第2章 輝き出した日常
恭子は大手アパレルの広報部で係長をしている。
ドラマや映画などの製作陣より衣装のタイアップの申し込みなどが有ると責任者として現場へ立ち合ったり、新商品の雑誌掲載までの全ての責任を担っている。
大きな仕事から細かい仕事まで多岐に渡っており、常に恭子の元には4〜5人の部下が手足となって動いている。
あるドラマでは爽やかなイメージの俳優に衣装提供をしていた。
イメージ通り爽やかで人に不快感を全く与えない人柄だ。
誰よりも腰が低く、立場関係無く誰に対しても丁寧な言葉を使う。
恋愛の対象が同性だと言う事を除けば恭子はお熱になっただろう。
また、あるドラマではアイドルグループで断トツの人気の女の子がヒロイン役で出演、衣装提供していた。
実物の方が何倍も可愛くて顔も恭子の手の平ほどだ。
楽屋では未成年でもスマホを見ながらタバコを吸いマネージャーの問いかけを一切無視するぞんざいで我儘な子。
見た目に反比例するかのように内面は酷い性格の持ち主だった。
現場ではスタッフ全員一致の嫌われ者。
視聴率が取れるうちは重宝されるだろうが、世間は直ぐに新しいアイドルを欲する。
この嫌われっぷりはいつか仕事を無くすだろう。
恭子は仕事柄、多くの俳優女優タレントにアイドル、子役の保護者を見て来た。
子役の保護者に至っては我が子に仕事が回ってくる様に枕営業をする親もゴロゴロいた。
恭子と部下は、日々の業務の中で芸能界の表と裏を嫌というほど目にしてきた。
口外できない事柄も多く、精神的な負担は決して小さくなかった。
それでも給料明細を見るたび、先月のストレス代よね。と慰めるのであった。
日々忙しく過ごしながら吉田との約束の金曜日が近づいて来た。
「恭子さん、お疲れ様です。明日メッチャ楽しみです。何時頃に何処に集合しますか?」
密かに吉田からのLINEを待っていた恭子。
「吉田くん、お疲れさま。私は遅くとも19:00には退社出来るかな。吉田くんは?職場どの辺?」
やり取りを楽しむ恭子。
落ち着いた雰囲気のダイニングダーツバーで
沢山の話しをした。
吉田との会話に沈黙は流れなかった。
なんと吉田もK-POPが好きで盛り上がった。推しのグループが一緒だった。
「僕、めちゃくちゃ大好きで日本ファンミやコンサートは必ず行ってます!良かったら今度一緒に行きましょーよ!一緒に盛り上がりましょう!」
吉田の「一緒に」が心地いい。
「そうねぇー!タイミングが有ったら一緒に盛りあがろう!」
「え?恭子さんは何が何でも行く感じじゃないんですか?」
「行きたいんだけどねぇ...」
「なら行きましょうよー!」
「うん...そうだよねぇ...」
「え?恭子さんの反応鈍く感じるのは僕だけですか?」
「違うの、違うのよ。私、仕事でまあまあの責任の有るポジションで頑張らせて貰ってて。事と次第によっては予定がスルッとリスケになっちゃう事が多いの。K-POPって平日開催の場合が多いでしょう。特に首都圏開催の場合って。楽しみにしてればしているほど何か起きるの」
「確かに仕事無視して趣味に走れませんよね。もし、関西で週末開催とかのチケット取れたら一緒に盛り上がりに行きましょーーー!関東は諦きらめます僕、笑」
もしもの話しも吉田と話すと現実味を帯びて嬉しい楽しいで満たされた。
「よし、このゲームで僕が負けたら願いが叶いますように」と言いながらダーツを投げた。
「え?負けて願いごと?えー?」
「そうです!僕は初めてダーツをしたので勝てるはずも無いので笑」
「私だって数えるほどしかやったことないし、それも随分前よ」
「未経験な僕はハンデが必要なんです笑」
「そうなんだ笑。願いごとって?」
「また、恭子さんと遊べますようにって」
「別に賭けなくても隣同士だし、いつでも声かけてよ」
「いいんですかー?」
「もちろん!」
「僕なんかが誘ったら迷惑かな?とか考えてしまって。」
「若者が遠慮なんてしちゃダメだよ!私だって吉田くんと遊んで若いエキス吸収させてもらっているんだから笑」
「まぢでお隣さんが恭子さんで嬉しいです!前のアパートの時は夜中になると低い唸り声を発する奇妙なおじさんで少し怖かったですもん」
「えーー、それ私でも怖いよ」
笑いながら兎に角盛り上がった。
それから数日、吉田が帰って来た気配が無かった。
ドアが開く音も歩く音も気配も全く感じなかった。
「んー?吉田くんって最近帰って来てないのかな...仕事忙しくて泊まり込みなのかな...LINEは年上の私からは控えよう」
そう思いつつ本音は「気になる....」だ。
気になりながらも日々の仕事に忙殺され
いつもの土曜日を過ごす生活に戻っていた。
週末に溜まったゴミを月曜出社前に捨て駅へ向かう途中で吉田と遭遇した。
「吉田くん、おはよう。今帰り?」
「恭子さん、おはようございます。今帰りです。電車乗り遅れちゃいますよね。行ってらっしゃいませ」
「あぁ、うん。じゃあね吉田くん」
電車に乗りながら恭子は思った。
「吉田くん、やつれてたなぁ。」
「吉田くんはどんな仕事しているんだろう。機会が有ったら聞いてみよう。暇も嫌だけど忙しいのも辛いよね。大変な仕事をしているんだろうなぁ」
部屋に着いた吉田は
「もしもし、兄貴?オレ。あ、うん。今、部屋に着いたよ。うん、少し寝かせて。て言うか寝るから携帯電源切るよ。うん、じゃあ、また」
そう言ってスマホの電源を切り深い眠りについた。




