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ポスドクは異世界イングランドで無双する  作者: 橋平 礼


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イングランドの歴史

「セバスチャン、この国の歴史をまず教えてよ。」


「左様でございますか、エース様。二歳にしてこの国の血塗られたわだちに目を向けられるとは……。よろしい、老骨に鞭打ち、このイングランドの地が歩んできた数奇な歴史を、私セバスチャンが紐解いて差し上げましょう。」


「かつてこの地は、強大なローマ帝国の支配下に置かれ、『ブリタニア』と呼ばれておりました。北方の勇猛なる民を阻むため、ハドリアヌス皇帝が万里の長城のごとき防壁を築いたのは、今や遠い神話のようでございます。」


「やがてアングロサクソンの方々が移り住み、この地は『イングランド』と名を改めましたが、その後は海を越えてやってきたバイキングとの長く、激しい抗争の日々……。一時は彼らの軍門に降りましたが、バイキング側の内紛という、皮肉なお家騒動の隙を突いて独立を勝ち取ったのでございます。」


「その後、王権を縛る『マグナ・カルタ』が交わされるなど、力と法のせめぎ合いが続きました。スコットランドとの統一はいまだ成らず、海の向こうのフランスとは、実に百年に及ぶ泥沼の戦い……まさに『ちょっかい』と呼ぶにはあまりに重すぎる歳月を費やしたのです。」


「さらには、黒死病という絶望の病が民を襲いました。それを乗り越えた先に待っていたのは、我らランカスターの『赤バラ』と、ヨークの『白バラ』が王位を巡って激突する宿命の争い……。」


(そんな前から白バラと戦いをしていたのか、恨みもつのるよね。)


「現在は、イングランド国教会の宗教改革という激震の中、メアリ国王陛下が即位されましたが、国内は依然として魔法宗教対立の渦中にあり、混沌を極めております。」


「魔法宗教対立って?」(なんか、歴史が変ってきたな。)


「魔法宗教対立、ですか」


私が問いかけると、セバスチャンは複雑な色を瞳に宿して答えました。


「ええ。現在主流の『四属性魔法』と、忌避される『いにしえの魔法』との対立です。かつてはこの世界を支えていた生産、闇、召喚、神聖の四術こそが世界の礎でした。」


「しかし、即効性と破壊力を求めた戦乱の歴史の中で、人々は火・水・土・風を『神の恩恵』と崇め、一方で緻密な制御を要する古の魔法を『出来損ないのはずれ』、あるいは『不吉な呪い』として疎むようになったのです。現在はメアリ国王の即位に伴い、この魔法観の相違が教義の対立と結びつき、国を二分する混沌を招いております」


(……なるほど。単なる魔法の優劣ではなく、歴史的なパラダイムシフトと宗教が絡んでいるわけか。かつての栄光を奪われ、汚名を着せられた『いにしえの魔法』。神が私に託したミッションは、単なる技術の復興ではない。この歪んだ歴史そのものを、理系の論理で再定義しろということか)


私は幼い手で分厚い史書を閉じ、自身の内側に眠る「生産」の魔力に意識を向けました。世間が「はずれ」と呼ぶこの力こそが、停滞したこの世界を編み直す唯一の解答になるのだと確信しながら。




(歴史はちょっと違うけどゆるしてね。ローマ帝国の支配下に置かれたとき、北方の勇猛なる民を阻むため、ハドリアヌス皇帝が万里の長城のごとき防壁を築いたらしい。考えることは同じだね。)


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