王道》ガウス・ガイロンその人だったのだ。
その国ガイロンは、この名もなき世界で有数の軍事力を誇る。兵数の数ではアストガルド、兵器の強さではヒノモトに劣るのだが、ガイロンの恐るべき点の一つはその兵の強さ。その兵一人一人の強さが他国の兵の十人分を誇ると言われている。
しかしガイロンの恐るべき点はそれだけではない。最も恐ろしいのはその兵の練度の高さだ。連携がしっかりととれており、戦術も豊富らしい。しかも今の王であるガウスは、歴代最高の王と讃えられ、噂では三百の兵士で、三万の兵を正面から戦い、破ったとか。どんな化けもんだよ。
「で、どうしろと?」
俺に報告されてたってどうしろって言うんだよ。そんな酔っ払いみたいな相手のあしらい方なんて知らんぞ。
「いや、相手は一応大国の王です。いくら酔っ払いみたいとはいえ、丁重におもてなしをしないと」
「えー面倒」
そんなの衛兵にでも任せればいいんだよ。というかこんな真昼間から他国のしかも、都市の門で問題を起こす王様なんていないだろ。
「というかそれ本当に王なのお姉ちゃん? ガイロンの王と言えば、王の中の王って呼ばれてるぐらいの人物だよ?」
「あり得ない」
「はっはっは、そうだよな。そんなことはあり得ない。よしっこれでこの話は終わりだ」
本当だよ、あり得ないって。幾らこの世界の人間が人外みたい奴ばっかとはいえ、そんな常識はずれというより、常識の範囲外の人間が居るはずがないだ……ろ……う?
「がははは、ここか? ここが王の間か?」
誰だ? このおっさん。筋肉隆々で髭がボーボー、身長は二メートルに近いだろう。服装は年の割には若いというか、かなり前衛的なファッションだ。俺の世界でいうタンクトップだろうか、それに下は半ズボンだ。まるでこれからセミでも取りに行くというのか?
「ちょ、そんなここは敵国のど真ん中でしょ。というより、礼儀とかもしっかりしようよ」
後ろから出てきたのはギャルっぽい少女だ。年は十代半ばと言ったところか、金髪の髪の毛をサイドに結い上げている。この世界にも化粧があるようで、顔は化粧で少しケバくなっていた。服装はこの世界では初めて見るが、元の世界でいうミニスカートのようなものを履いていて、上は薄い青のシャツみたいなのを着ていた。
「もう、終わりだ」
そのあとに続いて出てきたのは男だった。色の薄い髪に、白いコートのような服、顔はとても中性的で、メガネがとても印象的な青年だった。
「お、ここはどうやら正解のようだ。そこに居るのは、《剣聖》に《鉄壁》か、あとは……ん? そこの二人は誰だ?」
いきなり部屋に入ってきて不躾な質問を投げかけるおっさん。なんなんだこいつは? 一応ここは王城で、普通のおっさんがそう易と入れる場所なんかじゃないんだけど。
「誰だじゃない! 僕の名前はアウラ・クロスフィールド! 《閃光》のアウラ!」
「ほぉう、そうか、お前が七人の英雄の一人《閃光》か、ではそこの童がこのヒロノキアの英雄王か?」
凄い威圧的なおっさんだな。どうやらここが何処だか分からないようではないようだ。ということは。
「ああ、俺が《武帝》藤堂流馬だ。お前が《王道》ガウス・ガイロンか?」
「いかにも! 我の名はガウス・ガイロン! ガイロンの王である」
「いくら王といえど、このようなことをして許されるとお思いか?」
怪訝な顔を浮かべるアイリ、そりゃあまぁ普通は怒るよな。
「がははは、そう目くじらを立てるな《剣聖》よ」
なぜか勝手に入ってきて偉そうなガイロン王、どうも俺はこういう人間は苦手なんだよな。爺がこんな感じだったってこともあるが、単純にめんどくさいんだよな。
「《剣聖》よ、真に申し訳ない。今回の件については我が王を止められなかったこちらの不備だ。本当に申し訳ない。こちらは今ヒロノキアに害を与えるつもりはないということを分かってほしい」
メガネの青年が深々と頭を下げる。それに続いてギャルも頭を下げる。
「ええ、分かりました。しかしここまで何をしに来たのですか? というより正式な手段をとってさえくれれば私たちも丁重にもてなしたというのに、なぜこんな強引な手段を?」
「それは僕たちにも分からないんです。オヤジ、すいません我が王の考えが分かったことなど、一度も僕たちにはないのですから」
「そうそう、オヤジは考えることがいつもぶっ飛んでるんだよ」
「で、そういえばそこの二人の名前はなんていうの?」
