理論は完璧だ
(そうだ、生産系の魔法が使えるのなら、フローリングの床もスベスベにできるのでは?)
(呪文を唱えるのか?)
しかし、
(呪文をとなえるのって廚二病みたい。はずかしい。ウィリアム兄の魔法の練習のときの「熱き豪炎の炎の聖霊よ我に力を与えたまえ、ファイアボール」って感じだよな)
と考える生後半年の赤子であった。
(まだ0.5歳なのだから、魔力は限界あるのかな、そもそも、まだちゃんとじゃべれないから呪文は無理、無理。とりあえず。イメージしてみよう。)
(まずは、木の感触を肌で感じて、木の構成をイメージしてみよう。この木の繊維をほどくイメージして、再構成する。)
(さあ、どうだ!?)
(おおっ!!手のひらから何となく、流れを感じる。)
が、魔力が弱すぎて、木の繊維がばらばらになっただけでした。
(これは、やばい。床が少しめくれてしまった。)
失敗だったが、これが最初の魔法だった。
(……待て、落ち着け。パニックは研究者の敵だ)
私は、ささくれたフローリングと、そこから剥がれ落ちた木材の繊維を交互に見つめた。
生後半年、体重数キロの赤子の体が、冷や汗でじっとりと濡れる。
前世の記憶にある熱力学の法則や分子構造の知識をフル回転させ、意気揚々と挑んだ初めての「生産魔法」。だが、結果は散々だった。
イメージしたのは、木の繊維の結合をナノレベルで解きほぐし、表面を鏡面仕上げのように再構成するプロセス。しかし、私の幼い体に蓄えられた魔力量――いわば「生体エネルギーのストック」が、その緻密な計算に全く追いついていなかったのだ。
結果として、魔法は中途半端に「結合を断つ」段階で力尽き、床の一部を「めくれさせた」だけで終わってしまった。
(クソッ……理論は完璧だったはずだ。だが、出力系が貧弱すぎる。これは、OSは最新なのにハードウェアが初期のマイコン並みという絶望的なスペック不足……!)




