第11章 間違った絆
第11章 間違った絆
武が転職した先の喫茶店は、所謂ぼったくり占いの館だった。
価値の無いガラス玉や御利益など無いお札やお祓いを高額で売られていた。
口止め料として残業と言う名目で手当が付けられていたのだ。
早上がりの日に占いに来ていたお客と店を出るタイミングが重なった時が有った。
「ここに通う様になってから少しずつ運気が上がって来ているのを感じるの私。ついこの間まで何をやっても上手く行かなかったのに、お祓いをして霊魂が入ってるブレスレットを付け始めたら変わってきたの」
業者から1個100円前後で仕入れて10万円で売っているのだ。
その客は来るたびに受付の武へも差し入れをくれる配慮が出来る優しい人だ。
駅まで歩きながら耐えきれず武は口を開いた。
「このブレスレットの原価は売値の1000分の1もしないんです。霊的な才能も何もない自称占い師ですよ。もし運気が上がったなら、それはお客様の努力で変えた事になります。悪い事は言いません。もう喫茶店へ来て高額を払うのはやめてください」
「そうなの?どうして?そこで働いてるくせに」
「自分も最近入ったばかりなんです。知らなかったんです。そんなに人も来ないし月に3〜4人しか来ないので気づかなかったんです。少しずつ何かが変だなと思い始めてそれとなく廊下で会話を聞いたり防犯カメラを見ていて確信したんです。自分は近々辞めます。辞めるまでに、来たお客さんには全部伝えます。それがせめてもの償いだと思ってます。」
「そう....そうだったのね。ネットで検索すると当たる占い師だと言ってるし」
「そのネットをよく見てください。名前を似せてるだけで違うんです」
「なんだろう…店にも、あなたにも腹が立つわ」
頭を深々と下げて駅で別れた。
武はシフト休で子供達と公園に居た。
ゴムボールをポイっと投げては走って拾う姿やシャボン玉のストローを一生懸命吹いている姿。
「嗚呼...可愛いなぁ。」
子供に癒され心が満たされた。
翌日からも転職活動頑張ろうと誓い直した。
どこも決まらなければキャバレーやクラブのボーイでもいいと思っていた。
今の喫茶店よりまともなら給料が安くても
客は会社の社長やトップの人たちだ。
何かのキッカケで武の学歴と語学が堪能なのを知りヘッドハンティングされるかも知れない。
喫茶店へ行くと強面の屈強な男たちが何人かいた。
「甘い汁を散々吸っときながら何チクってんだ。
客から今まで払った金返さないと訴えるって何本か電話が来てんだぞ!」
「え...そ、それは...」
「営業妨害楽しいか?」
「お前を雇ったせいでコッチは飯食いっぱぐれるじゃねーか。
どう落とし前つけてくれんだよ、ああっ!」
「黙ってねーで答えろや!」
大ボスがひと言
「やれ」
武は屈強な男達に袋叩きにされた。
「今月までに二千万だ。用意出来なかったらお前の家族もこうなる。わかったな」
武が解放されたのは夜の9時を過ぎていた。
亘...頼む...「やばい事になった」LINEを送った。
このままでは自宅に戻れない。
ルミも子供も驚くだろう。
警察に言えば家族がどうなるか分からない。
奴らが捕まっても奴らの仲間に何されるか...
亘の借りている部屋まで歩いて行った。
「今日は亘の部屋に泊まるから心配しないでくれ」とだけルミにLINEを送り留守の亘の帰りを待った。
ようやく朝方酒臭い亘が帰って来た。
「兄ちゃん!」
「んぁ...亘」
「なんでこんな事になってんだよ!」
部屋へ入れて事情を聞いた。
「そう言うことか。どうすんの2000万」
「...。保険金がある」
「母ちゃんの保険金は兄ちゃんと俺の学費と部屋代で消えただろう。誰の保険金...あ...兄ちゃん...」
「ルミと子供たちを頼む」
「何言ってんだよ!人間死ぬ気になればなんだって出来んだよ!やめろよ兄ちゃん」
長い沈黙を亘が破った。
「言い終わるまで聞いてくれ。俺、今ホストしてるんだ。」
「わ、わたる...」
「助けて欲しくて俺んとこまで来たんだろ?
頼むから黙って聞いてくれよ」
「俺はホストをしている。入った月に1000万以上の売り上げを出した」
「今までずーっとだ。
客も他のホストより多い」
「どうでもいい客を渡すから兄ちゃんが今度は占い師になって巻き上げてくれ」
「俺が客の気持ちを弄ぶから
悩んでそいつらが
兄ちゃんに行くように流すから」
「そこで石でも何でも売ってくれ」
「誰に何を売ったかだけ連絡くれ。
その額によって俺が態度を軟化させる。
客は占い師のおかげだって思う。
そうやって月末までに作るしかない」
「そ..それは...」
「じゃぁ、家族も痛い目に遭えばいいのかよ。俺に出来る事はそれしか無いっ!」
「取り敢えず2000万用意して。
その後は引っ越してまともに生きていこう」
自分の命と家族の安全を天秤に掛け亘の案に乗った。
今だけ...家族のために。




