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Incapable  作者: てんてん
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第9章 武と言う男 2

武は無事に県内有数の進学校へ進学した。

真新しい制服が心を少し軽くしてくれた。

職員と弟が入学式に参加した。

新入生代表の挨拶を武がしたのだ。

入学式までに職員の前や進学先の先生の前で何度も練習した。


弟にとって自慢の兄だ。

壇上に立つ兄の姿が誇らしかった。


施設で兄弟をいじめていた子は高校進学が叶わず住み込みで働く事になり施設を出て行った。

「今までごめんな」

「は?許されると思ってるの?俺たち兄弟に最初言った言葉覚えているか?」

「....。」

「目障りなんだよ、消えろ」

一度は言ってみたかったのだ。

今までの恨みを相殺するために。


施設での生活はテレビが見れるようになり弟はかじり付きで徐々に勉強が疎かになっていった。

テレビを見て笑い転げている姿を見ると

母がいた頃の光景と重なりグッと来るものがあった。

「母ちゃん、亘の笑顔はオレが守るから。見守っててな...」


高校ではテストの度に教科毎の成績が上位20位までの張り出しだがあった。

武は常に1位だった。たまに何かの教科で2位になる事もあったが総合1位は定席だった。

順位が下がるのが怖くていじめっ子が居なくなっても武だけは勉強を続けていた。


高校3年になる頃には英検も準一級も取得し一般入試でも英語免除の免罪符を手に入れた。


「武くん、亘くん、ちょっといい?」

職員に呼ばれた。

「はい」

「あのね、これ。もっと早く言っても良かったんだけど分別がつく年頃になるまで施設長の判断で言わなかった事があるの」

通帳と印鑑を差し出された。

「あの、これは?」

「あなたたちのお母さんの保険金よ。お母さんがあなた達を受取人として契約していたみたいね」

見たこともないゼロの数に驚いた。

「武くんは私大に行きたいんだよね?奨学金借りなくても行けるんじゃないかしら?」

「そうですけど...」

「どうしたの?何か嫌なことでも?」

「あ、いえ。父親が知ったら奪いに来るんじゃないかって...」

「罰があたったのかな、お父さんは今寝たきり状態だそうよ。刑務所内の質素な医務室で寝たきりだそうよ」

「よかったーーー」弟が大袈裟に胸を撫で下ろしてみた。

「すみません、僕、銀行とか手続きってした事なくて分からなくて...」

「入学手続きする時に一緒に行こう。覚えなきゃね」

「はい。ありがとうございます」


その日の夜、弟が

「兄ちゃん、オレ高校卒業したら別に大学行きたいとか無くて直ぐ働いてもいいと思ってて。だからオレの分のお金で部屋かりて二人で暮らしたい。ダメかな?」

「今はその考えでも構わないけど実際高校生になると考えが変わると思う。だから今は使わずにいよう。施設から出て行けと言われるまでは此処に居よう」

「う....ん....」

実は武も弟と同じ事を考えていた。

私大へ行きたいが国立にして少しでも出費を抑えたら部屋を借りれるのでは無いかと。

母が残してくれた貴重な遺産の使い道に迷っていたが結局、武は私大を選び進学して行く。

国際経済を学び海外で仕事がしたいのだ。

大学へ通い出すと一気にと友人ができアパートの借り方や部屋の見方を地方から来ている友人に教えてもらった。

大学2年生になる頃には兄弟で施設を出て小さなアパートに住み始めた。

大学1年の頃とは変わり遊びを控えバイトと勉強に明け暮れた。

弟も高校卒業を控え車のデザインをする仕事をしたいと夢を持ち専門学校へ通う事になった。

就職活動シーズンに入ると武は外資系企業のみ説明会へ足を運び外食産業の会社へ内定が決まった。

海外研修が有ると言われていたが武は営業部で先輩に仕事を習っていた。

嫌では無いが夢へ全く近付けていない気がしてモチベーションが下がり気味だった。

そこへカフェが出来るとの事で店舗で募集するバイトを統括する役目を言い渡され、更に海外が遠のいた気がして目に輝きを失っていた。

弟の事も有る、部屋を借りた事も有り

黙っていても毎月の固定費が大きく有る。

働くしか無いのだ。


悶々とした日々を過ごす中でルミと出会い結婚をした。

武にとってルミは癒しの存在でも有り「この人を守りたい」と男の部分を立ち振るわせる存在だった。

子供が出来、店が閉店するまでは幸せでしかなかった。


大卒で外資系で働き、それなりのポジションにまで登り詰めた。

だが会社を離れた瞬間、その肩書きは何の意味も持たなかった。

書類は通らず、面接でも手応えはない。

転職先は驚くほど決まらなかった。


弟や周りの友人から借金しては催促の電話には出ずに出れず1人2人と友人が離れていった。


「もしもし亘か?俺だ」

「うん兄ちゃん」

「頼む、前の名前で消費者金融から借りてもらえないか?俺が毎月ちゃんと払うから」

「兄ちゃん...俺にだって生活があるんだよ」

「頼めるのがお前しか居ないんだ...」

「兄ちゃんを助けたいけどこの間の30万だって1円も返って来てないんだよ。毎月返済なんて出来っこないよ」

後味の悪い終わり方をした兄弟。

弟がふとネットで見た求人募集

「飲食店経験者、給料要相談(最低賃金25万)」武にLINEでスクショを送った。


「面接行ってみる。有難うな」


残業が多いカフェというより喫茶店だが可能かと問われ「可能です」と答えると採用になった。

客がそんなに来ない喫茶店でも武の給料は35万+残業代だ。

カラオケボックスのように個室になっており夜になると客がポツポツと入る程度の店だった。

受付で座っているだけで良いのだ。

楽な仕事だ。

初めての給料でなんと手取りで50万を超えていた。


仕事内容の割に給料が良すぎる。

そう思わなかったわけではない。

だが、考えないようにした。


長くは居ない。

取り敢えず急場を凌ぐためだと言い聞かせ転職先を探し続けていた。


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