4.メール
12月になり、受験モードが一気に高まる。全員がどこかピリピリとした空気が教室に漂う。あれだけ去年まではうるさかった授業中と今はノートにペンが走る音しか聞こえない。
それと同時にもう一つ大きな変化が起こった。
「なぁ、携帯買った? 」
「うん、買った買った」
高校に向けて、スマートフォンを所持し始めたのだ。皆は勉強に明け暮れる中、塾で連絡先を交換し合い、メッセージアプリで交流をより深めていた。受験勉強の息抜き、くらいになっていればいいがのめり込みすぎそうでなぜこのタイミングで買い与えられているのかは俺にもよくわからない。
「なぁ、蓮は持ってる?」
「あ、ごめん。俺は持ってない」
「そう? 早く買えよな」
俺はスマホを持っていない。その理由は特に信念はないが、高校になってからでいいと考えていたからだ。それに、仮に持っていたとしてあの悪趣味なクラスのグループメッセージに入りたくもなかった。クラスの担任の顔に落書きをし、バカだなんて書いてあるグループアイコン。子どもじみていると言う言葉で片付けてしまえばそうかもしれないが、不愉快極まりなかった。
そして、昼休み。皆が勉強の話やら、塾の話を始める。別になんてことはないのだが、ここ最近は教室にいるのが息苦しい。外のベンチで一人で食べている方がよほど楽だ。
「あ、蓮」
外のベンチに向かう途中、友達と一緒に歩いている千夏に声をかけられた。
「やっほー」
「やっほ〜。ってなんのノリ」
「わからん」
無意味な挨拶のラリーをかわし、気にもならないが一応確認してみる。
「そういえば、千夏はスマホ持ってるの?」
「ううん。うちはまだガラケーだよ」
照れくさそうに苦笑いをする。
なんだかわからないが、少しだけその言葉が嬉しかった。
「ねぇ、蓮は持ってないの?」
「うん、持ってないよ」
「えーガラケーも? 」
「まぁ、持ってない」
大袈裟なほどに目を丸くする。そっちもガラケーなんだからそこまで変わらないだろう、という気持ちをぐっと押し殺した。
「そっかぁ。じゃあ、友達とかともとってないんだ?」
「でも、パソコンのメールは持ってるから連絡は取ろうと思えば取れるし」
よくわからない、張る必要のない意地を張る。
「そっかぁ。まぁ、メールはできるもんね」
「うん、連絡でもしてみる?」
我ながら意味のわからない脈絡のない提案。千夏は一瞬驚いた後に小さく頷いた。
「いいよ〜」
「へっ?」
想定外の返答に俺はまた素っ頓狂な声をあげた。
「いや、だって連絡が取れないと一人カラオケの時困るじゃん」
「あー………いや、まぁそうだけど」
ギリギリ道理の通っている。
「じゃあ、アドレス教えて」
「う、うん。待ってね」
俺はブレザーのポケットに入っていたメモの切れ端に自分のパソコンのメールアドレスを書く。バレない程度に、好きなアイドルの名前や曲名を文字ったアルファベットの羅列にの後ろにパソコンメールのドメインを書く。そこそこの長さなだけに、何度か確認をして、千夏に渡す。
「ありがとう〜。長いね」
「うん。長いよ、たまに間違える」
「変な人に届いたらどうしよう〜」
千夏は冗談めかして笑っている。
「まぁ、そしたらその人とやり取りしたら?」
「しないしない〜。とりあえず今日帰ったらメールしてみるね」
「了解。まぁ、勉強忙しかったら別の日でもいいよ」
「オッケ〜。蓮もね」
千夏はそういうと友達と一緒に歩いて行った。
俺も昼を食べるために外のベンチへと向かった。
千夏となぜか、連絡先を交換してしまった。なんなのかはわからないが、明るい感情が心の中を包む。
「ま、大して変わらないか」
12月になってから、周りにはカップルが多く生まれ始めていた。否応なしに少しだけ意識をしていないつもりでもしてしまう。
頬に吹きつける風は、冷たいような気持ちいいような。
俺は変わらずに弁当を口へと運ぶのだった。




