第3章 仕掛けるってこうするのよ、ねえ
吉田は丸一日泥のように眠った。
寝過ぎて体が重く疲れが取り切れていないのを感じていた。
シャワーを浴び姿見に映る自分をまじまじと見て「良い感じにやつれてるじゃん俺」
「あの婆さんになんて言おうかな...」
「タイプでも無ければ逆に苦手なビジュアルだが、あの婆さんとキス位はしないとな、その気にさせんのがシンド...」
ぶつぶつ言いながら恭子との今後の進め方をシミュレーションしていた。
吉田は恭子をカモろうとしていた。
それだけの対象だった。
「取り敢えず飲みに誘わせようか。あっちから言い出すように仕向けないとな...」
「あの婆さんから、いくら引き出せるかなっ笑」
その日の夜、恭子の帰宅時間を見計らって吉田が部屋から出て来た。
「あ!恭子さんこんばんは」
「吉田くん、久しぶりだね。忙しかったのかな?」
「まあ、そんな感じです...。あのう、僕急ぐのでこれで失礼します」
「うん、気を付けて行ってらっしゃい」
恭子は吉田の雰囲気が少し変わった事が気になった。
「大変そう...」
それからまた吉田が部屋へ帰って来る気配を感じれない日々が始まった。
クリスマスが過ぎ今年もあと僅か。
恭子は有給を加え年末年始の休みを10日間にし帰省する支度を整えていた。
キャリーバックを引きずりながら駅へ向かうと吉田と遭遇した。
恭子は吉田の姿を見てギョッとした。
「吉田くん...どうしたの」
「ああ、恭子さん。お久しぶりです。恭子さん大荷物ですね。旅行ですか?」
「ううん年末年始は毎年実家に帰るの」
「そうなんですね。」
「吉田くん、痩せた?て、言うかやつれてる。仕事が大変なの?」
「まあ...仕事でちょっと...」
「なんかあったの?聞くよ話し」
「僕が言いたくなったら聞いてください。恭子さんこそ気を付けてお帰りください。戻られたら新年会しましょう」
「ありがとう。そうだね新年会しよう!行きたい店が有ったら言って。LINEでもいいからさ。新幹線の時間に間に合わなくなりそうだからゴメン。また今度ね」
新幹線に乗りお弁当を食べてもスマホを触っても吉田のやつれた姿が頭から離れなかった。
つまらない日常に輝きをくれたお隣さん。
どうしちゃったんだろう。
気になる。
「明けましておめでとうございます。去年は恭子さんと仲良くなれたことが僕にとっての大きな出来事でした。今年も仲良くしてください。僕はアパートで恭子さんの帰りを楽しみに待ってます。姉さんに会いたいダメな弟より」
日付けまたいで元旦になるや吉田からLINEが来た。
恭子は飛び上がるほどの嬉しさを押し殺し、朝になったら返信しようと眠りについた。
元旦の朝から姉夫婦が来て甥っ子と姪っ子の可愛い声に起こされた。
「きょーこねーたん、おーきーてー」
お年玉が欲しいのだろう。
甥姪にポチ袋を渡すと「わーい!きょーこおねーたんありがおーー」飛び跳ねるながら部屋を出て行った。
吉田にLINEの返事をしようとした時、姉が入って来た。
「恭子、あんたさ、お年玉は有難いんだけど2人ともまだ幼稚園生よ。幼稚園児に一万は無いわ。感覚おかしいわよアンタ」
「えー、そう?今どきの玩具って結構値段するじゃん。たまにしか帰って来れないしさ。可愛い甥姪に帰って来た時ぐらい甘やかさせてよ」
「ったく、もう」
呆れながらも我が子に良くしてくれる恭子に心の中で感謝していた。
実家で充分に休息しアパートへ戻って来た。
結局LINEの返事は帰って来てからになってしまった。
「吉田くん、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「恭子さん!ご実家ですか?」
「ううん。戻って来たよ。明後日から仕事始まるし」
「今日はもう外へ出る気力はないですよね?」
「あるよーー、軽く飲み行く?」
「恭子さん疲れてませんか?大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。行こう!一時間後にアパート階段下でね」
「分かりました。では、後ほど」
よし、今日であらかた固めるぞ。
吉田は下心満載で時間が経つのを待った。
「カンパーイ!今年もよろしくね吉田くん」
「こちらこそよろしくお願いします恭子さん」
「しかし吉田くん痩せたと言うか...どうしたの?大丈夫?」
「あぁ...はい...大丈夫です。と言うか会社で色々有りまして。僕、独立しようかと思いまして」
「そうなんだ...凄いね、事業は何系?」
「やりたい事業はIT周りですが会社を退社する時に仕事を回さない様にしてやるからな、と上司に言われてしまい...転職するにも僕を採用しない様にと同業他社へ触れ回っていて...
だから畑違いの介護の事業をやろうかと」
「介護の知見は?」
「全くです。ただ高齢化する日本では需要がある業種ですし」
「知見もなくていきなり立ち上げてうまく行くの?よく分からないけど頑張って」
「会社も辞めたくなかったんですけど先輩のミスが何故か僕のミスになって会社へ大きな損害を与えてしまった形になってしまって」
吉田は笑いを堪えながら、嘘のでっち上げ話を聞いてる恭子の表情に笑い出だしそうになっていた。
確実に恭子は吉田を気に入っている。あとは恭子から同情を買えばいい。
「そんなことがあったのね...」
恭子はしみじみと吉田の話を聞いていた。
「よく分からないけど転職もしずらい事業も得意分野では横槍が入る...ゆっくり休みながら退職金で介護の勉強するのもいいのかもね」
「僕、精神的に参っていた時に凄く当たる占い師が居るって友達の彼女に言われて藁にもすがる思いで鑑定して貰ったんです。そしたら今までやって来た事と違う仕事で成功すると。人と接する仕事がいいと言われたんです」
「だから介護?」
「いえ、介護でもやろうかな...って軽い感じで固まってなかった時です」
「そうなんた。ねえ、吉田くん、誰にも言わないで欲しいんだけど...」
「はい。」
「実は私ね霊能力って言うの?それ有るんだよね。去年の夏過ぎた頃、高校時代友達の結婚式に行って来たのよ。円卓を囲んでお料理食べている時に隣の友達見て、この人は私の分のステーキも食べるなって笑」
「案の定食べられちゃって笑」
「あはははは、恭子さん笑」
「霊感じゃないって笑」
なんだそれ
太ったババアが食欲に火が付いたんだろうが。
霊能力でも何でも無いだろうに。
俺だってその場に居たら見抜けるわ。
心の中で毒を吐きながら笑顔作る事に疲れ始めていた。
「凄い霊能力の恭子さん、僕の未来を見てください。」
「どれどれーー、うんうん、見てるよ今。ほーーー」
「どうですか僕、笑」
「どうだろぉーーーー。んーーーー。全部うまく行かないんじゃないかなぁ」
おどけた調子で言ってみた。
すると「まぢですか...」と吉田も合わせふざけて答えた。
すかさず恭子が
「だってね...私、貯金なんてそんなに無いからさ。つうか貯金は何が有っても下ろさないよ私。カモしたいんだろうけど私じゃ甘い汁なんて吸えないと思う」
吉田の顔が引き攣ったまま固まった。




