紫陽花:2
息が切れてる。
挫けそうな足をただ地面に叩きつけてひたすらに進む。
夜の闇を掻き乱す。
歓楽街の喧騒もぼくには関わりの無い随分遠い光。
そんな光が前から後ろへ幾つも過ぎて遮断機の前に立っていた。
大した距離走ってないじゃん。
情けなくも呼吸が整わないぼく。
……、
カンカンカンカンカン――、
視界が赤く焼き付いて点滅を繰り返す。
時計を見れば日が変わりそうだった。
レールの上を電車が駆け抜けていく。
それはすぐに過ぎて遮断機が上がる。
――待って!!
大きく深呼吸、
ぼくは再び走りだす。
夜気はマトワリ着いて水みたい。
そんなんだから疲れるんだ。
けれど先程よりは脚が軽い。
つまりは速度も上がり、
前から後ろへ景色も進みやがる。しかしそれでもふりきれないんだ。
巨大な蜘蛛の巣に引っ掛かった昆虫みたいに僕は絡む糸をホドケナイ。
一つ解く度一つコブ増え、更に絡んで。
やめろヤメロ止めろ辞めろ病めろ!
がつん、
と脚が縁石に引っ掛かったらしく盛大に前に放られて世界が暗転する。
ぐるぐるぐるぐる。
溶暗。
痛み。
そして――僕は目が覚めて、星の下にいた。
虚ろな頭は何度も綺麗だと繰り返して、
心はそれを反芻した。
もしこの風景を閉じ込めれる魔法遣いだかが居たところでそれは意味無いことだと気付くだろう。
少しこめかみが痛い。
少し痛いだけで済んだのは誰かの優しい手が撫でていたおかげだろう。
僕はその見知らぬ旧い友人を見るために視界をそちらにむけた。