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ネガティブ発動の婚約破棄

掲載日:2026/10/18

「カテリーナ・キャンベル侯爵令嬢! 貴様とは婚約破棄だ!」


 王立学園の卒業パーティーで、殿下が私に婚約破棄を宣言しました。

 殿下の後ろには、男爵令嬢のパール様。


「お待ちください。私と殿下は幼い頃から十年も婚約していたのに、それを破棄すると仰(おっしゃ)るのですか?」

「お前がパールの教科書を破り、ドレスにワインをこぼし、噴水に突き飛ばしたからだ!」

「……それが何か?」

 私は、自分の婚約者に近づくコバエを払っただけです。


「お前のような女は私の妃に相応しく無い! 二度と私の前に顔をみせるな!」


 





「……それで、二度と顔を見せるなと仰ったのに何の御用でしょう」


 婚約破棄から二週間後、私は王宮に呼び出されました。待っていたのは「二度と顔を見せるな」と言った殿下。

 案内されたのは、以前お気に入りだった水色の薔薇が咲き誇る薔薇園の中のガゼボ。

 以前なら心が浮き立ったでしょうが、今は婚約破棄されるなんて思いもしなかった幸せな頃の思い出が蘇(よみがえ)って辛い場所です。嫌がらせでしょうか。殿下は何が言いたいのでしょう。

 気まずい空気の中、殿下と二人、護衛と侍女たちに見守られながらひたすらお茶を飲んでいます。

  

「……パールでは、色々足りないと分かって」

 私は続きを待ちます。

「…………」

 終わりですか?


「お話が終わりでしたら、失礼いたします」

「いや!」

 終わってませんでした。


「その、次期王妃に相応しいのはカテリーナだと分かったんだ」

「全然相応しくありませんわ。十年頑張っても婚約破棄されたのですから。これ以上頑張っても、立派な王妃にはなれそうもありません」

 心から答えます。


「婚約破棄は無かった事に。復縁してくれないか」

「無理ですわ。もう頑張る気力がありません。他の人に当たってくださいませ」

「私はカテリーナとやり直したい」

「私はやり直したくありません」

「私を愛しているのだろう?」

「いえ、もう全然」

「何故だ? あれほど私を愛していたではないか」

「殿下は私を愛していませんよね」

 殿下が詰まりました。一度も私を好きだと言ってない事に気づいたのでしょうか。


「これから愛する」


 困りましたわね。


「何と言うか……、私はもう殿下なんてどうでも良くなったんです。浮気相手の女に嫌がらせをするくらい好きだったのに、婚約破棄されましたから」

 婚約破棄された時、絶望に包まれるのと同時に、十年分の殿下への思いが突風で吹き飛びました。

「嫌がらせした事については反省していないのがお前らしいが」

「もう、結婚なんてしないで縁側で日向ぼっこしながら渋茶をすすりたい気分なんです」


 その時、目の端にこちらに歩いて来る若い男性の姿が見えました。思わずそちらを向くと、護衛たちに殺気が走ります。

 護衛たちを目線で抑えて、私は隣国語で話しかけました。


『ルーク様! いけません、こちらは王族のプライベートな空間(エリア)です』

 男性は驚いて足を止めたので、早足で駆けつけます。


『隣国大使の従者のルーク様ですね? 突然名前をお呼びして失礼いたしました。大使が「ルーク」と呼んでいるのを聞いただけで、家名を存じあげないもので』

『いえ、こちらこそ失礼いたしました。大使に追加の資料を届けて部屋に戻ろとしたのですが……私は迷ったのですね』

 ルークが恥ずかしそうに笑うので、こちらもホッとしました。どうやら物騒なお客様ではないようです。


『ええ、大使御一行は南翼の水晶宮ですわ。きっと、この水色の薔薇が水晶宮にも咲いているので間違えたのですね』

『はい、「咲かせるのが奇跡」と言われている水色の薔薇がこの城の何箇所にも咲いているとは思わなかったもので』

『まあ、庭師たちに伝えたら大喜びでしょうね』


 私は近くの侍女にルーク様を水晶宮に送るように言いました。

 去ろうとするとルーク様に

『あの、あなたのお名前は』

と、聞かれました。

『名のる程の事では』

と言いかけて、そうでもないかと気づきました。他国の人間が王族のプライベート空間に入ろうとしたのですから。


『カテリーナ、ですわ。大使に「カテリーナがお詫びは不要だと言っていた」とお伝えください』

 大使なら、状況を聞けばカテリーナが誰かすぐに分かり、家名を出さない事で「内々におさめたのだろう」と察するでしょう。


 ルーク様は何度もお礼を言って帰って行かれました。


 残されたのは、不機嫌な顔の殿下。


「……なぜ不機嫌ですの?」

 それでなくとも居心地が悪いのに、また向かい合って座ります。早く帰りたい。

「もう結婚なんてしたくないと言いながら、男と楽しそうに」

「楽しそうでした?」

 思い返してみます。

「確かに、殿下といると感じる鬱陶しさや面倒臭さが無かったですわ……」

「今、なんかサラッと酷い事言った!」


 何故楽しかったのでしょう。何か騒いでる殿下を放っておいて考えます。


「分かりました!」

「うん、私の話は聞いてないね」

「私は結婚が嫌なのではなく、殿下との結婚が嫌なのです!」

 十年間「結婚=殿下」だったもので、殿下を嫌いになると結婚も嫌になってしまってたのですね。


 何故かテーブルに突っ伏した殿下に続けて言います。

「私、殿下以外となら結婚して幸せになれる気がしてきました! いいえ、きっと幸せになります!」

「なぜ私に宣言してるのかな……?」


 何という僥倖(ぎょうこう)。私の人生はまだ枯れていませんでした。


 私はふんすと立ち上がって

「頑張ってお互いに良い伴侶を見つけましょう! さようなら殿下!」

と帰ったのでした。


 さようなら、殿下。



2026年10月20日

日間総合ランキング 3位になりました!


びっくりな事に、

四半期コメディーランキングでも3位に!

いいんでしょうか∑(゜Д゜)


読んでくださった方、リアクションしてくださった方、★を付けてくださった方、皆様ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
ルークのくだりは要らないかな。 王族のプライベート空間に隣国大使の従者が勝手に入り込んで、 それを次期王妃「ではない」侯爵家令嬢が勝手に不問ということにして許しを与える⋯? 王子がアホだろうと警護…
殿下に申し上げますと…足りないのは殿下自身で御座いましたね♪では、『百年後に会いましょう♪』by教育係のエルフさん(男) バカ王子「百年後にはもう生きていないよ、オレ。」_:(´ཀ`」 ∠): エル…
損切りはお早めに!
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