当然の疑問を口にするアウラ。確かにあのおっさんの印象が強すぎて陰に埋もれているが、二人もそこそこやるような気がする。まぁ俺の感覚でしかないが。
「申し遅れてすいません。僕の名は《策士》クリア・ガイロンです」
「私の名前は《軽業》エリス・ガイロン。エリスって読んでください。ヒロノキアの王よ」
どうやら二人とも称号持ちのようだ。それに苗字がガイロンということは。
「三人は親子?」
「はい、そうです。こんな親だから毎回とても苦労するんです」
その顔には疲れというより、何かあきらめに近いものを感じた。
「ああ、俺の爺もあんな感じだった。いつも俺たちは振り回されるんだよな」
「そうなんです。何も考えずに行動を起こすから、後始末は全部僕たち何です」
ああ、この子達も俺と同じなんだ。爺もなにか無茶苦茶なことをしては俺が毎回怒られてたなぁ、いつか絶対爺を殺してやる。
「ヒロノキアの王もなんか超苦労してる感じだね。というかオヤジ! なんで来たのかぐらい言ってくれない? でないと私本当に怒るからね!」
「なんだ? 言ってなかったか、我が今日ここに来た理由は一つ、質問をしに来ただけだ」
「はぁ? オヤジ、マジで言ってるの? 質問一つをしにここまで来たっていうの? バカじゃないの?」
質問? たったあそれだけのためにあの森を抜けてきたというのか? 俺も一度あの森に入っているから分かるが、あそこは木が茂っていてただでさえ通りにくいのに、草や蔦まであるから動くのですら困難なのに、その面倒な森を越えて、質問をするだけ?
「はぁ、僕たちにはオヤジが何をしたいのか本当に分からないよ。それは今やらなくちゃいけないことかい?」
「ああ、これはとても大事なことだ。だから来たんだ。それでは質問をしよう」
他国の王がわざわざやってきて質問をするんだ。それはとても大事なことなのだろう。この答えによっては最悪の結果を招くことになるかもしれない。身長に答えを選ばねば。
「では質問だ。お前にとって王とはなんだ?」
「は?」
「「「は?」」」
その場の全員が唖然となる。ガイロンの従者二人でさえ、口を大きく開け、魂が抜けたような表情をしている。
「なんだ? 聞こえなかったのか?・ ではもう一度言おう。お前にとって王とはなんだ?」
どうやら聞き間違いではなかったようだ。顔を見ると冗談に言っているようには見えない。このおっさんは本気で、この質問をしに来たのだ。
ならば俺も、これは本気で答えなければいけないようだ。
「王とはか、考えてみると難しいな」
「マスター、真面目に考えなくても……」
「いや、これは真剣に考えてみないと」
言われてみれば、そんなのを本気で考えたことはなかった。王とは何か、これは凄く難しい質問かもしれない。
「どうやら少し難しかったか? では質問を変えよう。お前はどんな王になりたい?」
「それは決まっている。俺はみんなを守る王になりたい。先陣に立ち、皆と一緒に戦う王でありたい」
この思いは変わっていない。王であろうと俺は俺だ。皆と一緒に戦い。みんなと一緒に守っていきたい。それが俺という人間だから。
「うむ、その気持ちを忘れるなよ! よしっ帰るぞ!」
「はぁ? オヤジ、マジで言ってるの?」
驚愕の顔を浮かべるエリスさん。まぁそりゃあ驚きもするよな。
「ああ、本気だ。もうここには用はないしな」
「はぁ、だから言ったろ? 僕たちはオヤジに従うしかないんだよ」
全てをあきらめたような表情を浮かべるクリアさん。
「もうマジで最悪」
どうやら相手もすごく苦労しているようだ。同情するぜ。あの手のおっさんは本当に性質が悪いからな。
「どうした? 早く行くぞ。じゃあな! ヒロノキアの英雄王よ、また会いまみえる日までさらばだ」
「分かったよ。行けばいいんでしょ! もうじゃあ失礼します。ヒロノキアの《武帝》」
「では僕もこれで失礼します。真に迷惑をかけました。では失礼します」
そういって去っていく三人。なんか嵐のような人物だったな。来る時も激しく、去る時も激しかったな。
「あれはなんだったんだろうね?」
何か不思議なものでも見たような声を出すアウラ。
「さぁ、俺にも分からん」
その場に残された俺たちには微妙な空気が流れていた・
しかし、本当に謎な人だ。しかし悪い人ではないような気がした。根拠はない。でもそんな気がしたたんだ。




