進路希望調査
ある日の夕食。赤バラの紋章が刻まれた銀食器が並ぶ中、父ヘンリが威厳のある声を出した。
「ウィリアム。お前はこれから、何の勉強をするつもりだ?」
十歳になった兄、ウィリアムが背筋を伸ばして答える。
「はい、父上。四属性魔法のさらなる強化と、騎士団に相応しい兵法を学んでいくつもりです」
父は満足そうに頷き、次に、まだ幼児用の椅子に座っている私に目を向けた。その目はどこか面白がっているようだった。
「エース。お前はどうだ? まあ、まだ二歳だ。あと五年もすれば、お前にも四属性の適性検査を受けさせてやるが……」
「いえ、父上。私は今から、魔法の理論、そしてこの国の歴史と地理を学びたいと考えています」
食卓が凍りついた。 ベアトリス母様が持っていたスプーンを止め、父は目を丸くしている。二歳の幼児が「理論・歴史・地理」などという単語を、ポスドク時代の学会発表のような発音で口にしたのだから当然だ。
「……ほう。魔法の勉強、だと? 適性もわからぬうちにか」
「はい。現象を理解するには、まずその背景にある『構造』を知る必要がありますから。ですので、図書室の閲覧許可をいただきたいのです」
父は一瞬、呆気に取られていたが、やがて豪快に笑い出した。
「わっはっは! 二歳にしては随分な理屈をこねる。よかろう、図書室への出入りを許す。ただし、エース。本によだれをたらすなよ? 貴重な蔵書ばかりだからな」
「肝に銘じます、父上」
「それとセバスチャン」 父が背後に控えていた初老の執事を呼んだ。
「お前をエースの家庭教師につける。この小さな学者の知的好奇心に付き合ってやってくれ」
「御意に、旦那様。エース様、明日からよろしくお願いいたします」 黒を基調としたフォーマルなスーツを着た、口ヒゲをのばしたセバスチャンが深々と頭を下げる。
私は心の中でガッツポーズをした。 これで、この屋敷に眠る知識をすべて吸い尽くせる。 『はずれ魔法』の真の価値を証明するための、本格的な「研究」が今、始まるのだ。
(さあ、まずはこの世界の歴史を洗わせてもらおう。なぜ『生産』や『神聖』が蔑まれるようになったのか……その特異点を見つけ出してやる)
私は、給仕された冷めたスープを飲み干しながら、次なる実験計画を頭の中で組み立て始めた。
(執事の名前はセバスチャンなのは、なんでだろう?たぶん、アルプスの少女ハイジからのようです。)




