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6.卒業式前日

3月。


受験が終わったことで教室はプレッシャーから解放され、教室はより騒がしくなっていた。

明日の卒業式の日程の確認と、自己採点をする。今日の日程はそれだけだった。


「自己採点何点だった?」

「やばい。終わったわー」


一喜一憂する割に全員声のトーンは明るい。後のことよりも今解放されたということの方がよほど嬉しいのだろう。


「ほら、静かにしてください!」


担任も緩んだ顔で生徒に呼びかけてみるものの、解放感、そして明日の卒業式で盛り上がっている連中には無意味極まりない。


一応、俺の結果はというと自己採点の限りでは問題なく受かるほどの点数は取れた。ま、あくまで自己採点。希望的観測な部分もいくつかあるし、油断はできない。あとは天命を待つのみだ。


ーーーーー



卒業式の練習を終えて、全員が教室に集まる。明日の日程と担任からの送る言葉。それなりにいいことを言っているが、クラスの連中は誰一人聞いていない。別に担任は悪いこともしていないのだが、中学生は反抗期真っ只中。理由もなく嫌っているのだろう。


「では、また明日」


「……あー長ぇ。マジで」


解散になった途端、全員が卒業アルバムとペンを持ちあちらこちらを回る。卒業アルバムの後ろにメッセージを書いてもらうのだ。


「蓮も書いて」

「あ、うん」


特に仲が良かったわけではないクラスメイトでも、卒業式というハイになった状態で誰かれ構わずに貰いにくる。別に嫌なことでもないし、頭の中で思い出やら応援メッセージやらを書く。


数十分、あらかた教室で書き終えると次は他のクラスを周り始める。廊下は生徒で溢れ誰がどこにいるかわからない状態。目と目があったら書いてもらう、何かのゲームのような状態だ。


「おっ、蓮。とりあえず書いてくれ」

「了解」

「ありがとう、俺も書くよ。卒業したらよ、もう会えんかもしれないからな」


俺は、ほとんどが寄せ書きで埋め尽くされた卒業アルバムを受け取り、ペンを走らせる。1年性の時、席が一度だけ隣になっただけ。特に仲がいいわけではないし、確かに卒業したら会うことはないだろうな。


ー卒業したら会えなくなるかもしれないからな



当たり前の台詞がなぜだか頭を回って仕方がない。クラスメイトも別に好きではない。それでも、多少なりとも会うことはなくなるというのは寂しいのかもしれない。


卒業したら、千夏とも……


「ほい、書いたぜ。めっちゃボケて書いたから後で読めよ!」

「ありがとう、俺のもなかなか傑作だよ」


卒業アルバムをお互い受け取る。まだ半分も埋まっていない卒業アルバムを見る。本当に貰いたい相手が俺にはいる。今は心からそう思った。

人混みを掻き分けて、千夏を探す。


「おっ、蓮!ねぇねぇねぇ、書いて」

「あ……うん。いいよ」


向かう途中に、何度か声をかけられてなかなか進むことができない。この卒業ムードの中、断るというのはなかなかできることではない。

寄せ書きを書いて書かれてを繰り返していくうちに、時間が経っていき辺りは暗くなってきた。なかなか帰らなかった生徒達もだんだんと減ってきていた。

まだ、千夏には会えていない。もしかすると、もう帰ってしまっているかもしれない。


「もう、いいか」


よく考えれば、ただの友達。寄せ書きをもらえなくても少なくても一人カラオケを一緒にいく約束はしている。あと1回は会える。



あと、1回は……


卒業アルバムを鞄に仕舞う。ガッチリとした素材のおかげで鞄の形が少しだけ卒業アルバムの形を作っている。

靴を上履きから靴へと履き替え、上履きも手に持って帰る。上履きももう履くことはない。何を取っても卒業式にあてられて感傷的になってしまう。


外に出ると、空気はひんやりとしていて、夜の冷たい風が頬に吹きつける。どこか爽やかなような、寂しいような。




「蓮! いた!」



弾むような声。振り返るとそこにいたのは慌てて靴を履いている千夏だ。


「おー。帰ったと思ってた」

「こっちもだよ。よかった〜」


卒業アルバムをこちらへと渡してくる。平静を装い、受け取りつつ、鞄からこっちも卒業アルバムを出して渡す。


「クラスと部活のメンバー回ってたら時間経ってた〜」

「まぁ、多いもんね」

「うん、でもさぁ1年のクラスで割と話してた人は書いて欲しいから〜」


別に特別なことは言われていない。それでも、なんだか嬉しくて心が弾む。


「メッセージふざけていい?」

「え〜ちゃんと書いて〜」


花壇で話していた時のように自然に話す。そのまま、メッセージを書き終えて卒業アルバムを返す。千夏の方も書き終えたようで返してくれた。


「後で読むよ」

「うん、読んでね。ねぇ、ちゃんと書いた?」

「ま、楽しみにしてな」


わざと揶揄うように笑ってみせた。結局、アルバムのメッセージは花壇の頃に話していた定番のボケの再利用したようなものを書いた。


「ありがとう、またねー」

「うん、またー」


そういうと千夏はまたどこかへ行ってしまった。

明日は卒業。卒業式の日は話す時間はまずない。それなのにまたねと言えるのは、特別な気もしていた。

千夏が去ったのをしっかりと確認した後、卒業アルバムを開き、ピンク色の丸文字で書かれている千夏のメッセージを読む。


ー「卒業だね〜。早い早い。2年クラスになって話せるようになって色々楽しかったよ〜。高校行っても頑張ってね。ちゃんと、部活行くんだよ?あ、一人カラオケ楽しみにしてるね〜」


終始軽い調子で書かれたメッセージ。いつも通りの会話。


「なんだよ、俺と同じでふざけてんじゃん」


特別なことが書かれていたわけではないけど、それでいい。俺は卒業アルバムを鞄にまた戻して校門を出た。


風は相変わらず冷たいくて寂しさもある。だが、どこか爽やかで、晴れやかな気持ちだった。

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