紫陽花:2
乾いた夜は夢を見ない。
また今日も日が落ちて帰路につく。
目の前で遮断機越しに過ぎる電車。
そこから覗ける顔は一様にくたびれている。
「――、」
それが過ぎると線路の向こう側が否応無しに視界に入る。
ただの道が横たわっている。
そんな事わかっている。
浮遊解。
出したくない、
もうその答えは目の前に突き付けられ続けているのに。
心は悲鳴を上げない。
朝日音 澄火。
そこにしかなくそこには無い存在。
ウロ覚えな笑顔がさらりと思考を掠めるノイズになる。
僕は、ただ、冷たく、強い、大人にならなくちゃ。
踏み切りを渡る。
梅雨のためか世界は随分水に満たされていて、
街が水没したかのような錯覚を抱かせる。
くらくらユレテ、
ふらふらウツロウ。
空には星が滲んでいてその冷たさが胸につまるアスファルトの薫りを切り裂いた。
―――待って!!
振り返る。
けれど、
誰もいるはずはなく。
仕方ないので少し自嘲して帰路についた。
薄暗い自分の城は随分とみずぼらしい。
社員寮にでも入りゃよかったよ。
帰る度にそう思う。
しかしやっぱり狭くても自分の部屋の方がマシか。
テーブルの灰皿を自分の近くに寄せて窓を開ける。
スーツをきっちり脱いで着替えてからやっと煙草に火が灯せる。
これがスイッチでぼくは家にいるのを実感できる。
空だけを見上げて、たまに灰を落とす。
暫らくそうして、
静かに立ち上がって一番大きいバッグを取り出した。
その中に有りったけの菓子を詰め込んで、
それから最後に天体望遠鏡を大事に閉まった。