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ポスドクは異世界イングランドで無双する  作者: 橋平 礼


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『洗礼』とステータス

二歳の初夏、私は図書室の窓から差し込む午後の光の中で、エースは小さな指で分厚い歴史書をめくっていた。


隣には、私の「教育係」兼「監視役」であり、屋敷のあらゆる実務を完璧にこなす老執事、セバスチャンが静かに控えている。


私はふとした疑問を口にした。


前世のゲーム知識や、この世界の構造を解析する上で欠かせない「数値」の問題だ。


「ねえ、セバスチャン。自分の強さや、どんな魔法が使えるかっていう状態……いわゆる『ステータス』を視覚化する方法はないの?」


セバスチャンは、私が二歳児とは思えない専門的なニュアンスを含めて問いかけたことに一瞬だけ眉を動かしたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべて答えた。


「おやおや、エース様。それはまた、随分と先を急がれますな。通常、それを見ることができるようになるのは、十歳前後に行われる教会の儀式――『洗礼』を受けてからでございます。神の祝福を授かることで、自らの魔力の属性が確定し、同時に己の能力を鏡のごとく脳裏に映し出す権能が与えられるのです」


「十歳……。この世界では、十歳で大人扱いになるのは少し早い気がするけど」


「左様でございます。ですが、我ら貴族にとっては、その数年が人生を左右いたします。早いうちに属性を知り、魔法の研鑽を積むことは、十二歳から始まる王立魔法学園への入学実技試験を勝ち抜くための、絶対条件でございますからな」


セバスチャンの説明は論理的だった。だが、研究者として「十年待て」と言われるのは、予算が降りるまで研究を止めろと言われるのと同じくらい苦痛だ。私は、セバスチャンが何気なく口にする「情報」の隙間を狙った。


「ところで、そのステータスを見るための『呪文』っていうのは、存在するの?」


セバスチャンは、私がただの好奇心で聞いているのだと判断したのだろう。あるいは、私という特異な幼児を試そうとしたのか。彼は芝居がかった仕草で、朗々とその句を唱えてみせた。


「それは……『水面に映る月のごとく、偽りなき姿の我が能力を示せ、ステータス・オープン』。これが、己の魂の記録を呼び出す鍵となる言葉にございます」(やっば呪文は廚二病だなー)


その言葉が耳に届いた瞬間、私の脳内では前世の理系思考が火を吹いた。


(……構文解析完了。一種の音声トリガーによる生体情報の出力命令か。教会が『洗礼』で何らかの権限を付与するのだとしても、魔力の回路自体が私の体にある以上、バイパスを通せば今すぐアクセスできるはずだ)


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