嘯く子供の甘い舌
彼の唇が私のそれをふさいで彼の舌がめちゃくちゃにしていきます。ひどく淫靡な水音が私たち二人の空間に響いてく様子は羞恥をそそるけれど、そんなことがどうでも良くなるくらい私たちは絡み合っていました。彼の長い髪が時々私の頬をくすぐるのがこそばゆくて彼の制服のすそを握ります。すると彼は私の手にそっと手を重ねました。長いような短いような深い口付けのあとに私の頬に唇を押し付けて彼は私の顔を見つめます。
「なんか甘いね」
「何がですか?」
「唇」
そういうと彼はチョコレイトを取り出して銀紙をはがし咀嚼し始めました。私はチョコレイトがあまり好きではありません。チョコレイトだけではなく甘いもの全般が苦手なのです。私が甘いものを食べるわけがないので唇が甘いということはないような気がするのですが、とそこまで考えたところで私は一つの考えにたどり着きました。
「リップクリイムかもしれません」
「味つきなんてあるの?」
「チョコレイト味の新発売ですよ乾燥して痛かったのでつけたんです。」
「ふーん」
ぱきりとチョコレイトが折れる音が響きます。彼の指先の温度でとろけ始めたそれは酷く甘そうで何故かのどがごくりとなりました。彼はそれを私の口唇に押し付けました。
「なめて」
その言葉に私は従順に従いました。彼の骨ばった指先にとろけたチョコレイトとは見た目どうりでのどを焼くような甘さを含んでいたけれど、なぜだか気にはなりません。その様子に彼は目を細めて見つめています。
何度も舐めて彼の指が本来の色に戻ったとき、彼は私の頭を撫でました。撫でるという言葉が当てはまらないほど荒々しいそれに私は自分が犬のようだなと思いながら微笑みました。
「俺のこと好き?」
「好きですよ」
「本当に?」
「はい」
言葉に表せないくらいに、と続けると彼は驚いたような顔をして私を見つめました。俺も、と照れたように彼は私に囁いてぎゅうと抱きしめます。この恋はきっと誰にも許されることはないでしょう。きっと彼の中でも許されてはいないのです。だから彼は何度も私のことを求めます。それでも私は彼が好きです。誰にも許されなくても私だけは許します。彼の中の『特別』は私だけのものなんですから。
「大好きですよ、おにいちゃん」
この恋は私の喉を焦がしたチョコレイトよりも甘いのです。