廚二病と、バリアフリー
(なるほど。神が言っていた四魔法――火や水が『一般的』なのは、それらが対象を『破壊』したり『付着』したりする外向きのエネルギーだからだ。対して、神聖魔法のような『内側に干渉する力』が『はずれ』とされるのは、この生体障壁を突破する難易度が高すぎるからか)
世の魔導師たちは、この障壁に阻まれて「治癒は難しい、効率が悪い」と諦めたのだろう。 だが、私にとっては願ってもない研究対象だ。
(拒絶されるなら、同調させればいい。波長を合わせるんだ。私の魔力の周波数を、この細胞の固有振動数に……)
私は再び目を閉じ、膝の細胞一つ一つが発する微細なリズムに、自らの魔力をチューニングしていく。 前世で何度も失敗した、実験機器のキャリブレーション(校正)作業に比べれば、自分の体との対話など、むしろ愛おしい時間ですらあった。
(今度こそ……リペア!)
光は漏れなかった。代わりに、じわりとした温かさが皮膚の奥へと染み込んでいく。
目を開けると、そこには青あざ一つない、真っさらな赤ん坊の白い肌が戻っていた。
(……勝った。やはり理論は裏切らない)
私は満足感に包まれながら、勝利の証として「ばぶー!」と高らかに声を上げた。
その時、執務室から出てきた父ヘンリが、廊下のあまりの輝きと、膝を指さして笑う次男の姿を見て、怪訝そうに眉を寄せた。
「……気のせいか。この家の掃除夫は、いつからこれほど優秀になったのだ?」
厳格な父の言葉に、私は心の中でニヤリと笑った。
お父様、それは掃除夫の仕業じゃありません。あなたの次男が、世界で最も効率的な『はずれ魔法』の運用方法を確立しつつあるだけですよ。
(廊下でのハイハイも、自分のケガもバリアフリーになりました。)




