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8.会えなくなるから

いよいよ、合格発表の日。俺は両親と一緒に、受験した高校に貼り出される合格者の紙を見に行く。


「やったーー!」

「わー!ほんとよかったぁー」


あちらこちらから歓喜を叫ぶ声が聞こえてくる。俺は少しだけ緊張しつつ、人混みの中で背伸びするようにして自分の受験番号を探していた。


「201……202……204……あっ、207あった!」

「ほんと? どこどこ?」

「ほら、あそこ!」


両親よりも先に見つけた俺が指を指す。それを見つけると、両親は泣くようにして喜んだ。


「やったじゃない」

「おめでとう、蓮」


落ちていると思っていたわけではない。もちろん両親も同じ気持ちだ。だが、いざ見つけると喜びの気持ちがパッと一瞬のうちに広がる。数字を見てここまで人が喜ぶ瞬間はある意味ここくらいであろう。


「今日は好きなもの食べに行こう」

「おっ、やったー」


俺は晴れやかな気分のまま校門へと歩き出す。


「仕方ないわよ……。とりあえず一回学校へ行きましょう」

「……うん」


歓喜の渦に紛れていて気づかなかったが、肩を落とし誰とも話すことなく帰っていく者もそれなりにいた。数字のなかった者たちからすればこの、歓喜の渦はなんとも残酷で地獄のような時間だ。同級生と見に行かない方がいいと先生達が言っていたのはこういうことだろう。


そんな様子を見て、友人達の結果はどうだったのかとふと思った。クラスでそれなりに仲のよかった連中、昼休みにバスケを一緒にやっていたメンバー、卓球部のメンバー。


それと千夏。


千夏は頭もよく、成績も良い。普通に考えれば落ちるはずもない。だが、100%なんてことはない。こちらが受かったよ!だなんて報告を易々としていいものなのか。


「むずいな……」

「ん? どうした?」

「ううん。なんでもないよ父さん」


合格を他人へどう伝えるのかは、ある意味受験と同じくらい難しいのかもしれない。




ーーーーー


その日の夜、家の固定電話へと電話がかかってきた。相手は1年の頃からそこそこ仲のいい男子で同じ高校を受けた、優斗だった。


「もしもし……」

「あっ、もしもし。蓮はどうだった?」


特に前置きもなく、真っ直ぐに聞いてくる。


「うん……合格したよ」

「やっぱり、おめでとう。俺も合格したよ!」

「お、おめでとう」


相手の声の調子的に合格はしたと思っていたが、それは喜ばしいことだ。


「ってか、普通ちょっと遠回しに聞けよ」

「いや〜蓮なら絶対受かってるって思ってたし」

「お、期待に応えられて何よりだ」


そこからはくだらない話をして2分ほどして電話を切った。優斗とはまた同じ高校で学ぶことになるのか。話し相手に困らない分、苦労しないですみそうだ。

それにしても、案外真っ直ぐに結果を聞く方がメールならさっぱりしていていいのかもしれない。

そう判断した俺はパソコンの電源を入れて、メール画面を開いた。


「ん?」


赤い丸がメールの新着欄についている。これは新着のついている合図だ。意味もないのに緊張しつつメールを開くと、千夏からメールが届いていた。


ー合格発表どうだった? ちなみに自分は受かってた


末尾に顔の絵文字がついたシンプルなメッセージ。千夏は合格した。その言葉が書かれているだけで嬉しかった。

軽快にキーボードを叩き、メールに返信する。


ーおー!流石、おめでとう。俺は。なんと……驚くことに……合格しました!


ちょっとだけふざけた返事を送ると、2分でメールが返ってきた。


ーやっぱり。蓮だったら絶対受かってると思ってたよ。よかった〜!これで二人とも気持ちよく一人カラオケに行けるね!


色々とついている顔文字から楽しそうな様子が伝わってくる。これで心置きなく、一人カラオケを楽しむことができる。大きく伸びをしながら、椅子の背もたれに強くもたれる。


「でも、それが終わったら……」


晴れやかな気分に少しだけ雲がかかる。一人カラオケの予定が終われば、千夏と会う口実はなくなる。千夏は少し遠くの高校に通うことが決まった。もう、遊びに行くことも難しいかもしれない。まぁ、遊びに行ったことなんてないんだが。



そこから何度かいつも通りのくだらないやり取りが続く。高校の不安なことや楽しみなこと、友達の話。何度もラリーは続くが、心に何かが詰まったような俺は、話が余り入ってこなかった。


俺は、この先も千夏と話をしていたい。その気持ちが溢れて止めることができなかった。


震える手でキーボードを叩く。書いては消してを何度も何度も繰り返す。何を書いても陳腐に見えて、気恥ずかしくて、それでも今打たないと後悔する気がしてならなかった。


ーあのさ、千夏。変なこと言うけど、驚かないでね。俺さ、千夏のことが好きなんだ。


余計なメッセージをなるべく削ったメッセージ。震える手でエンターキーを強く押した。人生での1番の決心だった。



何度も更新ボタンを押して、新着メッセージを読む。1秒1秒がさっきまでやり取りをしていた時の何倍にも時間を感じる。


「あっ……!」


ついに赤い丸がメールの新着欄につく。高鳴る胸を抑えつつクリックする。


―それどういう意味? 急にどうした!?


ふざけている、というか敢えてふざけたような絵文字が多めのメッセージ。無理もない。突然言われたらそんな反応にもなる。それでも、今更引き返せない。


―そのままの意味だよ。好きなんだ、千夏のことが。


念を押すように、もう一度メールを送る。もう、どんな返事が帰ってこようが引き返せない。早く、1秒でも早く結果が知りたい。心が感じたことない感情で渦巻いている。


「蓮、ちょっと手伝ってー」


こんな時に、母に呼ばれる。明確な断る理由もない以上いくしかない。

立ち上がり、母の元へと行く。


「上の方の鍋とってくれない?届かなくて」

「わかった」


心に余裕がないからかどこかぶっきらぼうな言い方になってしまう。台に乗り、奥の方にある目的の鍋を取り出そうとした時、


"ガラガッシャーン"


ソワソワと焦ってしまったせいで手前にあったボウルを下へと落としてしまった。


「あーもう、何やってるの」

「ごめんごめん。当たってない?」

「うん、大丈夫だけど。やっぱり整理しないとダメね」


母が落ちたボウルを流しに置きながらそう呟いた。ここで無駄に焦っていても仕方がない。俺は鍋を取り出して母へと渡す。


「ありがとね」

「他は何かある?」


ボウルを焦って落としてしまった小さな罪悪感を誤魔化すために親切心を口にする。


「あー……今は大丈夫かな。またなんかあったら呼ぶね」


母が作業に戻るのを確認すると、少し早足で部屋へと戻る。

パソコンの画面は自動ロックされたのか暗くなっていた。マウスを動かし、パスワードを要求され、急いで入力する。


"新着メッセージが1件あります"


赤い丸が新着メッセージに表示されている。




ごくりと唾を飲み込む。マウスを動かし、クリックをする。

その時間は止まっているようなゆっくりと動いているような不思議な感覚だった。


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